単純更新とはいえ既存の設備を単純コピー(simple copy)するとダメな理由を言語化してみました。
設計の思想的な部分の話をします。
昨今の日本では、プラントを更地から一式建設する仕事は少なく、良くて既存の拡張、大抵は既存設備の単純更新です。
単純更新の仕事ばかりを5年10年と繰り返す運の悪いエンジニアも普通に居ます。
というのも、単純更新だと自分のオリジナルをプラントに加えにくいからです。
一定の期間を単純更新に費やして、いざ大型プロジェクトを行うと戸惑ったり失敗したりします。
責任回避がしやすい
単純コピーをしているエンジニアは責任を取らなくても良いと思っています。
既存が○○だから、更新後も○○にした。
こんな風に言っていれば基本はOKです。
長年使っていた設備であれば、既存仕様で大きな失敗はしませんからね。
でもこの思想は設備保全エンジニアのもの。
設備設計エンジニアがこの思想なら、別に設備設計エンジニアでなくて設備保全エンジニアが担当すればいいだけ?と思います。
最適設計の思想が身に付かない
化学プラントの機械設備は基本的に改良の余地がほとんどありません。
土建設備も同じです。
電気や計装ならDXという追い風があって改良の余地はまだまだあるでしょう。
機械設備は、私が入社した15年くらい前からほぼ全くといって良いほど進歩がありません。
技術が成熟化しています。
化学工学・材料力学・伝熱学・流体力学などの学問を駆使した技術。
何かの機能の性能を上げようとすると別の性能が下がってしまう。
そんなトレードオフの関係ばかりです。
金額・納期・品質・寿命など何かを犠牲にしてしまいます。
これは最適設計という設計思想でもかなり大事な部分の話。
何を重視するかというエンジニアリングの優先順位の設定はエンジニアの重要な素質です。
これを磨く機会は単純更新の業務でも山のようにあります。
- 過去の設計は何を重視していたか
- 今の設備はどんな使い方をしているか
- 現在の事業環境で大事なことは何か
こんなことを考えながら、既存設備と自信が設計する設備を戦わせる場が、単純更新の設計業務です。
最適設計なんて複雑で難しい!
既存と同じ!
チャレンジ精神が育たない
既存の単純コピーばかりしているとチャレンジ精神が育ちません。
失敗はできるだけ避けたいのが化学プラントですが、そこばかり強調されがち。
結果的に怖くなった若手が単純コピーに走って、それなりに成果を出していると・・・
このまま単純コピーで良いのでは?
と勘違いしてしまいます。
競争相手が少ない緩い会社ならこれでも良いでしょう。
少数精鋭の機電系エンジニアなので、よほどの失敗がない限りは出向などないでしょう。
新技術を導入する抵抗勢力が増えると、少数の人が新技術を導入しようとしてもなかなか進みません。
結果的に、組織としては現状維持を続けることになります。
泥沼にはまった状態です。
メーカーと議論できない
今では珍しくなったのですが、メーカーと議論するには新技術が最適です。
既存と同じ~という話ばかりしていると、オーナーエンジが思考放棄すると同じくメーカーも思考放棄をします。
A社はBという仕様の物をとにかく作って供給すればいいのだ!
っていう固定マインドができあがります。
それが長年続くと、謎のA社仕様ができあがります。
時間が経つほどユーザーもメーカーも、良く分からないままその仕様を使い続けます。
ここで疑問に思って議論できる人はまだ救いがありますが、既存コピーに浸りきっていると疑問にすら思いません。
メーカーと議論することすらできなくなります。
弊部にも実際に存在します。
これで技術者と名乗っていいのでしょうか・・・。
先輩を神格化し過ぎる
既存コピーをし続けていると先輩を神格化し過ぎることになります。
C先輩の設計したものは完ぺきなロジックだ。反論できない。
こうやって自身の中で思うだけなら勝手な話ですが、他社と議論している時に
これはC先輩の設計思想だから間違いないです。
っていう風に主張し始めます。そして、残念なことに、
ローカルな工場ほどこの主張が通ってしまいます。
便利ですC先輩。
そう思った若手エンジニアはC先輩ロジックを巧みに使いこなすでしょう。
単なる模倣なので表面的なところしか見れません。
実はC先輩がそこで設計したときには、何らかの妥協があったかもしれません。
- 忙しくて細かいことは考えれなかった。
- その当時なら、供給が安定していて作れた。
こんな背景は結構あるのに、それを全部無視してC先輩だからの一言で片づけようとします。
- C先輩が若い時に設計したものではないですか?
- C先輩が鬼のように設計案件を抱えていた時に設計したものではありませんか?
- C先輩が課長クラスになってプレイングマネージャーでやる気なく設計したものではありませんか?
その人が設計したと言っても色々な背景があります。
この考え方を残すのが設計書だったりしますが、さすがに残せない思想もあるでしょう。
だからこそ行間を読むというスキルがエンジニアにも必要です。
単純コピーで先輩の設計と戦うということは、この行間を読むことそのものです。
プラント設計思想を持とうとしない
単純コピーで更新してばかりだと、プラント設計思想を持とうという気は起きなくなります。
プラントエンジニアとしては最終的には自身の思想がふんだんに入ったプラントを建てたいと思うモノ。
その思想を育てる場として使えません。
責任回避と似たようなニュアンスですがちょっと違います。
自分が考えて設計した品を納めた場合、その成果を確認しようと思います。
オーナーエンジならこれがすごく簡単。
現場に行って聞けばいいだけ。
これはオーナーエンジの特権です。外部プラントエンジ会社では普通は無理です。
設計に関するPDCAを回せる場にいながら活用せず、プラント設計思想を磨こうとしないのはかなりもったいない話です。
他人に説明できない
単純コピーばかり続けていると、設計業務を他人に説明する能力を磨けません。
他人というか部下という方が良いでしょう。
部下を育てるなんてことはできないでしょう。
甘い環境で会社を辞めさせずに一定期間抱え込む戦略としては有効でしょうが。
単純コピーばかりの上司についてしまった若手は、会社人生をかなり損していると思います。
参考
最後に
化学プラントのエンジニアリングで既存の単純コピー設計が駄目な理由をまとめました。
責任回避ができる・最適設計の思想が身に付かない・チャレンジ精神が育たない・メーカーと議論できない・先輩を神格化する・プラント設計思想を持とうとしない・他人に説明できない
要はエンジニアとしては成長しないってことですね。
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