化学プラントの機械設計では使うエンジニアリング資料(engineering document)を紹介します。
設計とは必要な情報を集めて最適解を見つける作業とも言えます。
化学プラントのように歴史の古い業界では膨大な量の設計情報があります。
その検索や収集だけでもかなりの時間が掛かります。
実際のエンジニアリングでどんな情報を活用するかを紹介します。
社内標準
社内標準とは言葉どおり社内で決めた標準資料です。
- 標準図
- 標準フローシート
- 標準配管スペック
- 標準設計書
初心者が設計するときは、まずはこれら標準グッズを見ていきましょう。
言うのは簡単ですが、意外と実践できている人はいません。
これくらいの思考ルーチンで何とか対応しようとするエンジニアが本当に多いです。
この2の段階で社内標準を探そうとするエンジニアが非常に少ないです。
いくら社内標準を頑張って作っても使わなければ意味がない。
大企業ほど多くのコストを掛けて標準化を進めていき、膨大な量をパッケージとして作ります。
これを社員に公開して終わり。
- 基準を作るのは大変だが勉強になる
- 初心者も悩まずに済む
- 社内で設計の品質を均一化できる
こんなメリットを打ち出すことでしょう。
紙の膨大な資料を誰が読むというのでしょうか・・・。
紙だと大変だと気が付ついて電子データ化しても、検索ができなかったりフォルダ分けができていなかったり。
使う人のことなんて考えずに基準という形を作ることだけが先行してしまいがちです。
標準資料を作るにはスキルを持った人が必要です。
忙しいエンジニアの中から標準化を進めれる人を抽出する余裕がある会社なんてほとんどないと思います。
外部基準
外部基準とは言葉どおり社外の資料ですが、例えば以下のようなものです。
バッチ系化学プラントではこの2つを抑えておけば大丈夫。
ASME・DIN・GBなどの規格やGMPなどの指針類も使う場合はありますが、かなり例外的。
JISだけでもほぼ全ての設計に対応できます。
それくらいJISは強力な設計資料です。
JISには膨大な基準があり、危険物タンク1つを取ってもいろいろ基準が関わります。
JIS B 8501だけも関連基準として40以上の基準がリンクされています。
圧力容器構造規格も消防法もエンジニアリングでは欠かせない基準ですね。
トラブル情報
大きな会社だと過去のトラブル情報を一元管理する仕組みを持っていたりします。
トラブル情報は社内と社外の2つに分けれます。
社内トラブル情報をまとめていて簡単に検索できる状態にシステムを作っている会社は少ないでしょう。
社内標準と同じ問題ですね。
社内のトラブル情報を集めるだけでも専任の管理者が必要。
社外情報はネットで検索すればある程度は出てきます。
とはいえこれは非効率です。
社外情報は世間一般的な情報としては有効ですが、社内の特定のケースに抵抗できるかどうか分からないからです。
情報量が多くて使い切れないという問題もありますね。
社外情報のうちから社内で使えるものを集めるというだけでも専任の管理者が必要。
検索に頼りすぎない
ネットで情報が容易に入手できるようになった現在。
検索に頼るエンジニアも多いでしょう。
ここで勘違いして欲しくないことですが、ネットで調べれば何でも出てくるということ。
圧力容器構造規格や消防法も確かにネットで検索すればヒットするでしょう。
でも検索で出てきたワードだけで情報が完備されるわけではありません。
検索ワードに依存します。
ネットで何でも出てくるというのは、IT系が流行ったときにインフルエンサーが強調し過ぎています。
パソコンで解決するIT系なら、それはネットの情報が信頼性も速度も高いのは分かります。
ところが古い製造業では紙の資料がまだまだ残っていて、それを電子化して誰もが使える環境を構築するだけでも膨大な労力を使います。
こういう事情を知らない若手や初心者は、ネットで調べれば良いだろうと勘違いします。
大学での研究や勉強でも同じようにしてきたのでしょうか・・・不思議です。
プラント配管ポケットブックすら持っていないエンジニアとか、私からしたら信じられません(笑)
全体像の把握
ネットでの検索と似ていますが、全体像の把握をしようとする力はとても大事です。
読書で最初のページから精読していくのが良くないと、最近はとても強く言われますよね。
高校くらいまでの勉強では前から順番に時間を掛けてじっくり読めばよかったでしょう。
この訓練に慣れ過ぎた人は、読書にとても時間を掛けてしまいます。
だからこそ情報を調べても読むのが面倒になり、次第に調べようともしなくなります。
そして、時間が掛かりすぎるので周りの人に聞く、と。
どの情報源から調べるかと同じように、ヒットした情報源のどこをどうやって調べるかというのも大事です。
前からじっくり読むのは小説など楽しんで読む書に限定しましょう!
圧力容器構造規格や消防法なら、基準の体系を先に勉強しておかないといけません。
体系も知らずに検索して条文を1つ見つけて終わり、ではさすがに問題です。
社内ロジック
エンジニアリング資料と同じ位置づけで社内ロジックも大事な要素です。
社内の各部のエンジニアが集まって、プロセス安全の確認会議をしている時に、
大気圧タンクの加圧側はどれくらい耐えることができるか?
という話題が出たとしましょう。
こんな話題が出たとき、あなたはどうしますか。
- 真面目に強度計算をネットで調べて入力しますか?
- EXCELで計算プログラムを作って調べますか?
質問の状況にも依りますが、一般には時間の無駄になることが多いです。
こんな場合は、社内でよく使われるロジックを使って回答する方が良いです。
機械以外のエンジニアにとって、タンクの強度計算をして最大強度がどれくらいかを求めるシーンはそんなに多くはありません。
特に、大気圧タンクは世の中に一般的に作られていて、いまさら議論するほどの価値はありません。
一般的にどれくらいの値かを知ってさらに対策が必要かというような流れで話題になったとき、時間を掛けて真面目に取り組んだとしても費用対効果はとても薄いです。
これが機械エンジニア同士で詳細に検討する場合は多少違うでしょう。
でもオーナーエンジニアで強度計算を厳密にできる人は普通は居ません。
外部製作メーカーに依頼するでしょう。
求められる回答がどういった性質のものかを知ることで、必要な情報の取り方も変わってきますね。
参考
最後に
化学プラントの機械設計で必要なエンジニアリング資料の種類と使い方について紹介しました。
社内標準・社外基準・過去のトラブル情報と分かれます。
資料が膨大でネットでの検索を重視しますが、体系を知ったり情報の斜め読みなど調べる本人にスキルが必要です。
もっと大事なことは社内ロジックですね。どんな回答が必要かはケースバイケースです。
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