化学プラントの図面や設備リストを見ていて、「グランドパッキン(グランドシール)って何?」と思ったことはありませんか?
これは特に液面の差や圧力の変化を利用して、ガスの逆流や漏れを防ぐ装置です。目立たない部品ですが、安定運転や安全確保において非常に重要な役割を果たします。
グランドパッキン(グランドシール)はシール系で最も古い技術で、今も当然使っています。
ところが機械系エンジニアはメカニカルシールの代替としてのグランドパッキン(グランドシール)という認識が強くて、存在そのものを認識していない場合が多々あります。
グランドパッキン(グランドシール)の原理も良く分からず何となく使ってしまいますが、ちゃんと考えて使わないと思わる失敗をするでしょう。
この記事では、グランドシールの目的・仕組み・設置ポイントを、初心者にもわかりやすく解説します。

グランドは古典的で幅広い場所に使われるシールです。
グランドパッキン(グランドシール)とは
そもそもグランドパッキン(グランドシール)って見たことあるでしょうか?実物を見る機会すら少なくなっていますね。グランドパッキンという方が適切でしょう。
繊維を編んで紐状にした物体を丸めてリング状にします。1つのリングを4段重ねてシールとして使います。
特に以下のような場面で使われます:
- 設備間の圧力差による不安定を防ぐ
- 可燃性ガスの逆流を防ぐ
- 雰囲気ガス(窒素など)が漏れないようにする
グランドパッキン(グランドシール)+ランタンリング
よくあるタイプは、グランドパッキン(グランドシール)を4段くらい直列に繋いだものです。

グランドパッキン(グランドシール)をスタッフィングボックスにセットして、グランド押さえて圧力を加えて押さえます。これで強制的にシール部を作ります。
シャフトが高速回転するとグランドパッキン(グランドシール)は摩擦熱を持ちます。プロセス液である危険物が引火爆発する恐れがあるので、冷却するために外部から冷却水を引き込みます。スタッフィングボックスに穴をあけておき、グランドパッキン(グランドシール)にも通り道を作ります。
この通り道となる部品をランタンリングと言います。
上の図はグランドパッキン(グランドシール)2段+ランタンリング+グランドパッキン(グランドシール)2段という構成です。
グランドパッキンが2段なのか3段なのかは機器によって変わります。
グランドパッキン(グランドシール)3段+ランタンリング+グランドパッキン(グランドシール)2段 (追記)
グランドパッキン(グランドシール)3段+ランタンリング+グランドパッキン(グランドシール)2段のケースを考えましょう。
よくある例ですが、しっかり考えられた構造です。

グランドパッキン(グランドシール)3段はプロセス側で、グランドパッキン(グランドシール)2段は大気側です。
グランドパッキン(グランドシール)では水を漏らしながら使う、と言われるのはこの辺りに理由があります。
段という概念自体が変ですが、3段のうちのどこか1段のある部分でシールされていると考えるのが良いでしょう。
この部分で、プロセス液の圧力とシール冷却水の圧力を受けて変形したグランドパッキン(グランドシール)が、シールしています。
グランドパッキン(グランドシール)は摺動熱を受けると、変形したり摩耗したりします。
これを抑えるためにも冷却水は必要になります。
グランドパッキン(グランドシール)全段に液が流れていることが望ましいですが、ランタンリングから冷却水を入れていると、どこまで冷却水が流れているか見ることはできません。
そこで、グランドパッキン(グランドシール)2段の大気側から水が流れていることをもって、全段に水もしくはプロセス液が流れていると考えます。
大気側の2段のグランドパッキンがないと、大気側の圧力損失がほぼなくて冷却水がプロセス側に流れなくなります。
プロセス側を3段・大気側を2段としているのも、逆のプロセス側2段・大気側3段だと冷却水が圧力損失的にプロセス側に冷却水が流れる可能性が高いです。
