エアコン(air conditioner)の能力設計の考え方を紹介します。
夏場の熱中症が特に話題になっていますよね。
エアコンメーカーに「とりあえずエアコンを付けてほしい!」って依頼します。
工場ではこれだと失敗することがあります。
なんかあまり冷えないね…。
こんなクレームというか不満がでることも。
ユーザーとしてはエアコンメーカーに依頼すること自体は変わりありませんが、エアコンメーカーと能力について協議をして納得したうえで購入したいものです。
ユーザー側でそれができるのは機電系のエンジニアだけでしょう。
ということで、エアコンの能力設計をするうえで考えることを解説します。
難しそうに見えるかもしれませんが、ごく日常的に使っている機械であり、伝熱の基本を理解していると、何となく全体像が見えてくると思います。
計算方法
エアコンの能力設計は基本的に3つのパターンがあります。
面積比例・簡易計算・詳細計算です。
面積比例
面積比例は概算能力を見積もるときに使います。
とても簡単なので、ユーザーレベルでは重宝します。
面積比例というくらいなので、実績をベースとしています。
例えば、10m2の床面積に対して10kWのエアコンを付けている実績があるとしましょう。(数値は長適当です)
これで問題がない環境だとします。
似たような環境だけど20m2の床面積がある場所にエアコンを付けたい場合には、単純に面積比例だと考えて
10kW×(20m2/10m2)=20kW
という計算をするのが面積比例の考え方です。簡単ですね。
この計算ができるのはいくつかの条件があります。
- 1日を通じて熱負荷の変動が少ない
- 実績のある場所と、検討対処の場所の環境が似ている(特に高さ)
面積比例であって体積比例でないというのは、意外なポイントです。
エアコンで冷やす対象は空間なので体積で考えて、部屋の高さも考えるべきではと思うでしょう。
一般に、部屋の高さはその目的で大きな差はありません。
事務所レベルなら2.5~3mくらいでどこでもほぼ同じでしょうし、計器室や工場でも例えば5mなど高さを均一に設計されているはずです。
逆に言うと、類似条件として比較対象となるかどうかは、その部屋の高さが1つの要素となっています。
簡易計算
簡易計算は伝熱計算をある程度行うという取り組みです。
設計で行う計算と言えば、この簡易計算になるでしょう。
簡易計算では、対象を3つに分けます。
室外熱負荷・室内熱負荷・換気です。
これらの計算を簡易的な数値を使って、四則計算を行い積み上げていく方法です。
伝熱計算の基本的な部分が含まれます。
詳細計算
詳細計算は簡易計算を細かくしたものです。
当たり前ですね笑
詳細計算では熱負荷が時々刻々変化するということを前提にしています。
1日24時間の間でも昼間は暑く夜間は涼しいですよね。
この分だけ熱負荷が変わるのは当然です。
簡易計算ではその辺は一定値として仮定しますが、詳細計算では時々刻々の気象データを測定します。
昔はちょっと大変な作業でしたが、今ではWBGTなど熱中症に対する注目が浴びているので、DXとしてデータ取得がしやすい環境が増えています。
今の気象条件をベースにしているので、温暖化が進んだ場合に保証されるものではありません。
それは他の計算方法でも同じですが、詳細計算をしたから未来永劫問題のない能力設計ができるという過信もいけないという意味です。
だからこそ、詳細設計は無理してしなくても良いのでは?というのが個人的な思いです。
簡易計算の項目
簡易計算の項目について解説します。
簡易計算と言いつつ、検討項目はかなり多いです。
設計条件
最初に設定するのは設計条件です。
これが狂うと、すべての設計が狂います。
設計条件としては、室内と室外の条件が必要です。
もう少し細かく書くと、室内の気温・湿度、室外の気温・湿度ですが、湿度は特定の場所を除けば考慮しません。
暑いからとにかく冷やしたい、という作業者に対するケアが多いでしょう。
逆に湿度が求められる場所は、電気設備を保管する部屋や湿気が異物になりそうな製品を扱う場所などが考えられます。
建屋条件
次に冷却する部屋の建屋条件を考えます。
室外熱負荷は屋根・壁・窓・地面から入ってくる熱として考えます。
地面は結構以外な気がします。
屋根がない(最上階でない)場合や、地面がない(一階でない)場合には、考慮しません。
熱負荷の計算は伝導伝熱の計算そのものです。
$$ Q=hAΔt $$
で計算します。
hの部分の熱伝導率が屋根や壁やガラスなどの素材によって変わると考えます。
Aは建屋の構造で決まり、Δtが設計条件である室内と室外の気温で決まります。
計算式はとても簡単ですが、データを集めるのがちょっと面倒ですね。
室内熱負荷
室内の熱負荷も設計上は大事です。
人・熱源・回転設備・照明・電気盤などが考えられます。
ここで人も熱源として考えていることがポイントですね。
電気を使って動かすポンプや電気設備からは発熱します。パソコンの発熱と同じですね。
照明も熱源となります。
工場の場合は、熱源としてスチームの配管も考えられます。
これらの要素は計算できなくはないですが、通常はあまり考えなくても良いでしょう。
断熱付きのスチーム配管の放熱や、効率不明のポンプの放熱量の計算は、結局は仮定を置くことになります。
逆に室内熱負荷を真面目に計算するケースは、
- 人が常時入らない電気室で電気盤の容量を考慮
- スチーム配管が多い部屋ではスチームの放熱量を考慮
という感じです。
換気
換気はエアコン設計上とても大事です。
換気をするということは、せっかく冷やした内気を外に排出して、暑い外気を部屋に取り込むことになります。
この熱変化はそのまま熱負荷として考えます。
換気をしなければさまざまなリスクがでてくるので、作業環境や作業人数に応じて一定量の換気は必要です。
クリーンルームなど特定の環境では、換気回数として定めるでしょう。
換気回数はどこまで考えるべきか?
工場でのエアコンを設計をしていると、換気回数は悩みの種になります。
簡易計算や詳細計算で熱負荷として最も大きな要素となるのが、実はこの換気回数です。
頑張って部屋のサイズ・熱伝導率・室内の負荷を計算したとしても、その量よりはるかに大きい値になります。
何のために計算したのか分からなくなるくらい。
換気回数は一般に決まっている環境もありますが、工場内では一般化された環境ではなく換気回数を決めれない場合があります。
特に防爆が求められる環境では、過剰な動力のエアコンを付けるにはコストが非常に高くなります。
だからこそ、換気回数を真面目に考えるよりは、実績見合いでの面積比例の計算をして使用者の感度を聞いて型式を1つ上げるかどうかという判断をする方が現実的でしょう。
換気回数が定められている環境でも、結局は換気回数を含めた実績をもとに面積比例で計算する方がいいかも知れません。
参考
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最後に
エアコンの冷却能力設計の基本的な考え方を紹介しました。
面積比例・簡易計算・詳細計算の3つに分かれますが、現実的には面積比例が多いです。
簡易計算は伝熱計算とエアコン能力の選定という関連性を理解するのに役立ちますが、実務上は失敗する確率があります。
換気回数が大きな要素を占めるということが分かればOKでしょう。
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