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土建設計

屋外タンクの耐震耐風設計:アンカーボルトが必要か見極める方法

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耐震耐風 土建設計
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 プラントで使用する屋外タンクや大型容器は、地震や台風の影響で転倒する可能性があります。
しかし、全てのタンクにアンカーボルトを取り付ける必要はなく、転倒計算によって固定の必要性を判定できます。
 本記事では、転倒モーメントと抵抗モーメントの基本的な考え方から、アンカーボルトが必要かどうかを見極める方法を解説します。

具体的な計算はこちらのフォームをご利用ください。

物体モデル

対象となる物体モデルです。

物体モデル(tank bolt)

円筒胴のタンクを考えています。直径D・高さH・重量Wのタンクです。

このタンクの耐震耐風計算とは、地震や台風が起きたときにタンクが移動するかどうかを判定するものです。アンカーボルトで固定せずに直置きすると、地震や台風でタンクが移動してもおかしくないですからね。危険物を大量に貯めるタンクだからこそ、移動は避けたいですね。

屋外タンクの場合なら、中に液体が入っていると重りになって移動はしにくくなります。液が入っていることを前提とした設計では、運転時に常に一定の液量を求められることになりますので、やめておきましょう。

地震

地震に対する抵抗性を考えましょう。転倒計算をする場合は、物体を少し傾けて1か所で地面と接している状況をイメージしましょう。

地面から浮いているわけではなく、浮きそうになっていて力が作用する部分が1か所という状況です。転倒しようとするまさに直前はこの条件になっていると考えられます。

転倒モーメント

地震によって物体が転倒する転倒モーメントを考えます。

地震転倒モーメント(tank bolt)

地震によって地面が動いてタンクが動いている時、タンクには水平の力が掛かっていると考えます。慣性力と同じ考え方で良いでしょう。これは重量に比例すると考えます。

専門用語で設計水平震度\(K_h\)という係数を、重量に掛けます。この値は地域や地盤の状況によって変わります。(1以下です)

地震によってタンクが水平の力を受けていてタンクの重心高さがH/2であるので、タンクが転倒しようとするモーメントを計算できます。

$$ K_hW\frac{H}{2} $$

抵抗モーメント

転倒モーメントとセットで考えるのが抵抗モーメントです。

地震抵抗モーメント(tank bolt)

物体が少し浮いたとしても、自重で転倒する方向と逆方向に倒れようとします。これが転倒に対する抵抗モーメントとなります。

重力は\(W\)そのものではなく、ある係数だけ引いた値となっています。これを設計鉛直震度\(K_v\)いいます。

$$ K_v = \frac{K_h}{2} $$

転倒モーメントの計算を振り返ってみると、重量Wのうち水平方向に\(K_h\)・垂直方向に\(1-K_h/2\)という配分をしていることが分かります。抵抗モーメントは、自重と半径の掛け算としてのモーメントで決まります。

$$ (1-K_v)W\frac{D}{2} $$

判定

転倒モーメントと抵抗モーメントの大小関係を判定します。転倒しないようにすることが目的なので、

転倒モーメント < 抵抗モーメント

となっていればいいわけですので、判定式は以下のようになります。

$$ K_hW\frac{H}{2} < (1-K_v)W\frac{D}{2} $$

少し変形して、

$$ \frac{H}{D} < \frac{1-{K_h/2}}{K_h} $$

これはタンクの概形を決めるための大きな制約条件になります。

例えば、\(K_h=0.2\)としたときには右辺=0.45となるので、アンカーボルトを付けない場合にはタンク高さHはタンク径Dの0.45倍以下にしなければいけないことになります。

直感的に背が高いタンクほど転倒しやすいので、分かりやすいでしょう。FRPタンクのような大型の水系タンクであれば、この条件を満足することはできません。この場合には素直にアンカーボルトを付けましょう。

風圧

風圧に関する転倒計算も同じように考えましょう。

転倒モーメント

転倒モーメントは、タンクが風の力を直接受ける状況を考えます。

風圧転倒モーメント(tank bolt)

イメージしやすいでしょう。風の力は圧力×面積で決まります。

風の圧力は風力係数とタンク高さの平方根で決まる値。
風を受ける面積はタンク高さ\(H\)×タンク径\(D\)で決まる投影面積。

まとめて\(P_W\)という文字でおいておきましょう。転倒モーメントは地震の時と同じ発想になります。

$$ P_W\frac{H}{2} $$

抵抗モーメント

抵抗モーメントは地震の時と同じ発想です。

風圧抵抗モーメント(tank bolt)

地震の時のような自重の配分は考える必要がなく、全自重が抵抗モーメントとして寄与します。

$$ W\frac{D}{2} $$

判定

地震の時のように判定しましょう。

$$ P_W\frac{H}{2} < W\frac{D}{2}$$

以降の計算は省略します。

アンカーボルトが必要な場合

転倒計算をしてアンカーボルトが必要になった、場合も見ておきましょう。

アンカーボルト(tank bolt)

ボルトはタンクの周囲に数本付けることが普通ですが、1本にだけ集中して効くと考えると安全側です。ボルトを付けることで抵抗モーメントが、増加する方向になります。アンカーボルトが負担すべき力をFとすると、Fによる抵抗モーメントは

$$ F\frac{D}{2} $$

となります。

$$ P_W\frac{H}{2} = W\frac{D}{2} + F\frac{D}{2}$$

として力Fが決まります。アンカーボルトはコンクリートに付着して摩擦力として寄与するため、

(ボルトの周長)×(ボルト埋め込み長さ)×(コンクリート付着力) = アンカーボルト引き抜き力

として決まります。ここから、ボルトサイズを決定します。

参考

プラントの設計では強度計算など高校物理や材料力学の範囲がかなり多いです。

強度計算については以下のような本が参考になります。

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関連記事

さらに知りたい方は、タンクのボルト固定に関連する以下の記事をご覧ください。

最後に

  • 屋外タンクの転倒リスクは転倒モーメントと抵抗モーメントの比較で判定可能
  • 地震時は自重を水平方向・垂直方向に配分して計算
  • 風圧時は風力×投影面積で転倒モーメントを算出
  • 抵抗モーメントが不足する場合のみアンカーボルトで固定

耐震耐風計算を理解すれば、タンク設置の安全性を簡単に見極められます。

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コメント

  1. H より:

    タンクの転倒について調べていたところ、こちらのサイトに辿り着きました。

    こちらの例ではすべてタンク本体となっていますが、レグ脚がついたタンクでは転倒モーメントと拮抗モーメントの関係はどうなるでしょうか?

    • ねおにーーと より:

      コメントありがとうございます。

      考え方は重心が高くなるだけですが、関連する情報がありますので、1つ記事にします。