化学プラントの設計保全を15年経験した私が、耳にした他人の失敗(failure)を紹介します。
仕事では失敗はつきものです。大きな問題にならなければ、どんどん失敗しましょう。
特に社内のエンジニアリング程度なら、かなり意図的にしなければ大きな問題にまでは発展しません。
こんな失敗をしても工場はちゃんと回っている、という例を紹介しましょう。
失敗に怯えたり落ち込みすぎたりせずに、みんなやらかしているのだという安心材料になれば幸いです。
保全
まずは保全からです。
保全の失敗は実は他部署にはあまり知れ渡るものがありません。
設備が壊れた時には大ごとですが、設備を使っていく上で劣化していくのは当然ですから、ここを責めても意味がありません(保全にすぐに対応しなさいとプレッシャーをかける会社もあるようですが・・・)
保全としての問題は、設備のメンテナンスやアフターフォロー。
このクラスの失敗になると、数は少ないです。
設備の壊れた部品以外を放置したら、すぐに別の部品が壊れた
設備が壊れたときに、壊れた部品を直す。
当たり前のことのように見えますが、目に見える部分だけを直したら良いというわけではありません。
例えば、ボルトナットのボルトが折れたというトラブルがあった時に、ボルトを交換するのは普通です。
ここでナットは元の物を使うことを決心して、すぐにナットが壊れるという類です。
フランジシステムであればフランジやガスケットもケア対象に入ります。
直さなくてもすぐに問題が起きるとは言い切れません。
だからこそ目に見えている問題だけを解決しようとする保全も多いです。
運の世界。
運が悪いと立て続けに周囲の部品が壊れていき、何度もプラントを止めることになります。
こうなると、保全として何をやっているの・・・?という白い目で見られます。
高価な部品を勝手に捨てる
保全として重要な部品は予備品として保管することは大事です。
これを誤って捨ててしまった例です。
価格は500万円を越えるもの。
その部品を予備として保管してなくても運転は続けられます。
万が一設備が壊れて止まってしまったときには、数カ月以上の生産停止となるような部品です。
そんな高価で長納期の部品を捨ててしまった。
問題が起きたときは部内で話題になりました。その後どんな対応をしたかは分かりません・・・。
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良く分からないから捨てました!!
設備トラブルがあったけど、報告しないまま生産を続けた
ちょっとした設備トラブルがおきて保全にも情報が入ってきたのに、誰にも告げずに放置してそのまま生産を続けた例です。
設備トラブルとしては漏れと異物混入の2例です。
漏れは有機溶媒の漏れなので火災が起きても全くおかしくないもの。
異物混入は品質クレームに即つながりかねないもの。
それぞれどういう論理で問題なしと判断したのか分かりません。
一担当の判断で終わるものではないはずなのに、誰にも告げない。
問題が起きたときには、それは揉めたでしょう。。。
いざという時にだけ使う設備が壊れているけど、誰も気にせずに放置していたなんて例もあります。(どちらかというと運転の問題)
設計
設計の失敗は表に出やすいです。
私自身が設計に関わっているからというのもありますが、対外的に成果として分かりやすく出てしまいます。
だからこそ設計はしたくなくて、保全をしたいという人が少なからず居るのが私の職場かも知れません。
見積額が明らかにおかしい案件
投資案件の見積が明らかにおかしい案件です。
桁1つ・・・とは言いませんが、それに近いオーダー。
- 配管数量を50%くらい不足していた(投資全額の30%程度に影響)
- 設備購入額は見ていたけど、工事額は見ていなかった(投資全額の60%程度に影響)
- 設備の数量が不足していた
- 工事期間が月のレベルで不足していた。(3カ月必要だが、2カ月と言い張る)
こんな抜けだらけの見積をして、投資判断でGOが掛かります。
実行段階になると当然ですが、そこで「ごめんなさい」するのはとても格好がわるいことです。
何もせずに時間だけが過ぎた案件
10年以上前のことですが、案件を完全放置していた例です。
今となっては珍しいことではありません。
予算着工が降りて、設備を買う段階まで来たのに、それを放置しました。
予算の執行期限を切れてしまった。
1000万円のオーダーです。
買わなくても運転を続けられたからヨシ!とはなりません。
この予算があれば別の投資に十分に使えたはずなのに、その機会を逃してしまった。
それでもプラントは回るので、問題としては目立ちにくいですが、金額としては目立ちます。
無駄なスペースを残した配置で建設
プラント建設を間違えた例です。
建設は一度レイアウトを決めて建てて使う段階になったら、後で変更ができません。
日本のように敷地が狭い工場なら、1mの余裕を過剰に設定しただけで他の建設に影響がでることがあります。
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適当にスペースに余裕を設けても良いだろう。
と安易に考えてしまうと将来に影響が出ます。
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ここに無駄なスペースを設けたのは誰だ!
