建設プロジェクトマネジメント(project management)を上手にするための、機械エンジニア目線で可能なポイントを5つ紹介します。
杓子定規な仕事の仕方では、プロジェクトはうまく進みません。
誰がどうやって決定するか「あいまい」なまま、時間だけが過ぎていき納期が間に合わない。
そうなって初めて、何とかして工期を短くできないか・・・
と悩んでいるエンジニアはとても多いです。
そういう状況にならないように、先手を打った対応がプロジェクトでは求められます。
これまで10億円以上のプロジェクトを何件も後期遅延なく処理した私が、普段意識していることをまとめてみました。
概念設計に特化
オーナーエンジニアの機械設計では概念設計に特化しましょう。
細かい設計はしないと割り切る思想です。
どこまでがオーナーの設計でどこからがメーカーの設計なのか分かりにくいでしょう。
タンク・熱交換器・ポンプという標準的な装置を例に解説しましょう。
まずはタンク設計から。
タンク設計の役割分担例 | オーナー | メーカー |
容量 | ○ | |
径 | ○ | |
高さ | ○ | |
材質 | ○ | |
板厚 | △ | △ |
ノズル・マンホール口径 | ○ | |
プラットフォーム | △ | △ |
ノズルオリエンテーション | △ | △ |
板取り | ○ | |
溶接方法 | ○ |
ここで○の部分はオーナーとメーカーで明確に分かれる部分でしょう。
変わることはそうそうありません。
問題は△の部分。
どこまでメーカーに依頼するかという視点で、オーナーは考えてみましょう。
- 板厚ならメインの強度計算のみを行って、ノズル当て板などの計算はメーカーに依頼
- プラットフォームはノズルオリエンテーションを決めた後に、メーカーに依頼
- ノズルオリエンテーションはノズル数だけをメーカーに伝えて、配置できるかどうかをメーカーに依頼
こんな感じの発想です。
実際に製作するメーカーが詳細検討をしてやっと解決できるという問題がいくつかあります。
そこをオーナーがCADで真剣に考えるべきか・そんな余裕があるのかという視点に立てば、メーカーに依頼した方が早く確実だという結論が考えられます。
これはオーナーの設計環境にも依存します。
メーカーに依頼した方が確実で信頼感があると、メーカーに依存しがちなオーナーならこの思考で良いと思います。
でも、メーカーの設計も完全ではありません。
製作図を作っていざ製作をしようとしたら、工場現場からクレームが来てオーナーに修正依頼をした。
こんな例が最近でもあるくらいです。
同じように熱交換器とポンプも見てみましょう。
b熱交換器設計の役割分担例 | オーナー | メーカー |
伝熱面積 | ○ | |
径 | ○ | |
長さ | ○ | |
パス数 | ○ | |
材質 | ○ | |
板厚 | △ | △ |
ノズル口径 | ○ | |
ノズルオリエンテーション | △ | △ |
板取り | ○ | |
溶接方法 | ○ |
分担構成はタンクとほぼ同じです。
同じ製缶機器なので当たり前といえば当たり前。
続いてポンプ。
ポンプ設計の役割分担例 | オーナー | メーカー |
型式 | ○ | |
流量 | ○ | |
揚程 | ○ | |
材質 | ○ | |
フラッシング | △ | △ |
モーター容量 | ○ |
ポンプは小型なら設計要素はほとんどありません。
モーター容量はポンプ効率と直結しますので、メーカーに依頼するべきです。
大体これくらいだろうと計算することも可能ですが、そこまで差し迫った状況になることはそうはないでしょう。
ポンプ設計よりも電気設計が優先されるという超レアケースを想定することになります。
とはいえそんな状況になったとしても、ポンプ効率を仮定すれば計算は可能です。
機械エンジニアとしてはメーカーにモーター設計を依頼しっぱなしではなく、自分である程度計算できるようになった方が応用が効きますよ。
とにかくリスト化
大量の設備設計の速度を速めようとしたときは、リスト化して整理しましょう。
膨大な量を前に途方に暮れがち。
あー何からしよう・・・どうしよう・・・って悩みをずっと抱えて、
そうだ!これが分かりやすいから、とにかくやってみよう!って直近の問題に取り掛かりがちです。
リスト化したからといってそこで満足するのはダメ。
リストを常に手元において、日々の進捗を反映させるような管理が必要です。
個々の機器に対して決めるべき仕様を一覧化して、決まっている内容をとにかく埋め込んでいく!
