化学プラントのオーナーエンジニアを長くやっていると設計と工事と保全(maintenance)のどの部門が最後まで生き残るか?
というBCPやKPIのような視点でエンジニアリング部門を見ることがあります。
管理職になればその機会はグッと増えます。
そこで自部門を冷静に見れば見るほど、保全しか勝たん状態であることに気が付きます。
そんな話を設計・工事・保全それぞれの立場から考えていきます。
工事部門を単独で持っているケースは少ないかもしれませんが、設計と保全はそれぞれ部門として持っているケースは多いでしょう。これらの部門の人数が減ってきて、いざ「どうしようもなくなってきた」という時に、どの部門から切り捨てていくかという視点で見ています。運転に直結する保全は、工場運営に直結しているという自覚は無いですが、実はその効力は相対的に高いということに気が付けば、自信に繋がると思います。
設計
オーナーエンジニアリングの設計というと、機電系エンジニアリングの花形みたいな位置づけでしょう。
化学プラントで機械系出身者が生産技術・ライン設計に関わるというと、ホワイトカラーで高付加価値の仕事をしている感があるでしょう。
ところが、いざ蓋を開けてみると・・・
- 基本設計をそのまま機器調達の仕様書にコピーする
- メーカーから出た見積書に「問題なし」と査定する
- 機器図面は検図や配管設計にチェックしてもらう
- 配管図に問題があれば、現地で直す
- 試運転で問題が出れば、最低限の対応をする
- 現場の不具合は、次年度のSDMで直す
こういう仕事の仕方が可能です。
これは全て「受け身」の仕事が可能ということ。
関連部門がしっかりしていれば、丸投げが可能となります。
設計の費用対効果が悪ければ、何も見ずに結果に対応するだけという方法も1つの方法です。
丸投げ度が増えていけばいくほど、設計部門は見積だけが唯一のスキルと錯覚するようになるでしょう。
上記の仕事の仕方をしても、致命的な結果にはなかなか至りません。
- 仕様書に間違いがある → 機器図面で修正し、追加処理をする
- メーカーの査定でミスがある → 機器図面で修正し、追加処理する
- 機器図のチェックにミスがある → 据付や配管で調整する
- 配管図にミスがある → 配管で調整する
- 試運転で問題がある → その場で可能な事に注力する(できなければ諦める)
- 次年度のSDMでミスがある → その頃にはオペレータが慣れてくれる
こういう視点で見ると、オーナーエンジニアとしては設計者の価値は実際にはほとんどありません。
その工場の背景を知らない外部プラントエンジニアの方が設計スキルは上で、その設計スキルをオーナーエンジニアとして保有していても「過剰な資格」となってしまいます。
もちろん設計スキルを持っている方が、工場内で信頼感を得られます。
工場のいろいろな人から設計者として信頼を得られれば、生き残る道もあるでしょう。
そんな人は、工場内の設計者でも上位10%以内の厳しい道になると思います。
工事
工事の管理自体は施工会社に一任することが多いでしょう。
問題はその管理監督をオーナーエンジニアとして可能かどうか。
工程表を片手に現場を動き回り、進捗を事細かくチェックする。
こういうことができるエンジニアは一定の価値がありそうに見えますが、実際にはそうではありません。
結果良ければ全てヨシ!
スケジュール管理がどうであれ、遅れがあっても工事後半に何とかしてしまえば、OKです。
どんな苦労があったとしても、「そこそこ疲れた」とか「大変だった」とか定性的な感想だけが後に残ります。
これであれば、過剰なエネルギーを使ってスケジュールを管理する必要は、オーナーエンジニアとしては薄いでしょう。
工事品質についてもある程度は同じロジックになります。
施工が正しくできているかということは、現場のパトロールをしながらチェックしていきます。
これも仮にミスがあっても、発見ができます。
- 配管工事でミスがある → 気密テストでだいたい分かる
- 配管工事で異物を入れてしまう → フラッシングでほぼ除去できる
- 材質間違いがある → 一般には気付くのは数年度
- サポートが足りない → 試運転でだいたい気が付く
工事の管理監督は行った方がいいけど、費用対効果を考えると自部門で持つ必要がないかもしれません。
外部の管理会社を使って、それなりの品質を保つという手段もあります。
その瞬間にオーナーエンジニアとしての工事部門の価値はガクッと下がります。
保全(maintenance)
設計や工事に比べて、保全はその価値が一定以上認められます。
それが例え、窓口係で丸投げをするだけの仕事であったとしても、です。
- 設備でトラブルがある → 現場の依頼を聞いて、担当者に調整を依頼
- SDMの準備 → 発注依頼とその管理、書類作成がメイン(雑用)
- 中長期計画を立てる → 他部門は数年でローテーションし、やった感が出る
保全の最大の価値であるトラブル対応ですが、製造部の立場からすると面倒なことを丸投げできる人が望まれます。
壊れたから後の対応を全部準備してくれる人。
伝言ゲームにほぼ近いですが、それだけでも現場の負荷は下がります。
製造部は停止までの対策や、生産計画への影響など色々な対応に追われます。
そんな時に、少しでも負荷を下げてくれる保全は重宝されます。
SDMの準備は、生産計画や費用と関りがあります。
これを他社に丸投げするというのは、工場としては抵抗感があるでしょう。
自社の保全部門なら生産計画を知っていて当然で、それをもとにSDMの準備を自動的にしてくれることを期待します。
付加価値は高くないですが、自社でないと困る事情があるということですね。
保全としては中長期計画を立てることは、割と重要な使命です。
ところがこれを10年以上の計画で進めれる会社って、ほとんどないと思います。
その間に、人・生産・設備いろいろと変わるからです。
それでも中長期計画を立てていると、やった感が出るので保全の価値が見出しやすいです。
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最後に
化学プラントのオーナーエンジニアで設計・工事・保全のうち、最後まで生き残るのは保全だということを考えました。
設計や工事は過剰品質になりやすく、いっそのこと全部を外部に委託しても、被害度は一瞬だけということが十分に考えられます。
設計や工事の部門を多く抱えている工場は、ここを冷静に見極めないといけません。
保全は、最後まで一定の価値が残り続けます。それが例え雑用であったとしても。
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