というように、後々になって話題になります。
その時には当時の設計者は異動などで居なくなっていますけどね・・・。
申請を忘れていて工事延期
設計段階では工事のために必要な申請を出します。
この申請を忘れてしまって工事直前で気付き、延期せざるを得ない例です。
これも10年位前の話なので目立ちましたが、今となっては珍しいことではありません。
それでも申請を忘れて勝手に工事するよりは、遥かにマシなことです。
設備の設置方向を間違えて完成
設備の設置方向(入口と出口)を間違えて設置して、完成までさせた例です。
ほぼ対称形ですが、微妙にずれているような設備です。
設計段階で確かに間違えやすいですが、これを誰も気が付かずに完成までさせて、動かしたときになって
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あれ・・・おかしい・・・。
となった例です。
その後、どんなフォローをしたのかは分かりませんが、現場で青ざめるには十分な材料でしょう。
圧損計算を間違えてポンプで送れない
圧損計算を間違えて、ポンプで送れなかった例です。
ポンプの圧力損失問題は、設計者としては誰もが通る失敗と言っても良いでしょう。
たいていの場合は、「(液は)送れるけど(時間が)遅れる」という流量が落ちる程度です。
本当に失敗してしまうと液が送れないというトラブルになります。
運転段階まで気が付かないですが、気が付いたときには遅い問題です。
これも現場で青ざめるには十分な材料でしょう。
同じような問題に、配管の液溜まりやガス溜まりでポンプが送れないという問題もあります。
工事
工事の問題はとても目立ちやすいです。
テレビで報道されたり、社会問題になる可能性もあります。
幸いにも私の職場では問題になっていませんが、ヒヤリとした例として以下がありました。
発注契約せずに工事をする
工事をする場合、事前に発注契約をして工事をするのが普通です。
ところが構内の常駐会社のように、毎日のように工事をしてもらう関係にあると、忘れたまま工事をする可能性があります。
当然ながらNG。
仮に事故など問題が起きたときには、コンプライアンス問題に発展します。
保全を長いこと経験している人ほど、
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現場工事が最優先!契約などどうでもいい!
と間違った方向に舵を取ってしまう傾向にあります。
危険物が残っている設備の近くで溶接をする
危険物が残っている設備の近くで溶接をする例です。
下手したら一発アウトになります。
時間がないから・・・とか背景があったとしても、こういう冒険はすべきではありません。
暴挙と言っても良いでしょう。
溶接をしている真下で塗装工事をする
同じ溶接ネタで、上階で溶接をしていて下階で塗装をしていた例です。
溶接の火の粉は下階に落ちていました。
火の粉養生も無ければ、散水もなし。
何の対策もせずに、塗装という燃えるものを扱う近くに火の粉が飛んできて、気が付いたときには燃える。
この時は工事を即中止したようです。
本来なら前日の工事計画の段階で把握してストップをかけるべきことです。
参考
失敗についてはあえて本で学ぶ必要もない気がしますが、あえて紹介しましょう。
失敗しても大丈夫といえる環境つくりが最近では求められるので、ここだけは自責思考に陥らないようにしたいですね。
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さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
化学プラントの設計保全で人から聞いた失敗を紹介しました。
最近になって問題になっている失敗もありますが、昔はもっと酷い失敗もありました。
失敗をしたときは落ち込むかもしれませんが、昔から失敗はいっぱいあるので過度に落ち込まずに勉強材料にしましょう。
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