この辺りを考慮して、プロセス側を3段・大気側を2段とすると分かりやすいです。
もしかしたら、以下のようなケースはあります。
- プロセス側の3段のグランドが利かなくなって、大気側の2段でシールされている
- プロセス側の3段のグランドが利かなくなって、プロセス側に冷却水が混入している
1は大気に漏れている冷却水に着色したりして判別できる可能性があります。
2は大気側のグランドパッキン(グランドシール)に水が行かなくなった段階で摩耗が進み、グランドパッキン全段が効果を失って、結果的に大気側に冷却水が漏洩します。
ランタンリングなし
グランドパッキン(グランドシール)はランタンリングを付けない、もしくは注水をしないタイプも存在します。
例えば粉体シール関係は基本的に注水による冷却をしません。
粉体設備は回転数が一般に遅く、グランドパッキンの摩擦熱が高くないという側面もあります。
ランタンリングを使った閉塞防止
ランタンリングは冷却水を想定することが多いですが、実は別の使い方があります。
それが粉体閉塞防止です。
グランドパッキン(グランドシール)部はいわゆる「溜まり部」となりがちです。
粉体ならそういう溜まり部に溜まってしまう可能性があります。
それを防ぐためには窒素シールが有効。
ランタンリングから窒素を流すことで、溜まり部に気体の流れを作って粉体が入り込まないようにします。
窒素シールを使うかどうかはプロセスの安全性・設備の特性・作業安全性など多くの要素を考えないといけません。
材質
グランドパッキン(グランドシール)の材質はいろいろあります。
化学プラントで使うグランドパッキン(グランドシール)だけでも以下の材質があります。
- 黒鉛
- アラミド繊維
- PTFE
ここでピンときたあなたはガスケットマニアです。
そうです。これらの材質はノンアスベストのジョイントシートガスケットそのもの。
ガスケットもパッキンもシールという意味では同じだから、当たり前と言えば当たり前。
グランドパッキン(グランドシール)は存在価値が高くないので、言われるまで気が付きにくいですよね。
複数段にする理由
グランドパッキン(グランドシール)を複数段重ねるのはちゃんと理由があります。
グランドパッキン(グランドシール)の複数段のうち実際にシールが効くのは1段だけ
4段でくみ上げたパッキンで、1段目のシールが効いていて使っているうちに寿命が来たとしましょう。
この時は2段目~4段目のどこか1段が次のシールとして機能します。
繰り返していって4つのシールすべてが駄目になれば寿命です。
この発想はVパッキンやオイルシールと同じ発想です。
Vパッキンもオイルシールもグランドパッキン(グランドシール)と同じパッキンという動機器向けのシールだから、当たり前と言えば当たり前。
グランドパッキン(グランドシール)を使う場所
グランドパッキン(グランドシール)を化学プラントで使う場所について解説します。
ポンプの軸封
グランドパッキン(グランドシール)はポンプの軸封に使います。
現在でも、水系のポンプにはグランドパッキン(グランドシール)が使われている場合はあるでしょう。
ドライフロアには全く向かないので注意が必要です。
グランドパッキン(グランドシール)は冷却水が漏れているのが普通。
漏れていない方が異常です。
水を漏らすということは、ポンプ周りが水浸しになります。
歩いている時に転倒する恐れもありますし、異物の原因ともなれば、藻などの発生原因ともなります。
水を漏らしても良いことはほとんどありません。
撹拌槽の軸封
撹拌槽の撹拌軸にグランドパッキン(グランドシール)は使います。
一般的な撹拌槽ならドライシールやメカニカルシールを使いますが、漏れなどどうでもいい撹拌槽ならグランドパッキン(グランドシール)を使うこともあるでしょう。
グランドパッキン(グランドシール)の方が安価なので、積極的に使うケースもあるかもしれませんね。
撹拌槽はポンプに比べれば回転数が小さいので摺動熱が少なく、冷却水を使わなくても使えるケースがあるので、グランドパッキン(グランドシール)を使いやすい環境にあると言えるでしょう。
