魔法瓶(thermos)って皆さんご存じですよね?
水筒などに使われている、高い保温性を発揮するもの。
私も会社で水筒を使っていますが、魔法瓶の効果は絶大で重宝しています。
魔法瓶の保温性が高いことをシンプルに説明できるエンジニアが減ってきていて、化学プラントでも使われていることを知っている人が少なくなっています。
身近な魔法瓶と、身近でない化学プラントを結び付けてみます。
魔法瓶(thermos)は真空ジャケット
魔法瓶の原理を説明します。
専門的には真空ジャケットという方式です。
魔法瓶は下の図のように、液が入っている筒の本体部分とその外周を覆うようにジャケットが付いています。
本体部分とジャケット部分の間には、何も入っていません。
これだけでも保温性は高まりますが、魔法瓶ではこの部分を真空にしています。
ジャケットの部分から熱が伝わることはほとんどありません。
熱が伝わる部分は限定されます。
上部のジャケットがない場所、本体とジャケットの接触している部分などです。
熱の伝わる量は、接触する面積に比例します。
面積が小さい方が熱の伝わる量が少なく、同じ温度をずっとキープしやすくなるということですね。
伝熱工学の基礎的な部分ですが、魔法瓶はしっかり考えて作られています。
空気は最大の断熱性
魔法瓶の場合、本体とジャケットの間は真空状態です。
空気がほとんど入っていません。
熱を伝える媒体である空気が無いために、伝熱性を著しく低くすることができています。
では空気があった場合はどうなるでしょうか?
実は、空気があった場合でも断熱性はかなり高い状態になります。
もちろん真空状態が最も断熱性は高いですが、空気もなかなか良い感じです。
この評価は熱伝導率という指標を使います。
世の中にある物質で、熱伝導率の代表的な物を示しましょう。
材質 | 熱伝導率(W/m・K) |
銅 | 403 |
アルミニウム | 236 |
カーボン | 100 |
材質 | 熱伝導率(W/m・K) |
磁器 | 1.50 |
ガラス | 1.40 |
水 | 0.60 |
PTFE | 0.25 |
トルエン | 0.15 |
グラスウール | 0.03 |
空気 | 0.02 |
空気は、熱伝導率が相当低いことが分かりますね。
断熱材であるグラスウールよりも低いです(よく考えれば当たり前ですけど)。
真空の場合は、熱伝導率がほぼゼロと見なせます。
一方で、ジャケットがない場合は空気の1000程度の熱伝導率があり、それだけ熱が伝わりやすい(熱が逃げやすい)状態になります。
反応器の保温
魔法瓶の原理を上手く使った、化学プラントの運転例を1つ紹介しましょう。
それが、それなりに保温をしたいという時。
反応器やタンクに入った液が、外気の影響を受けないようにするためだけに、ジャケットを付ける場合があります。
バッチプラントでは、ジャケット付き反応器を標準的に使っているので、意図しなくても実現できています。
反応などで厳密な温度調整が必要な場合には、温度計と調整弁を使ってジャケットの冷却水の制御を行います。
冷却水の流量を変えたり、温度を変えたり、冷媒を入れ替えたりと、いろいろできます。
そこまでの管理が必要ではないが、温度変化はできるだけしたくないという例が、化学プラントでは割とあります。
特にバッチ運転の場合は待ち時間が発生しますが、その時間での温度変化は避けたいという場合が意外とありますね。
内容液を冷やさないようにする例を、グラフにするとこのような感じです。
ジャケットに液を入れた状態で保持していると、液体部での熱伝導で内容液が冷えていきます。
一定の温度になると温めて、また冷えて、温める・・・の繰り返し。
こういう場合に、ジャケットには液を抜いてバルブを閉めることで、魔法瓶の効果を狙います。
温度低下が遅くなって、温度制御回数が下がります。
冷却水を使ったり、液の切替をしたりする、ということはエネルギーを使うということ。
省エネの観点からも、冷却水を使わずとも機能を果たすなら、いい方法だと思います。
ジャケットを真空に引くまではしなくても、空気で満たされているジャケットでも保温性は十分です。
そもそもジャケットを真空に引く装置を付けることは例外的な措置ですので、魔法瓶効果を過度に期待して真空ポンプを付けるくらいなら、普通の温度制御を掛ける方が良いでしょう。
そうではない緩い条件下で使うことを想定しています。
参考
伝熱の知識は、化学プラントの機械設計で必須です。
以下のような書籍を1つ持っているだけでも、実務の計算で役に立つと思います。
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伝熱についてさらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
魔法瓶の原理が化学プラントで使われる例を紹介しました。
バッチの反応器では待機時間の保温目的で、この効果を狙ったりします。
厳密な温度制御には使いませんが、省エネの効果があります。
自動化をしても使えるので、使える場所を積極的に探しましょう。
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