ステンレス(stainless)、、化学プラントで非常に大事な材質です。
化学プラントでは多くの腐食性物質を取り扱います。
鉄だとかんたんに溶けてしまうアブナイ液体です。
そういう液体に耐える材料として、ステンレスと一般に呼ばれる材質が世の中に存在します。
ステンレスでも種類はいろいろ。数は非常に多いです。
バッチ系化学プラントでは、SUS304とSUS316Lという2種類だけを知っていれば十分合格範囲です。
この記事を読むと、2種類の材質の違いを知って現場で使いこなせるようになるでしょう。
製造課からの信頼も得やすくなります。
バッチ系化学プラントで使うステンレス(stainless)の種類
バッチ系化学プラントで使用するステンレスの種類を紹介しましょう。
炭素鋼に元素Ni,Crを添加
ステンレスは炭素鋼に元素を添加したものです。
炭素鋼という基本があって、特定の元素を添加した応用物がステンレスです。
元素としてはニッケルNi、クロムCr、モリブデンMoなどがあります。
この添加の度合いによって種類が分かれます。
Fe-Cr系(フェライト・マルテンサイト)
鉄FeにクロムCrを入れると、耐食性が上がります。
これは金属表面にクロム酸化物という酸化物皮膜ができるからです。
鉄の周囲を覆うバリアー
こんなイメージでいいでしょう。
Crがほとんどない普通の鉄Feは、大気中においていると錆びます。
ところが、Crが12%以上になると、大気中ではほとんど腐食しなくなります。
ステンレスの系統は添加物の種類によってグルーピングされます。
FeにCrを添加した中心にしている基本的なグループをFe-Cr系と言います。
簡単に言うとこの理解で良いでしょう。
- 炭素Cが多いと、強度が上がる
- クロムCrが多いと、耐食性が上がる
このCrと炭素鋼のCの割合でマルテンサイトとフェライトとに分かれます。
マルテンサイトはCrが少ない
マルテンサイトは耐食性を犠牲にして、機械的強度を優先させています。
JISではCr量11.5~18%、C量1.1%以下です。
溶接後に急冷することで、異物としてマルテンサイトが析出することがあります。
フェライトはCrが多い
フェライトはCrが多いです。
耐食性を重視しています。
JISではCr量11~32%、C量0.12%以下です。
溶接後に急冷しても異物となる結晶は析出しません。
塩化物イオンによる応力腐食割れにも強いです。
Fe-Cr-Ni系(オーステナイト)
Fe-Cr系にNiを加えたものをFe-Cr-Ni系と言います。
一般的にはオーステナイト系ステンレスと呼ぶでしょう。
Niを加える理由は、耐食性の範囲を拡大させることと、機械的性質を上げること。
Fe-Cr系では耐食性と機械的性質がトレードオフの関係になりますが、Fe-Cr-Ni系ではこれを改善するためにNiを入れたと考えれば良いでしょう。
JISではCr量16~26%、Ni量4~26%です。
SUS304
SUS304はオーステナイト系ステンレスの基本です。
鉄系の材質では腐食してしまう液体に対して、まずは304を考えます。
バッチ系ではプロセス送液配管に304を使うことが多いと思います。
バッチでは様々な種類の生産を扱うため、ここの耐食性を議論するのは、かなりの労力を使います。
それくらいであれば、何にでも使える材質を選んでおく方が良いでしょう。
そういう観点で、鉄は使用しません。
「プロセス液はとりあえず304以上にしておこう」という感覚で、バッチ系では使用します。