ファンの軸封
ファンの軸封にグランドパッキン(グランドシール)を使う場合があります。
ポンプよりはファンの方がグランドパッキン(グランドシール)を使いやすい環境にあります。
ドライフロアーを気にしますからね。
冷却水を使わないで良いファンの方が、グランドパッキン(グランドシール)を使いやすい環境にあるでしょう。
ファンでグランドパッキン(グランドシール)を使うとグランドは摩耗してシールの機能は失われますが、開口部が狭いので漏れ量が少ない状態を維持できます。
でも、同じ漏れを許容するならラビリンスシールの方が無難ですけどね・・・。
バルブのシール
気が付かないかも知れませんが、バルブ類のシールにグランドパッキン(グランドシール)は使います。
バルブの弁棒も回転機のシャフトと同じ可動部です。
人が動かすか機械が動かすかだけの違い。
シール機構は必要です。
手動バルブならシールは最も安価なグランドパッキン(グランドシール)を使うでしょう。
回転機器ならグランドパッキン(グランドシール)以外の手段も考えられますが、バルブはグランドパッキン(グランドシール)一択と考えて良いです。
グランドパッキン(グランドシール)を避ける理由
化学プラントでグランドパッキン(グランドシール)を避ける理由を紹介します。
代替候補であるメカニカルシールとの比較をします。
冷却水が必要
グランドパッキン(グランドシール)は冷却水が必要です。
グランドパッキン(グランドシール)はシャフトとケーシングのシールをするために、編み物で強引に蓋をする発想です。
シャフトとグランドパッキン(グランドシール)の間には常に摩擦が発生します。
シール水が無いと、グランドパッキン(グランドシール)は一瞬で熱を持ち劣化します(焦げたり、破損したり・・・)
シール水はランタンリングから注水して、プロセス側・大気側の両方に液が流れるようにします。
プロセス液による冷却では、グランドシールの1段目しか効果が無いからです。
グランドパッキン(グランドシール)は4~5弾で構成して、多段によるシール効果を期待しても、
シール水がないとグランドパッキン(グランドシール)の設計思想が一破綻します。
冷却水が必要なグランドパッキン(グランドシール)に対して、メカニカルシールでは冷却水を無くせる可能性があります。
セルフフラッシングで対応できる可能性があるからですね。
冷却水が必要な分。変動費(水処理・動力)などが大きなデメリットになります。
メカより漏れる
グランドパッキン(グランドシール)はメカニカルシールよりも漏れます。
ドライフロアーに反してTPMの思想から外れることになるでしょう。
グランドパッキン(グランドシール)はできるだけ避ける最大の理由ですね。
損失が大きい
グランドパッキン(グランドシール)はメカニカルシールより損失が大きいです。
動力損失が大きいことは、渦巻ポンプではデメリット以外の何物でもありません。
そもそも渦巻ポンプを使うのは、以下の理由があるからです。
- ポンプ効率が高い
- 大流量でも送液可能
このうち、ポンプ効率を最適化するならメカニカルシールの方が有利です。
大容量のポンプはシールレスポンプでは使えないために、渦巻ポンプを使います。
プロセス液とは違ってユーティリティ液をターゲットにすることが多く、24時間365日使うことを考えています。
ここでは、少しの損失ですらデメリットになります。
参考
グランドパッキン(グランドシール)は安価なので、安定的に使うためにも予備を持っておきましょう。
関連記事
最後に
化学プラントでグランドパッキン(グランドシール)を使う場所やその意味を解説しました。
- グランドパッキン(グランドシール)は封水によるガス遮断装置
- 設備間の圧力差や逆流を防ぐために用いられる
- 高低差・液選定・保全性が設計のポイント
小さな部品でも、プロセス全体の信頼性を支える重要な役割を担っています。
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