多管式熱交換器(Shell and Tube)の主要部品とその機能をまとめてみました。
基本的な横型・固定式の多管式熱交換器を例に部品の概要を解説します。
プラントの機械系エンジニアにとって主要機器である多管式熱交換器。
化学プラントの装置としては構造はやや複雑ですが、機電系エンジニアならちゃんと理解しておきたいです。
初心者にとっては、最初から図面とにらめっこしても理解しにくいので、本記事で概要を先に理解すると図面が見やすくなることでしょう。
多管式熱交換器(Shell and Tube)の概形
多管式熱交換器の構造は外観上は以下のような形をしています。
多管式熱交換器はボンネット部とシェル部の2つの部品に大きく分かれます。
ボンネット部にプロセス液・シェル部に冷却液を付けるというケースが多いですが、実はいくつものパターンがあります。
ボンネット | シェル | 用途 |
---|---|---|
プロセス | 冷却液 | プロセス液を冷やしたい |
冷却液 | プロセス | プロセス液を冷やしたい(プロセス液が綺麗) |
プロセス | 加熱液 | プロセス液を温めたい |
加熱液 | プロセス | プロセス液を温めたい(プロセス液が綺麗) |
バッチ系化学プラントでは熱交換器でプロセス液を冷却することは多くても、加熱することは少ないです。
蒸留のコンデンサーとして使うことが多いです。
連続系ならリボイラーなどの用途で加熱します。
チューブ・チューブシートが多管式熱交換器(Shell and Tube)の第1部品
熱交換器の王道ともいえる部品がチューブです。
多管式熱交換器がシェルアンドチューブと呼ばれますが、この「チューブ」が熱交換の骨格の部分です。
多くのチューブを一定のルールで配列して、チューブシートで両端を固定する構造をしています。
プロセス液を冷却するという場合を想定するとき、チューブという隔壁を通して、プロセス液と冷却液が熱交換をされます。
チューブの伝導伝熱と液側の対流伝熱で熱が伝わります。
多管式熱交換器の主要指標である伝熱面積は、このチューブの表面積で決まります。
チューブの径はできるだけ小さい方がよく、厚みはできるだけ薄い方が好ましいです。
ここにチューブの強度を考慮してサイズを決めていきます。
チューブはチューブシートと溶接で結合します。
薄いチューブが多数配置された状態で溶接をするため、溶接の難易度としては相対的に高いです。
自動溶接機で溶接する場合もあります。
溶接でシール自体はできますが、チューブとチューブシートの間には隙間が残ります。
隙間腐食を防ぐためにも、隙間はできるだけ小さくしたいので、拡管というチューブを広げる作業をすることが一般的です。
ボンネット
ボンネットはチューブに通すプロセス物の入口部品です。
プロセス配管の口径よりもチューブシートの口径の方が圧倒的に大きいことが普通であり、口径を広げるための部品と考えても良いでしょう。
耐圧性を考える場合は鏡板の形状の方が好ましいですが、レデューサで代用する場合もあります。
ボンネットとチューブシートはフランジで接続します。
フランジ口径が大きくなるので、シールはガスケットで行います。
サイズが大きいため、ガスケットのセット位置がずれやすく、位置を固定させるためにフランジ面に溝を作ると良いでしょう。
このフランジはJIS10kにこだわる必要は全くありません。
配管がJIS10kだからノズルはJIS10k、そのままチューブシートもJIS10kと統一させる必要まではないという意味です。
耐圧を確保できるだけのフランジ厚みにしていればOKでしょう。
ボンネットは構造上、液が溜まる構造をしやすいです。
ボンネットに底抜きノズルがない形状であれば、下の図の位置で液が溜まります。
ボンネットの底部よりもチューブシート中のチューブ末端の方が高い位置にくるため、やむを得ません。
液溜まりを嫌う場合には底ノズルを付けましょう。
上図の右側のボンネットのような形ですね。
シェルが多管式熱交換器(Shell and Tube)の第1部品
シェルはチューブの外側に液やガスを通すための配管の代わりをする部品です。
チューブシートとシェルを溶接でつないでしまうパターンを固定式と呼びます。
固定式以外にもいろいろなパターンがありますが、固定式が最もシンプルな構造をしています。
固定してしまうため、チューブ外側の汚れがあっても洗浄がしにくいという問題を抱えます。
そのため、固定式の場合はシェル側にはできるだけ綺麗な物を流すのが基本となります。
ケースバイケースです。
コンデンサーの場合、プロセス液の方が冷却液よりも綺麗なことが多くプロセス液をシェル側にしたいのですが、腐食性が高くてチューブ側にせざるを得ないということが多いです。
これはチューブがカーボンやガラスとなる場合です。
ステンレスの熱交換器の場合なら、選択肢はぐっと広がるでしょう。
シェルを単なる配管で作ってしまうと、熱交換の効率が悪くなります。
そこでバッフルを付けて、シェル側の流れを強制的に変えてしまいます。
設計上はこのバッフルの間隔が変数になります。
バッフルはチューブシートと100%同じ形にせずに、部分的に切り欠きを付けます。
その切り欠き部が通り道になります。
切り欠きの配置は水平と垂直の2パターンがあります。
この辺は趣味の世界になりがちですね。
バッフルはチューブと連結しているわけではありません。
その割にバッフル間隔が重要な指標となるため、固定は大事な要素です。
この図の通り、タイロッドとスペーサという部品でバッフルを固定します。
バッフルとバッフルの間にスペーサを付けて、タイロッドでスペーサが落ちたり位置が変わらないようにします。
タイロッドの片方をチューブシートとネジなどで繋げてしまい、他方をバッフルとナットで固定します。
こうして、バッフルをチューブと固定させます。
参考
関連情報
熱交換器についてさらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
多管式熱交換器の主要部品を解説しました。
シェル・チューブ・ボンネット・フランジ・ガスケット・バッフル・タイロッド・スペーサなどが重要です。
図面に詳細に書いている場合もあるでしょうが、細かくて見にくいはずなので、まずは概要を把握してから図面を見ると良いでしょう。
プラントの機械エンジニアとしては必須の知識です。
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