溶接は建物や設備を作るときに欠かせないものです。一定以上の強度が求められる設備では環境・安全・品質といった要素にも影響を及ぼすのが溶接。
化学プラントの機械系エンジニアは溶接に関する基礎知識が求められます。一般的な溶接に関する話はもちろん、化学プラント内での溶接に限定して重要な知識もあります。
本記事では化学プラント内の工事としての溶接で特に知っておきたいポイントを解説します。工事に係る人は誰もが知っておきたい内容です。
この記事は、溶接シリーズの一部です。
化学プラントで役立つ「最低限の溶接知識」:機械系エンジニア向け実務ガイド
アセチレンを溶接や溶断で使う理由
これで安心!化学プラントの溶接記号の見方と注意点
浸透探傷検査PTで溶接欠陥をチェック|化学設備向け
溶接修理の基本と方法|現場で役立つポイント解説
引火性物質の除去
化学プラントで溶接をするうえで絶対に処理すること、それが引火性物質の除去です。化学プラントでは様々な化学物質を使っていますが、そのうちのいくつかは溶接の火や熱で引火する可能性があります。
危険物4類の化学物質は化学プラントでは溶媒など幅広く使うため、溶接作業をする前にはキレイに洗浄して系内に存在しない状態を作らないといけません。プラントの運転者はこのことを強く認識しているので基本的には問題になりませんが、溶接作業をする側からすると「しっかり洗浄した証明」をもらうようにしましょう。
危険物4類を使っていないから安心・・・というわけではなく、例えば紙とか段ボールとか樹脂など燃えやすいものが多量にある場合はそれらもプラント内から除去(片付け)をしておく必要があります。
溶接をする人はこれらの環境がしっかり整備されていることを確認しましょう。自社工場など環境が良く分かっている場所ならともかく、化学プラントでの溶接は他社に依頼することが多いので、現場に習熟していない人にとってはそこに何があるか不安になります。
可燃性ガス濃度の常時測定
危険物4類の除去をした化学プラントと言っても、完全に除去できていることの証明は非常に難しいです。配管内の「たまり」など洗浄しても危険物4類の物質が残っている可能性はあります。
液体という目に見える形ではなく、ガス化した状態で滞留している可能性もあります。危険物4類は空気より重たいので下に溜まる性質がありますが、配管など複雑に入り組んだ工場ではどこでガスが溜まっているか特定が難しく、工事でのちょっとした動作で滞留したガスが拡散する可能性もあります。ガスは目には見えないので、いつ何が起きてもおかしくないという姿勢で溶接作業に挑むのが化学プラントの特徴でしょう。
この状態で溶接せざるを得ないのが現実です。化学プラントのユーザーとしては洗浄はできる範囲で実施していてもリスクをゼロにはできません。それでも安全に溶接をするためには、溶接をするまさにその場所で危険物4類が存在しないことを常時確認することが求められます。そこで、可燃性ガスを常時計測します。ポータブルの可燃性ガス検知器を持ち歩きながら溶接します。
もちろん作業開始前に、プラント全域を可燃性ガス検知器を持ち歩きながらパトロールすることも有効です。配管などからいつ漏洩してくるか分からない以上、こういう確実な対応が求められます。通常の溶接とは違って手間暇と人を掛けるのが化学プラントでしょう。
換気
化学プラント内を洗浄して、可燃性ガス検知器を持っている状態でも、さらにリスクを下げるために換気を行うことがあります。可燃性ガス検知器で測れる場所はスポットなので、測っていない場所からガスが侵入してくる可能性があるからです。目に見えないからこそ徹底して疑います。
ストリップ工場では風通しが良いので基本的には換気は意識しません。例えばシートなどで3面が囲われたエリアだと可燃性ガスが滞留する可能性があるので、換気をした方が良いと言われます。
壁で囲われた室内だと風通しが良くないので、換気扇による換気のほか扇風機などでの換気強化を図った方が安全な場合があります。
