撹拌軸強度計算(strength calculation)について解説します。
撹拌槽のような撹拌機を使う設備では、この計算は必須です。
計算をせずに安易に撹拌機を付けてしまった結果、撹拌機が折れるというトラブルは続発しました。
オーナーエンジニアの立場では、メーカーに一任しがちですが、失敗を防ぐためにも自分で計算できるようになっておきたいです。
軸強度が問題なければ、どんな条件で運転しても良いというわけではありません。
危険速度を回避するような運転がほぼ必須となるでしょう。
バッチ系の撹拌槽ならではの問題かも知れませんね。
撹拌機に掛かるモーメント
撹拌機の強度計算の第一ステップはモーメントの計算です。
モーメントはねじりモーメントと曲げモーメントの2つがあります。
撹拌機としては以下のような形状を考えます。
ねじりモーメント
撹拌軸に掛かるねじりモーメントTは一般に以下の式で与えられます。
$$ T=\frac{30W}{πN} $$
この式、最初はちょっと戸惑います。
まずは次元の整理からしましょう。
動力の単位が\(kg\frac{m^2}{s^3}\)、トルクの単位が\(kg\frac{m^2}{s^2}\)であることから、
動力=トルク×周波数
という関係が成り立ちます。
周波数が周期の逆数、周期は角速度×2πという関係を使うと、周波数は以下のように表現ができます。
$$ 2π\frac{N}{60} → \frac{πN}{30}$$
というように周波数が決まります。
動力をW、トルクをTとしたときに、
$$ W = T\frac{πN}{30} $$
となり上の式になります。
曲げモーメント
続いて曲げモーメントMの計算です。
これはねじりモーメントの1/3程度が加わると考えます。
$$ M=\frac{1}{3}\frac{T}{d/2}a $$
撹拌翼寸法である撹拌翼径d・軸長aがここで登場します。
軸長aはベアリングから撹拌翼下端までの分かりやすい寸法で良いでしょう。
しっかりした図面がない場合は、撹拌翼の全長やモーターを含めても良いくらいです。その方が安全側です。
係数を1/3とするかもう少し値を変えるかは、撹拌機の性質などで多少変わります。
今回は1/3とします。
動力を受けた撹拌機がねじりモーメントに転換されるため曲げモーメントは作用しない、ねじりモーメントのうちの1/3が曲げモーメントに転換される、という風には考えません。
ねじりモーメントの1/3が純粋に加わったものとして考えます。
相当ねじりモーメント
ねじりモーメントと曲げモーメントが求まれば、相当ねじりモーメントを求めることができます。
$$ T_e=\sqrt{T^2+M^2} $$
教科書通りの式です。
相当曲げモーメント
相当曲げモーメントも考え方は相当ねじりモーメントと同じです。
$$ M_e=\frac{1}{2}(M+\sqrt{T^2+M^2}) $$
こちらも教科書通りです。
軸の寸法決定
相当ねじりモーメントと相当曲げモーメントから軸の寸法を決めます。
最大垂直応力と最大せん断応力が、相当曲げモーメントと相当ねじりモーメントから決まるという関係を使います。
中空円形断面の断面二次極モーメントを使っています。
$$ σ_{max}=\frac{32M_e}{(1-n^4)πb^3} $$
$$ τ_{max}=\frac{16T_e}{(1-n^4)πb^3} $$
軸外径b、内外径比nとしています。
この計算式の値に、10~20%の余裕を加えておく方が安心です。
ねじりモーメントと曲げモーメントそれぞれに耐える軸の寸法を決定します。
一般には標準的なパイプで撹拌軸を設定するので、外径や内外径比は数パターンからしか選定できません。
この計算式は、動力と軸の寸法だけから決まるので、液の物性には関係しません。
必要な撹拌動力を決めるためには液の物性が決まりますが、動力が決まれば軸の寸法が決まるという流れです。
雑な計算でOK
撹拌翼の強度計算では、いくつかの仮定を置いています。
曲げモーメントの係数1/3や軸長aなどが良い例です。
材料力学の基礎式を使いますが、仮定の値や余裕率を含んで最終的な判断をします。
厳密な数式の展開だけで決まらない点にモヤモヤするのか、雑な計算で楽と感じるかは人によるかもしれません。私は最初は前者で、後者になるまでに時間が掛かりました。
参考
撹拌機の計算は真面目に感がるととても難しいです。
機械系エンジニアは機械設備としての部分だけは理解したいでしょうが、より広い範囲を見ようとすると化学工学の知識が書かせません。
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最後に
化学プラントでよく使う撹拌槽の撹拌翼強度計算の基本を紹介しました。
材料力学的な知識を使います。
動力とトルクの関係、ねじりモーメントと曲げモーメントや断面二次極モーメントなどが登場します。
ユーザーとしては与えられた計算式だけを使っても実務としては十分ですが、計算式の意味が分かればより使いやすくなるでしょう。
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