これは膨大な量が決まっていないように見えて、実は結構な量がすでに決まっているという精神的に安心する効果があります。
機器設計だけでなく工事設計も視野に入れたリスト化をしておくと良いでしょう。
プロジェクトにおける機器リストは、エンジニアリングの基礎資料としてとても大事ですね。
標準仕様の設定
オーナーが標準仕様を決め込んでおくと、早回し可能です。
決め込むだけでなく使わないと意味がないですね。
例えば、10m2・20m2・30m2の熱交換器の標準図を作っておいて、設計結果が16m2くらいなら20m2に上げてしまう。
これを徹底していくという発想です。
個別詳細設計という狭い思想で設計を繰り返しているオーナーエンジニアには、この発想が薄い人がいます。
既存の設備の単純更新ばかりしている弊害です。
この辺の思想が行きつけば、熱交換器の伝熱計算でU値の計算が不要ということに気が付くでしょう。
計算体系や支配要素を知ることは重要ですが、毎回計算をするというのは非効率。
同じようなプロセス条件であることさえわかれば、後は思い切りですね。
担当者としては気が付きにくい部分ですが、上司に相談してみましょう。
理解ある上司なら協力してくれるはずです。
見積で決める
設計仕様が決まっていない段階でも進めるコツとして強力なのが、とにかく見積もってみるというもの。
見積工数は若干増えるけど、決定時期が早くなることを優先させる思想です。
例えばタンクの材質でSS400がいいのかSUS304がいいのか、議論が分かれるケースがあります。
こんな場合には、SS400とSUS304の2ケースを見積してみましょう。
その結果で材質を決めても良い例があります。
これを過剰に行うと、工数が増えていく方向になるので注意!
メーカーが見積ばかりを行うことになって、見積時間が延びるからです。
同じように相見積先を増やすこともリスクがあります。
1社だけの見積は危険ですが、これを5~6社と増やしたらいいのかという問題。
調達部の管理も大変なら、エンジニアの査定でも大変です。
2~3社に絞った相見積がやはり理想的でしょう。
分割発注
分割発注は工事の時に使う思想です。
工事資料が100%完成してから、工事会社に見積を掛けるのが普通ですよね。
でもこれを80%くらいの精度で先に発注をしてしまおうという思想です。
通常は6か月かかって工事資料を作って発注するという例を考えましょう。
通常 | 3か月 | 6か月 |
進捗 | 80% | 100% |
発注 | ○ |
6か月経つまで当然ですが発注できません。
早回し | 3か月 | 6か月 |
進捗 | 80% | 100% |
発注 | ○ | ○(追加) |
ところが、工事資料というのは時間と共に線形に推移するものではなく、例えば3か月目で80%くらい完成するケースもあります。
これは普通の仕事でも同じですよね。
3か月目で80%も進んでいたらその段階で発注を掛けるという発想です。
当然残り20%はまだ決まっていないのですが、それは6か月目に追加という形で処理します。
これは発注コストをちょっと犠牲にするけど、速度を重視しています。
早回しケースの費用配分として一般にはこんな感じで考えるでしょう。
費用 | 3か月目 | 6か月目 | 合計 |
通常 | 0 | 100 | 100 |
早回し | 85 | 25 | 110 |
労務費・資材費の高騰に加えて調達納期も延びていっています。
発注時期が遅れて単価がアップするくらいなら、先に確保してしまうのは手です。
最悪こんなケースが起こりえます。
費用 | 3か月目 | 6か月目 | 合計 |
通常 | 0 | 120 | 120 |
早回し | 85 | 25 | 110 |
個々の案件の発注額だけを見ていると気が付きません。
時は金なり、ですね。
参考
関連記事
さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
化学プラントのプロジェクトを早回しするために発注関係でできることを解説しました。
設計をオーナーとメーカーで明確に分ける・標準仕様を決める・リスト化して整理・見積で決める・分割発注
設備調達と工事調達の2つをコスト・スケジュールのバランスを取りながら優先順位を決めていきます。
こういう調整ができるようになるとエンジニアリングの可能性の広さに気が付くでしょう。意外と面白いですよ。
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