グラビティコンベア(Gravity conveyor)について解説します。
工場で世間一般にもっとも使われているコンベアをイメージすると良いでしょうか。
とてもシンプルな構造です。
化学プラントでもドラム缶・フレキシブルコンテナなど様々な重量物を搬送するために使います。
空間設計のエッセンスが詰まっていますので、基本的な設計方法は理解しておきましょう。
いわゆるマテリアルハンドリングの部類で、エンジニアリングとして疎かにはできない要素です。
狭い化学プラント
グラビティコンベアの設計はとても簡単に思うかもしれません。
何となく設置しておけばいいだろう。ダメだったら買いなおそう。
そういうエンジニアは割と多いです。
でも化学プラントのような狭い場所では、グラビティコンベアの設計ですら割と詰めないと成立しない場合があります。
今回対象にしている設置場所は以下のような特徴を想定しています。
- 200Lドラム缶の搬送
- 10m程度の搬送
- 設置高さの制約が大きい
- できれば安全対策も
- 室内での運搬
- 水や薬液はコンベアにかからない
- コンベアに傾きは付けない
- 複雑な稼働機構は設けない
搬送物
今回の搬送物は200Lドラム缶です。
ドラム缶1つを取っても色々な種類がありますが、今回はごく一般的な物にしましょう。
径 | 585mm程度 |
重量 | 200kg程度 |
この情報だけで設計していきます。
設計元となる仕様が少ないからこそ、簡単だと思われるかもしれませんね。
コンベア(Gravity conveyor)サイズ
まずはコンベアサイズを決めていきましょう。
ローラー幅
ローラー幅は、コンベア設計で最初に決めれる部分でしょう。
搬送物である200Lドラム缶の径585mmに対して、ローラー幅は+50mmくらいの長さを見ていればいいです。
585+50=635mm
となります。
この635mmでメーカーが製作してくれることはほぼありません。
メーカーの標準から選定していきましょう。
50mm刻みや100mm刻みで標準化されているはずです。
ここではキリよく700mmにしておきます。
コンベアサイズをできるだけ小さくして作業性を向上させたいか、もう少し大きな搬送物も取り扱うために大きめにしておくのか、設計思想が分かれるところです。
ローラー径
ローラー径はローラーの耐荷重に関連します。
ローラー1本に搬送物全荷重が掛かっても耐えれる設計にしておくと良いでしょう。
というのも、コンベア先端で搬送物を外部とやり取りするときに、ローラー1本だけに全荷重が掛かる場合があるからです。
200Lドラム缶で水が入っているケースを考えて200kgとしておきましょう。
廃油の場合、比重が1より小さいので例えば160㎏(比重0.8)としてしまうかもしれませんが、結果は大差ありません。
汎用性を考えるなら、少なくても水でも耐えれるようにしておく方が良いでしょう。
排水の場合には比重が1を超えることは普通にありますので、1でも不安になるくらいです。
メーカーによってはローラー2本で支えるという考え方もあるようです。そもそもローラー自身に耐荷重の安全率を見ているので、1本で200㎏というのはオーバースペックになるかもしれません。ここはメーカーと個別に相談する事項でしょう。
ローラーピッチ
ローラーピッチは搬送物がローラー4本程度で受けれるようにします。
200Lドラム缶の径が585mmなので、ローラー4本(3ピッチ)で受けるときは
585/3=195mm
となります。
ローラー幅と同じで、メーカーの標準から選定しましょう。
ここでは150mmとしておきます。
ローラー長さ
ローラー長さを決めます。
ローラー長さの設計は多少の自由度があります。
10m程度のコンベアが必要だという条件であっても、mm単位で細かく決める必要はあまりないでしょう。
この場合、ローラーピッチの整数倍にしておくと設計がしやすいです。
上の図の例では、ローラー8本で構成されたコンベアです。
8本ローラーの間のピッチは7個分で、コンベア両端にフレーム部分が残っています。
このフレームをピッチの半分にしておくと良いでしょう。
ピッチが150mmで考えているので、
150*7(ローラー内のピッチ)+150/2(ローラー末端)*2=150*8=1200mm