「とりあえず」でどの材質を選ぶかは設計思想が分かれるところ。
SUS316L
SUS304だと応力腐食割れが起こる可能性がある場合には、SUS316Lを使います。
316Lは応力腐食割れに対して強いので、304よりも安心感があります。
304だとちょっと不安だから1ランク上げて316Lにする、という思想がバッチ系では多いと思います。
昔はSUS304Lを選ぶこともありましたが、現在では流通量が減少しています。
応力腐食割れを気にする場合はSUS304からいきなりSUS316Lにグレードをあげることになります。
二相ステンレス
二相ステンレスはオーステナイト相とフェライト相の2つの相からなります。
フェライト相の割合は40~70%程度です。
SUS329系が該当します。
万能に見えるオーステナイト系ステンレスの唯一の欠点ともいえる、応力腐食割れを改善しています。
- フェライトは応力腐食割れに強いが、耐食性・機械的強度が不安
- オーステナイトは応力腐食割れに弱いが、耐食性・機械的強度が強い
いい所どりをしようという発想です。
316Lでも対応できない系に対して、高級金属で対応するには二相ステンレスが候補となります。
これは塩濃度が高い・温度が高いという超特殊な系。
当然ながら非常に高価ですので、採用する場合にはプロセス開発時に綿密に検討するのが普通です。
化学成分
主要4材の化学成分を下記に示します。
グレード | C | Si | Mn | P | S | Ni | Cr | Mo | N |
SUS430 | 0.120 | 0.75 | 1.00 | 0.040 | 0.030 | – | 16.00 | – | – |
SUS304 | 0.080 | 1.00 | 2.00 | 0.045 | 0.030 | 8.00 | 18.00 | – | – |
SUS316L | 0.030 | 1.00 | 2.00 | 0.045 | 0.030 | 12.00 | 16.00 | 2.00 | – |
SUS329J4L | 0.030 | 1.00 | 1.50 | 0.040 | 0.030 | 5.50 | 24.00 | 2.50 | 0.08 |
SUS304とSUS316Lを見比べましょう。
SUS316Lは炭素Cが少ない
SUS316LがLow Carbonであり、C量を下げて、鋭敏化を緩和します。
SUS316LはモリブデンMo
SUS304とSUS316Lを区別するときに、モリブデンチェッカーを使うことがあります。
現場担当者としてはその理解だけで十分です。
SUS329J4LはNiとCrに注目
SUS329J4LはNiとCrに着目しましょう。
NiはフェライトであるSUS430では0、オーステナイトであるSUS304では8、この間くらいの5.5が二相ステンレスであるSUS329J4lです。
Crの量はフェライトやオーステナイトよりも高くしています。
これは二相組織とするためにどうしても必要な要因のようです。
二相ステンレスは単層のフェライトやオーステナイトよりも、金属組織が細かいという特徴があります。
このため、強度も相対的に高いです。
しかし、金属組織が細かいという事は粒界面積が広いという事になります。
その分、鋭敏化のリスクが高まるため、Crを多く入れているのでしょう。
バッチ系化学プラントでのSUS304とSUS316Lの使い分け
プロセスエンジニアや機械エンジニアの方で、担当する工場でSUS304とSUS316Lをどう使い分けるか答えられますか?
