撹拌所要動力(Stirring power)の計算式について解説します。
撹拌機を多く扱うユーザーでが、知っておきたい基礎的な部分に絞ります。
撹拌所要動力の式は、例えば永田の式のようにその業界では有名な式がありますが、かなり専門的な内容です。
式の取り扱いに慣れている人でないと、かなり混乱するでしょう。
私の新入社員の時にこの式を使いましたが、本質が分かるはずがなく遠回りをした記憶があります。
そうはならないように、基礎的な部分を解説しようと思います。
撹拌所要動力(Stirring power)の体系
撹拌所要動力を考える上で必要なモデルを解説します。
まず、この体系を解説しないでいきなり細かな式に入ってしまう説明が多くて、私も苦労しました。
電気を使って撹拌機を動かすことを考えると、電気と機械の話の2つが必要になります。
ポンプの電動機と同じ話です。
ポンプも圧力損失の計算という機械的な部分に着目して、モーター動力など電気的な部分に目を向けない機械系エンジニアはかなりいます。もちろんその逆も。
エネルギー的な視点では、入力の電気側から説明する方が良いかもしれませんが、撹拌所要動力という目線から、逆の流れで説明します。化学工学的にはこちらの流れが主でしょう。
レイノルズ数
撹拌所要動力の計算の最初のステップはレイノルズ数です。
$$ Re=\frac{d^2Nρ}{μ} $$
レイノルズ数は流体力学で一般的に登場する無次元数です。
撹拌翼の径d・撹拌機の回転速度N・流体の密度ρ・流体の粘度μで決まります。
撹拌機という見方をすると、撹拌機のサイズである径dに依存する数字です。(例えば同じ液を撹拌するとして液の物性は変わらないとすると)
レイノルズ数は流体のフローパターンに影響を直接与えますので、撹拌機のサイズをアップするという場合に(撹拌翼の径dが上がる)、レイノルズ数をそろえる目的で撹拌機の回転速度Nを下げる、ということをします。
正味撹拌所要動力P
続いて正味撹拌所要動力Pを計算します。
一般に撹拌所要動力というと、この式を示します。
$$ P=N_pρN^3d^5 $$
撹拌所要動力Pは動力数Np・液密度ρ・撹拌機の回転速度Nの3乗・撹拌翼の径dの5乗に比例します。
動力数Np
動力数は撹拌機の形状・レイノルズ数Reで変わる数字です。
有名な永田の式も動力数に関する式です。
主要な撹拌機はNp-Reのグラフがあります。
このために先にレイノルズ数を計算します。
3乗と5乗
正味撹拌所要動力は3乗や5乗という少しびっくりする式です。
物理的な単位の整理をした方が良いと思います。
単純な次元の整理をします。
(動力)=(仕事)/(時間)=(力)×(距離)/(時間)=(力)×(速度)
動力(仕事率)から(力)×(速度)と直接展開してもOKです。
撹拌所要動力なので、撹拌機に掛かる力×撹拌機の回転速度vと読み替えることになります。
撹拌機に掛かる力は運動量保存則と同じ考えで以下のように表現されます。
(撹拌機に掛かる力)=(流体の密度ρ)×(撹拌機の断面積A)×(撹拌機の回転速度v)2
撹拌機の断面積Aは、撹拌機の寸法dの2乗に比例する次元です。
撹拌機の回転速度vは、撹拌機の寸法dと回転速度nで決まる数字です。
この関係を整理すると、
(撹拌機に掛かる力)∝ρAv2∝ρ(d2)(nd)2=ρn2d4
撹拌機の回転速度v=ndであることを再度使って、
(撹拌所要動力)∝(pn2d4)×(nd)=ρn3d5
となります。
運動量保存則の部分は流体力学的な視点なので少し難しいかもしれませんね。
力×時間=質量×速度という関係を使っています。
損失
続いて損失の部分も触れましょう。
$$ E=\frac{P}{η_1η_2} $$
η1とη2はそれぞれモーターの損失と減速機の損失として考えています。
10~20%のオーダーで効いてきますので、無視はできません。
例えば、η1=0.9、η2=0.8とすると、
$$ E=\frac{P}{0.72} =1.38P$$
となって、撹拌機に投入する電力は、所要撹拌動力より38%多くする必要があることが分かります。
電流
電流についても触れておきましょう。
$$ E=\sqrt{3}VIcosφ $$
電力は電圧V・電流Iと力率cosφという係数に比例することが分かります。
電圧Vは運転中は変わりません。
力率cosφもほぼ一定としましょう。
そうすると、撹拌機の動力が変わると電流値が変わるという結果が分かります。
例えば、撹拌機の運転をしていてインバータで回転速度を変えたときは、電流をチェックしましょう。
参考
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さらに知りたい方は以下の記事をご覧ください。
最後に
撹拌所要動力の基礎式として最低限知っておきたい部分を解説しました。
レイノルズ数や仕事率という概念を撹拌機に展開する部分は、機械系としては理解したい部分です。
ここに損失や電流という電気的な部分が加わりますので、電気のことは電気任せとせずに接点部分は理解しておきましょう。
永田の式のような動力数の部分の理解は、この次で良いと思います。
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