という感じです。
グラビティコンベア1本で10mの搬送を構成することはほぼ不可能で、いくつかのコンベアを組み合わせてセットします。
この時に、末端部の長さをピッチの半分にしておくと、2個のグラビティコンベアをセットした瞬間にピッチを合わせることができます。実際には数mm長くなりますけど・・・。
10m程度の搬送が必要なので、1.2mのコンベアを8個準備して
1.2×8=9.6m
というように最終的には決まります。
ピッチが150mmで決まっていて10mにできるだけ近づけるには、150mmの整数倍を考えてコンベアのセットを考えると良いでしょう。
ピッチ | 本数 | 本数 | コンベア数 | 1コンベア長さ |
---|---|---|---|---|
150 | 64 | 9600 | 8 | 1200 |
150 | 64 | 9600 | 4 | 2400 |
150 | 66 | 9900 | 11 | 900 |
150 | 68 | 10200 | 4 | 2550 |
目標とする長さだけでも数パターン考えられ、全長が決まってもコンベア数を変えることも可能です。
コンベアの清掃を考えて取り付け取り外しができるように、1コンベアの長さは短い方が好ましいです。
1mのコンベアでも20kg程度になりますので、とても重たいです。
コンベア(Gravity conveyor)の設置位置
グラビティコンベアの設置位置としては高さだけ考えます。
直置きと埋め込みを考えます。
直置きと埋め込みの違いは、明らかでしょうか。
- 直置きは、コンベアへの搬送物の上げ下ろしで段差が発生する。
- 埋め込みは、穴を掘ったり排水・溜まりの処理が必要になる。
直置きの方が楽なので、できれば直置きが良いでしょう。
プラントサイズの問題で高さが十分に取れない場合には、埋め込み型は重宝されます。
一般的にイメージされるコンベアなら脚を付けて高さを取るでしょうが、ドラム缶のような重量物になると転落の危険性があるので、避けた方が良いです。
コンベア(Gravity conveyor)の安全対策
グラビティコンベアの安全対策としてメジャーな2つを取り上げます。
板
ローラーとローラーの隙間に板を設置します。
これは直置きや埋め込み型で、人がコンベアを跨ぐケースを想定しています。
ついうっかりローラーに足を乗せてしまって、転倒というパターンです。
板があることで、ローラーに足を乗せる確率を下げることできます。
板を付けたからといって、ローラーに足を乗せると転倒することは同じです。
そもそも跨ぐという可能性がない方が好ましいです。
ガイド
搬送物がコンベアからはみ出て転落することを防ぐ目的で、ガイドを付けることがあります。
上の図のようにアングルでガイドを作るケースとパイプで作るケースがあります。
搬送物の転落という意味ではどちらも機能します。
ただし、上の板との併用はあまりお勧めしません。
人がコンベアを跨ぐときにはガイドが邪魔になって、躓く可能性があるからです。
仮につけるとしても色を変えるなど注意喚起が必要でしょう。
コンベア(Gravity conveyor)の材質
コンベアの材質としては、鉄・アルミ・ステンレスなどが考えられます。
化学プラントなら一般的には鉄を使うでしょう。
異物混入の防止を目的に錆が発生しにくいアルミやステンレスを付けても良いのですが、おそらく気休めに終わります。
というのも、室内を通る配管・ダクト・配線・サポートが鉄で錆を発生させる要素となるからです。
それならコンベアの錆びをこだわっても仕方がなく、汎用的な鉄でいいでしょ?という考えです。
この辺は、設計思想的に分かれる部分なので、ステンレスの方が安心感があるかもしれませんね。
参考
最後に
グラビティコンベアでドラム缶を搬送するときの設計思想についてまとめました。
狭い場所での搬送が求められる化学プラントでは、コンベアの設計をそれなりに詰めて考える場合もあります。
設計思想はメーカーのカタログにも載っていますが、それを実務で適用するときに抑えておきたい基本をまとめています。
プラント建設では、コンベアの要素が設計を左右することもありますので、しっかり考えたいですね。
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