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デンカ青海工場の配管破裂事故を考える

デンカ配管 運転
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デンカ青海工場の配管破裂事故を考えます。

非常に痛ましい事故です。

二度と同じことを起こさないためにも、ここから少しでも学習したいと思っています。

最終報告書の中から気になったことをピックアップし、自分の会社でならどう考え対応するだろうということを整理します。

事故の超概要

最終報告書によると、事故の概要は以下の通りです。

事故は、2023年6月14日、デンカの青海工場田海地区工場クロロプレンモノマー製造
設備において、クロロプレンモノマー移送配管の一部更新(新規製作・取替)工事に際し、
工事の協力会社がセーバーソー(電動のこぎり)で対象配管を切断中にその約2.9m先の
配管が破裂し、作業していた協力会社の従業員3名が被災して、1名が死亡し、2名が負
傷したものである。

デンカ株式会社青海工場クロロプレンモノマー製造設備 事故調査 最終報告書より

セーバーソーで配管切断時に配管が破裂したという事故です。

配管はSUS304で、内容物はCP-NOxダイマーということです。

① スケール(付着物)は、CP-NOxダイマーと特定された。(下記 4-2 参照。)
② 配管のセーバーソーによる切断箇所は爆発しておらず、爆発箇所は、当該切断箇所
から約2.9m離れたエルボ部付近で起きた(このエルボ部を支えていたと推察される
工事施工会社従業員 A が被災)。
③ 当該爆発の着火源は、セーバーソーによる配管の切断時に発生した熱と推定する。
切断時にその刃先は150℃以上に発熱した
スケール(付着物)は、約100℃になれば発火する
④ 当該切断箇所から爆発箇所にかけての配管内にスケールが付着しており、爆発箇所
において多く付着していたと推定されることから、約2.9m離れたエルボ部で配管破
裂事故が発生した。

デンカ株式会社青海工場クロロプレンモノマー製造設備 事故調査 最終報告書より

これに対して危険性の調査や現実に起こったことの裏付けの検証をし、直接的な原因解析だけでなく間接的な原因にも踏み込んだ報告書になっています。

この辺りの内容は省略して、具体的な原因や対策として個人的に考えていきます。

ドライ窒素でブロー

燃える原因になった配管スケールは湿潤状態と乾燥状態で危険性が異なり、落つい感度・摩擦感度のデータが調査されています。

ドライ窒素でブローせずに湿潤状態なら問題なかったということですが、現場でこの指示を出すにはかなりの知識が求められるでしょう。

ドライ窒素でブローしてしまってもおかしくありません。

というのも、湿潤状態の液体が人に掛かってしまうと、それはそれで危険な可能性が十分にあるからです。

乾燥状態に持っていくという判断を、一般の危険物に対してなら行ってしまうので、このラインでも同じ流れでなされていても不思議ではありません。

ここに罠があったと思います。

プロセス的にはシンプルなので、内容物の危険性がしっかり理解された管理職がチェックしていれば、配管切断が熱源になる可能性に辿り着けたでしょう。

セーバーソーで切るくらいだから、配管外面を散水しながら、作業員は合羽やゴーグルなどの被液対策を取ることが、結果的には王道の対策となるでしょう(事故当時の保護具ってどうだったのでしょうね・・・)。

万が一、セーバーソーを現場で使わないといけないという判断をした場合、私の担当プラントではきっとこうします。

セーバーソーできるため配管が高温になる・配管内容物が高温で発火する

この2つの情報を同時に持っている人が、工事許可をする場所に居ないと防げません。

ところが、これこそが実に難しい所です。

  • 工事を依頼する製造側は、配管切断をどうやって行うのか施工会社側に任せていた
  • 工事会社側は、内容物が取り除かれた状態の配管に対して工事をするものと思っていた

この構図は多くの会社に当てはまるでしょう。

間を調整する工事部・工務部のようなポジションがあっても、実態としてはほとんど機能していないはずです。

内容物の危険性をどれだけ一般的な性質として表現するか、工事の危険性をどうやって表現するか、それを工事連絡会の短い時間でどうやって伝達するか。

この辺りが問題になります。

情報を提示する製造側に責任が問われるとはいえ、構造としては結構難しい部分があります。

スケールが発生しやすい

スケールが発生しやすい場所が限定的であることが、少し気になります。

流量計の出口周りのスケールが多いという結果だったようです。

なぜなのでしょうか?

そもそも流量計の種類は何だったのでしょうね。

流量計が渦・容積・面積などの配管内部に詰まる原因となるものが付いているタイプだったり、コリオリなどの配管径が小さくなるタイプで詰まりやすかった?

それとも流量計周りの配管口径が太くて、流速が小さく詰まりやすかった?

いくつか原因が考えられますが、スケールが部分的に発生することに対する対策は考えておくべきでしょう。

そこの対策がすぐにはできないけど現実的にできることとして、配管の交換をしようとしたときに起こった事故なので、残念と言えますが・・・。

配管設計に課題?

配管設計には残念ながら課題があると思います。

セーバーソーで切らないといけない配管、という点が引っかかっています。

配管自身は8mくらいとのことなので、4mのSUS配管を2本つなぎで接続することは、現場のような屋外のラック上であれば普通に実施することでしょう。

フランジ数を少なくする方が、空気の漏れ込みが無くなるというメリットもありますからね。

でもセーバーソーで切らないといけないような配管だったのでしょうか?

8mの配管の両端に向きの違うエルボがそれぞれ付いていることが、1つの課題に思っています。

エルボの向きが違う1本もの配管であるがゆえに、現場で外そうと思っても周囲配管と干渉して取れない。だからセーバーソーを使った、という可能性を気にしています。

であれば、エルボの手前の直管部でフランジを入れることを、私なら考えます。

溜まりが起きそうな直管部を取り外して、一直線に確認できるようにする、という意図からです。

改造案ではフランジを真ん中に1個入れる案のようですが、これで配管が外せる環境でしょうか?

直管にエルボは1段だけ付けることで、両側から点検できるようにするということは賛成です。元の案ではエルボが2段ついているので目視点検できないですからね。

エルボも曲げを少なくするような取り組みが必要になるでしょう。

他にも、GL+4730からGL+3730に曲げる部分も、曲げを最小化できなかったのかなど気になります。

とはいえ、以降のルートでもいっぱいエルボがありそうなので、そこの点検をどうするかの方が根が深い問題の気がします。

参考

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最後に

デンカ青海工場の配管破裂事故を考えました。

ドライ窒素のブローはかなり気を付けないと、実施してしまいそうになります。

スケールが発生しやすい場所の原因解析と、配管設計の課題は今後も残ると思います。

こういう問題が起きたときに運転や許可した人が話題に上がっても、設計が話題になることは実は少ないです。

その割に、設計で回避できたり改善できることは多いので、自分事として考えてしまいます。

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