化学プラントで使う抽出(liquid extraction)について、現場レベルで知っておきたい簡単な知識を解説します。
化学工学で必ず学ぶことですが、反応操作のようなメインプロセスで登場するよりはサブプロセスとして登場することが多いです。
それが洗浄。
洗浄には抽出操作の要素が入っています。
![](https://neoneeet.com/wp-content/uploads/2022/08/avatar20220813222704-e1660397970161.jpg)
抽出って特殊だから知らなくていい。
というわけではなくむしろ、化学プロセスのほぼすべてに登場する操作です。
抽出を丁寧に扱うかどうかで製品の品質は変わってくるので、概念は理解しておきましょう。
反応後の後処理
抽出とはそもそもどんな操作でしょうか?
コーヒーやお茶のパックに対して抽出という単語を使いますよね。
これは固液抽出というカテゴリーです。
固体 | コーヒー豆 |
液体 | お湯 |
この場合の抽出というと、コーヒー豆からお湯に一方的に物が移動しているように見えます。
というよりそこしか着目していません。
ですが抽出というのは相互作用です。
お互いに抽出し合っています。
固体 | コーヒー豆 | → | コーヒー豆が湿る |
液体 | お湯 | → | コーヒーができる |
コーヒー豆から成分を抽出したお湯は無事コーヒーとなります。
一方で、コーヒー豆自身はお湯を吸い取るという意味で抽出をしています。
コーヒー | お湯 | コーヒー | お湯 | |||
固体 | コーヒー | 10g | 0g | → | 9.7g | 0.1g |
液体 | お湯 | 0g | 100g | → | 0.3g | 99.9g |
こんな感じでお互いに成分が移動し合っています。
これを専門的に分配比と言います。
分配比の発想を使って化学プラントでは、プロセス反応の後処理などを行っています。
今回は油層中にある固形分を水層に抽出するという視点で、例を紹介します。
分配比 = 水層中の固形分濃度 / 油層中の固形分濃度
という関係式で分配比を9と固定しています。
抽出の具体例
簡単な例を使って紹介しましょう。
反応が終わって油層中に固形分が残っているケースです。
油層10m3中に固形分が1000㎏あります。
![分配係数9(liquid extraction)](https://neoneeet.com/wp-content/uploads/2021/12/image-50.png)
この固形分は余計な物なので除去しないといけません。
水を使った抽出操作によって除去しようとします。
水層中の固形分濃度 / 油層中の固形分濃度 = 9 なので、水層の方に多くの固形分が移るという系です。
分配比が1以下なら、油層の方に固形分が残ることになります。
これを30m3の水で抽出しますが、以下の2ケースを考えます。
- 分割抽出 10m3の水3回で抽出
- 一括抽出 30m3の水1回で抽出
先に答えを言いますが、分割抽出の方が効果的です。
分割抽出
先に分割抽出を見ていきましょう。
10m3の水を3回に分けて注入したとしましょう。
![3回抽出(liquid extraction)](https://neoneeet.com/wp-content/uploads/2022/02/image-55-1024x175.png)
3回分割抽出をした場合の、油層中の固形分は1kgになりました。
1000kgあった固形分が1kgまで除去できましたね。
1000kg→100kg→10kg→1kg
と抽出を繰り返すごとに1桁ずつ下がっています。
これは簡易計算のために分配比を9にして、抽出される液と抽出する液を等しくしたから。
厳密な定義や計算式は省略しますが、2物体を固定して液量も固定すると分割抽出の回数が増えると同じ割合で抽出できると期待できます。
一括抽出
次は一括抽出を見てみましょう。
今回は30m3の水を1回注入して抽出しましょう。
抽出前は以下のとおり。
![1回抽出(liquid extraction)](https://neoneeet.com/wp-content/uploads/2021/12/image-52-1024x207.png)
抽出後は36kgの固形分が油層中に残っています。
分割抽出では1kgしか残っていない固形分が、一括抽出では36kg。
36倍も違いますね…
水の量が3倍多いため1回あたりの抽出量は多いのですが、結果的には分割抽出よりは効果が低いです。
まとめです。
![まとめ(liquid extraction)](https://neoneeet.com/wp-content/uploads/2021/12/image-53.png)
洗浄
この抽出の概念は設備洗浄で使います。
設備洗浄では溶媒洗浄や水洗浄をそれぞれ複数回実施します。
1回で実施しないのはタンク容量だけの問題ではなく、分割洗浄の効果を狙っています。
これを発展させると常時流し続けるという思想になります。
例えばポンプの工事前の洗浄で水を一定時間流して洗う場合が典型例。
薬液が皮膚に付いた時に一定時間水で洗い流してくださいと指導されるのも、分割抽出の応用です。
トピックス
化学プラントでの抽出にまつわるトピックス的な話を紹介しましょう。
抽出は溶解度とは違う
抽出が溶解度に依存すると勘違いする人がいます。
厳密には違います。
例えば固体と液体の関係でいえば、溶解度は単一の液体に対する固体の溶解する割合と言えるでしょう。
抽出は異なる液体どうしに対する固体の溶解する割合です。
抽出は液体が2つ以上あることが条件です。
この2つの液体の組み合わせと抽出される物によって抽出性能は変わります。
もちろん、個々の溶解度が分配比に影響を与えることは確かですが、相互作用分があります。
化学プラントのエンジニアがそれ以上知る必要はあまりありません。
というより、私も知りません(笑)
温度に依存
抽出は物体や量だけでなく温度にも依存します。
溶解度という見方をすれば温度が高い方が溶解度が高くなりますが、抽出はどうでしょうか?
これはかなり微妙な話です。
温度が高いことによって油側に溶けようとする割合も高くなり、水側にも溶けようとする割合が高くなるからです。
これは実験でデータを取って、最適値を決めて運転をしないといけませんね。
バッチ運転の場合、洗浄液の温度自体が季節要因を持ちますので温度調整を都度しないといけない手間があります。
速度に依存
抽出の性能は時には撹拌性能に依存します。
撹拌速度が速い方が混じり合いやすいので、速い方が良いですよね。
インバータ付きの撹拌機なら速度調整ができますが、コスト削減目的で商用電源のみの攪拌機を付けているケースがあるでしょう。
バッチ生産の工程と撹拌機の数を考えると、撹拌速度を下げる方向で調整しなくていい抽出操作などは商用電源でガンガン回すケースが多いです。
参考
液液抽出は化学工学の話です。
機電系エンジニアとしても重要な知識ですので、しっかり理解したいです。
以下のような本がおススメですよ。
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最後に
化学プラントで使う抽出を液液抽出を例に紹介しました。
分配比・分割抽出の概念を説明しています。
プロセス後処理や洗浄で使います。
溶解度とのちょっとした関係・温度や速度に関する話も含めています。
化学工学的な内容ですが機電系エンジニアも知っておきたいですね。
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