周囲作業の把握
溶接作業は周りへの影響が大きい作業です。一般の組立工場などでの設備の溶接作業なら、周囲への影響は少ないですが、化学プラントでの溶接は影響が大きいです。
典型例が溶接作業をしている上下で塗装作業をしている場合。溶接の火花と塗装という有機溶媒の蒸気は、引火を引き起こす組み合わせとなります。
・上階で溶接/下階で塗装 溶接の火花が下の階に落ちて、塗装に付着して引火
・上階で塗装/下階で溶接 塗装の有機溶媒の蒸気が下の階に落ちて、溶接の火花に付着して引火
塗装作業以外にも、例えば保温作業(段ボールとかビニール系の資材)など燃えやすいものがある場合も、リスクはあります。
溶接をする人は自身の作業だけしか見えないので、化学プラントの依頼者側が当日のどこで何の作業があるかを把握して、安全な作業環境を作らないといけません。この辺りが化学プラントならではの難しさでしょう。
火花の飛散防止
塗装への引火以外にも、溶接作業では火花の拡散防止をする必要があります。
・同じ階でとんだ火花が周りの人に付着してやけどする
・下の階に火花が飛んで周りの人に付着してやけどする
溶接作業者が自社の作業場で溶接をする場合は、周囲の人への影響はあまり考えないです。そもそもリスクが低かったり、周囲の人が逆にケアするものだという認識があるからだと思います。
ところが化学プラントなど他社での作業をする場合、周囲の人は溶接に親しんだ人ばかりではありません。その会社の安全基準やポリシーなどもあるでしょう。例えば溶接の火花が飛んできて近くを歩いていた人が慌てたために転んでケガをしたということもあります。上で取り上げたような引火の危険性もあります。
プラント内の各社の安全レベルを均一にして、お互いに注意喚起できる雰囲気を作りつつ、安全な環境を構築して、無理のない工程で作業をしていくことが求められます。火花の拡散防止はその取り組みの一角でしょう。
消火器や水バケツを近くに
溶接作業をしていると何かのタイミングで火が付くことは十分に考えられます。危険物を除去して、可燃性ガス検知器で測っていて、周りを養生していたとしても、です。
この場合には初期消火が大事。消火器と水バケツを近くにおいて置きすぐに行動できるようにしましょう。
水バケツに水を入れずに対策しているふりをしていたり、最初の作業ポイントに消火器と水バケツを置いたまま別の作業ポイントに移ってしまうことなど、問題が起きやすいです。
アースは近くで取る
溶接ではアースを取ります。このアースは溶接をする場所の近くに取るようにしましょう。
というのも化学プラントでは高価な制御機器などを多数使っています。溶接の電流でこれらの機器が故障したり異常値を示すようになると、運転時に大きな事故につながりかねません。
リスクを減らすためにもアースの位置が重要になります。周りへの影響をなくすためにできるだけ近い位置でアースを取るようにしましょう。
最後に
化学プラントにおける溶接工事では、溶接技術そのものよりも、安全な作業環境を構築することが重要になります。
引火性物質の除去、可燃性ガスの監視、十分な換気、周囲作業との調整、火花の飛散防止、初期消火体制、そして適切なアース位置など、どれも重大事故を防ぐために欠かせないポイントです。
火気作業は事故が起きないことが当たり前の世界だからこそ、一つひとつの確認を確実に積み重ね、安全最優先で工事を進めましょう。
この記事の内容を、あなたの職場・キャリアに合わせて整理したい方に技術・キャリア相談を行っています。海外プラント、製造管理、組織の病理、キャリア停滞など、あなたの状況に合わせて具体的にアドバイスします
→ 技術・キャリア相談はこちら
【著者:ねおにーーと】
化学プラントで20年以上、設計→製造→保全→企画まで一気通貫で経験したユーザー側エンジニア。 バッチプラントの設備・運転・トラブル対応を中心に、現場で本当に役立つ知識を発信しています。 → 詳しいプロフィールはこちら
コメント