材質の分野でもかなり基本的なことです。
答えられるようになっておきたいですね。
教科書的な内容だけをインプットして、アウトプットを意識していないとなかなか答えられません。
言語化は大事。
そういうわけで、バッチ系化学プラントでのSUS304とSUS316Lの使い分けについて解説します。
若干リスクの高い場所はSUS316L
SUS316LはSUS304に比べてリスクの高い場所に使います。
- pHが低い・酸が強い液ではなく
- グラスライニングやフッ素樹脂ライニングを使用するまでもない
- SUS304でも悪くはない
こんな場面はバッチ系化学プラントでは非常に多いです。
とくにSUS304でも悪くはないというのがポイントです。
SUS304でも大丈夫なら、SUS316Lなんて使わずにSUS304を使えばいいだけ。
それでもSUS316Lの方が寿命が長いから、SUS316Lを選んでおこう。
こんな葛藤の中で選択されるのがSUS316Lです。
ある意味でビビりと言われるかもしれませんね。
ここを意識していないと、SUS316Lだと応力腐食割れが起きないなんて曲解をする可能性があります。
バッチ系化学プラントでリスクの高い場所
リスクの高い場所はSUS316Lを使うことは分かったとして、具体的にどこがリスクの高い場所でしょうか。
以下のような場所が該当します。
- 反応装置(配管はSUS304で、装置がSUS316L)
- 高温の場所(反応器・ガスライン)
- 塩濃度やスラリー濃度が高い場所
- 高圧や高速など他の設備より負荷が高い装置
それぞれ解説します。
反応装置
配管がSUS304であっても反応装置はSUS316Lにするというケースはよく見かけます。
配管に比べて反応装置には危険物を大量に保有します。
材質をSUS304にしておいて装置が腐食など故障した場合は、周囲に漏れていって大惨事になります。
これをできるだけ避けるためにリスクを下げるSUS316Lにしておきたいというのは真っ当な思想。
SUS304に比べて費用・納期が若干不利ですが、安心感というメリットは大きいです。
例外としては以下のような場合があります。
貯槽やバッファタンクレベルならSUS304を使う場合も。これは装置を配管代わりに考える例です。
複雑な反応を伴わない撹拌槽もSUS304に。
この辺の使い分けはプロセスを理解していないと判断しずらいですよね。
高温の場所
高温の場所もSUS304ではなくてSUS316Lにしておきたいですね。
具体的には反応装置やガスライン。
温度が10℃上がると反応速度が2倍になる、なんて言われますよね。
温度が高いプロセスではリスクを下げるSUS316Lにしておきたいと思うのもある意味当然でしょう。
塩濃度・スラリー濃度が高い
塩濃度・スラリー濃度が高い場合も、SUS316Lを使う場合があります。
これは完全にプロセス液に依存するので、ケースバイケース。
教科書的な腐食データが温度・濃度に依存することを思い出せれば、想像がつく内容です。
実務上で材質選定をする場合に使えると初級者は卒業して、中級者になったと言っていいでしょう。
高圧・高速の装置
高温装置と同じく、高圧・高速の装置もSUS316Lにしておく方が良いでしょう。
これもリスクを下げる目的。
高圧は例えば高圧ガスや第一種圧力容器など、高速は遠心分離機などが該当します。
通常状態では腐食性がそこまで高くないが、圧力という外乱要素が強くなった結果として腐食速度が上がる可能性はあります。
データを取得するのは難しいでしょうが、悩むならSUS316Lにしておくという感じですね。
エロージョン・コロージョンとリンクして、速度や圧力も腐食要因の1つと頭の片隅にあればOK
SUS316Lが手に入らない場合は
SUS316Lが手に入らない。
こんな場合はどうしましょうか。
SUS304で傾向監視をしながら交換タイミングを見極める。
こんな発想でいきましょう。
これはイニシャルコストは下がりますが、生産時に監視レベルを上げたりメンテナンスコストが上がる方向です。
このバランスを崩すことになるので、ちゃんとメリットデメリットを認識して取り組まないといけません。
工場を建設した段階からSUS304を使っている場合はこういう発想にはなりませんが、もともとSUS316Lを使っている環境でSUS304を使うという場合は発想の転換が大事です。
資材の調達ができないというケースは色々な場面で増えているので、最悪ケースの想定という意味で考えておいた方が良いでしょう。
極端に言うと配管はすべてSUS304で良いような気がします。
参考
材質は化学プラントのエンジニアに必須のスキルです。
種類はとても多く、ステンレスだけでも膨大な量です。
全体像をつかむには以下のような本がおススメ。
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最後に
バッチ系化学プラントで使うステンレス鋼について解説しました。
フェライト・マルテンサイト・オーステナイトの分類とSUS304・SUS316L・SUS329J4Lについて解説しています。
一般的には重要度の高い所はSUS316L、それ以外はSUS304と選択したいところ。
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