高級金属(corrosion resistant metal)について解説します。
化学プラントで使う腐食性の高い怪しい液体に耐えるための高耐食性の金属は、設備設計で絶対に考えないといけないことです。
一般的にはハステロイ、チタン、タンタルなどが有名で、特にハステロイは使用頻度が年々増加していっています。
それぞれの特徴をざっと理解していきましょう。
バッチ系化学プラントのエンジニアの必須スキルですね。
高級金属は値段も納期も耐食性も高級!
ニッケル基合金
高級金属というときニッケル基合金という単語を目にすることもあるでしょう。
ニッケルという高級な金属を使っている耐食性も高級。
そもそもSUS304にもNiが一定量含まれていて、耐食性を高めています。
そのNiの耐食性をもう少し見ていきましょう。
得意な環境
ニッケルが得意としている環境は、高温・アルカリです。
このニーズはバッチ系では高温・アルカリの環境で扱うプロセスではあまり多くはありません。
酸側で使うことが多いです。
というのも高温・酸に耐える材質の方が多いから。
逆に高温・アルカリで処理しなければいけない場所では検討対象になります。
不得意な環境
逆にニッケルが不得意な環境は、酸化性の酸・酸化力のある塩などです。
化学反応では塩は基本的に生成します。
これが酸化性があるかどうか考えないといけない時点で、かなり汎用性が無いと言えます。
使えるかどうか議論するためには材質試験をしないといけません。
高価なニッケルに対して使用可能かどうか議論する前に、安価な材質に耐えるかどうかを議論すべき。
高温・酸性に耐えるガラス系を最初に考えます。
バッチでは、高温と言っても100℃より少し高いくらいが限界なので、ガラスで十分なことが多いでしょう。
ハステロイ
ハステロイは登録商標ですが、特許は切れています。
汎用的な名称はAlloyです。
バッチ系ではAlloy B-2,C-276,C-22などが有名です。
酸・アルカリ・高温いずれにも耐える可能性があります。
細かいことは割とどうでも良くて、バッチ系ではグラスライニングが駄目な系ではハステロイと思っていれば十分です。
材質面では最後の頼みの綱。
化学成分
グレード | Ni | Cr | Mo | W | Fe |
Alloy B-2 | 残 | – | 28 | – | 1.5 |
Alloy C-276 | 残 | 16 | 16 | 4 | 5 |
Alloy C-22 | 残 | 22 | 13 | 3 | 4 |
「残」とは残りのことです。
大まかな耐食性として、下記の傾向があります。
- Alloy B-2は還元性環境で強い
- Alloy C-276,22は酸化性・還元性両方の環境で強い
Alloy B-2にはCrが含まれていないから、酸化性環境に強くないです。
Alloy C-22はAlloy C-276よりもCrが多いことが特徴です。
Alloy C-22の方が耐食性が高いと思った方が良いです。
酸に対する腐食性データ
10%塩酸(還元性) | 10%硫酸(還元性) | 10%硝酸(酸化性) | |
Alloy B-2 | 0.03 | 0.05 | 溶出 |
Alloy C-276 | 0.25 | 0.58 | 0.43 |
Alloy C-22 | 0.07 | 0.28 | 0.02 |
単位は腐食速度 mm/年です。
Alloy B-2では酸化性酸である硝酸に溶けてしまいます。
Alloy C-276よりもAlloy C-22の方が硝酸に対する耐食性が高いことが分かります。
意外かも知れませんが、還元性酸についてはAlloy B-2の方が強いです。
ただし、汎用性が無くなります。
材料に少し詳しいエンジニアでも、ハステロイかどうかを気にするだけの人が増えています。
極端に言うとどっちでも大きな問題はありません。
あとはメンテナンスの問題です。
C-276かC-22かどちらを選ぼうかと気にすることができれば、バッチ系の機械エンジニアとしてはベテランの領域です。
現実的にはAlloy C-276を選ぶことが大半だと思います。コストや調達性に優れます。C-22が手に入るようであれば積極的に狙っていく方が良いですね。
モネル・インコネル
モネル・インコネルという材質も、実はニッケル基合金でした。
私は名前だけをうっすらと覚えている程度です。
どこかで使っている可能性もありますが、気にしたことはありません。
- モネルは非酸化性酸・海水に強い
- インコネルは酸化性酸・アルカリ・高温に強い
ニッケル基合金以外
ニッケル基合金としてハステロイとくにAlloy C-276が重要ですが、ニッケル基合金以外の金属も稀に登場します。
チタン
チタンは非常に耐食性に優れています。
非常に活性のある金属であり腐食しやすい性質を持っていますが、現実には表面に皮膜を形成して腐食の進行を遅らせています。
皮膜で持たせています。
特殊な例として、
- 乾燥Clに対しては爆発的に反応し、水分があるClには反応しません。
- 隙間腐食が起きる
- 水素と相性が悪い
という特徴があります。ちょっと変わっていますね。
塩素Clや水素Hは化学反応で割と使うので、バッチ系化学プラントではチタンはあまり使いません。
ジルコニウム
ジルコニウムも耐食性が非常に高いです。
アルカリ・酸・塩などいろいろな環境ほぼ全てに対応可能です。
ただし、非常に高価です。
バッチ系では使うこと登場しません。
タンタル
タンタルも非常に耐食性が高いです。
特に、酸に対して強いです。
バッチ系では、グラスライニング容器の補修などに使用しています。
ガラスは耐酸系に使いますが、割れることもあれば腐食もします。
そんな時の補修材としてタンタルが活躍します。
グラスライニング設備の温度計の先端チップの金属材にも、タンタルが使われます。
参考
関連記事
最後に
バッチ系化学プラントでよく使う高級金属を解説しました。
ニッケル基合金としてのハステロイ特にAlloy C-276が大事です。
ニッケル基合金以外としてタンタルがまれに登場しますが、チタン・ジルコニウムはほぼ登場しません。
価格も納期も高級です。
化学プラントの設計・保全・運転などの悩みや疑問・質問などご自由にコメント欄に投稿してください。(コメント欄はこの記事の最下部です。)
*いただいたコメント全て拝見し、真剣に回答させていただきます。