撹拌機は化学プラントで反応を均一化したり、スラリーや高粘度液を効率よく混合するために欠かせない機械です。設計やスケールアップを行う際に重要な指標が 単位体積当たり撹拌動力(Pv) です。
本記事では、Pvの基礎知識とモーター動力との関係を初心者でも理解できるように解説します。
単位体積当たり攪拌動力Pv
単位体積当たり撹拌動力Pvの定義はかんたんです。
撹拌動力/液量 (kW/m3)
撹拌機のスケールアップでよく出てくる考え方です。撹拌したい液の性状に対して、Pv値を合わせるように設計していきます。
- 0.05~0.1 均一混合・結晶破砕しやすい
- 0.2~0.4 通常混合
- 0.5~0.8 沈降しやすいスラリー
- 1~3 高粘度液・非常に沈降しやすいスラリー
プロセス液に馴染みが薄い機電系エンジニアにとっては、良く分からない表現でしょう。一般的には0.5kW/m3くらいを目指して、スラリー性がある場合には0.8kW/m3くらいを目指す。これくらいの理解をしたうえで、実際の個別設計を進めていきましょう。
運転上のPv
Pvは運転条件によって決まる値です。これはプロセス設計で変更できる部分が強いことを意味しています。
反応器の全体サイズが決まっている状態で、プロセス反応を調整しようとしたら以下のようなアプローチになります。
- 撹拌動力は回転数を変えることで調整(撹拌翼の形や長さは変えられない)
- 液量は運転方法を変えることで調整(1度にまとめて反応or2度に分割して反応)
単一製品に対して設備を設計する場合にはこういう配慮はあまりする必要がありませんが、複数製品を同じラインで使う場合には必要な配慮です。
設備仕様としてのPv
機電系エンジニアとしては運転上のPvは関与できなくても、設備の仕様としてのPvは関与できます。
モーター動力/反応器容量 (kW/m3)
この値をどうやって選ぶかは、撹拌機の設計上とても大事です。この数値がPvのニーズの上限を超えていることが、設備として必要となります。
例えば10m3・10kWの撹拌機があれば設備仕様としてのPvは1.0kW/m3となります。運転上0.5kW/m3で良ければ、撹拌機の回転数を落として調整します。
例えば神鋼環境ソリューションのカタログを見ていると、三枚後退翼やツインスター翼では0.7~0.8kW/m3、フルゾーン翼では1.2kW/m3あたりを狙っていると推測できます。
標準的にはこの値で良いと思うので、設備仕様の決定して購入する場合にはモーター動力をユーザーが設計しない場合もあります。この値を越える設計をしたい場合(例えばツインスター翼で1.0kW/m3など)はモーター動力の指定をしましょう。というのもモーター動力を標準外に変えるだけで解決するわけではないからです。
- 撹拌翼径
- 撹拌軸径
- 軸封サイズ
- 撹拌機を支えるフランジ強度
最悪の場合は、設備本体そのものを変える必要すら出てきます。モーター動力は撹拌機の見積や設計をするうえでとても重要な要素です。注意しましょう。
参考
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最後に
- Pvは撹拌機設計・スケールアップで不可欠な指標
- 運転上のPvと設備仕様Pvを理解することで、効率的な撹拌が可能
- モーター動力だけでなく、翼径・軸径・軸封など設備全体を考慮する
- 少量液や高粘度液ではPvの調整に注意が必要
撹拌機設計の基本を押さえ、適切なPv設定と設備仕様を選ぶことが、安全で効率的な化学プラント運転につながります。
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