化学プラントの建屋も構造計算(Structural calculation)は欠かせません。
日本に住んでいたらほぼ避けることのできないのが地震。
地震から身を守るために住宅等の建築物の強度は絶対に必要となります。
この話は構造計算や強度計算として有名です。一昔前に偽装事件で話題にもなりました。
これが実は、プラントの増改築を伴う高ランクの建設プロジェクトでも直結する問題です。
簡単に改造できるように見えて、実は相当制約が大きいという話。
化学プラントの機電系エンジニアも知っておきたい知識です。
構造計算の問題で化学プラントの増改築は制約が大きいです。
耐震基準
プラント建設上の制約の中でもトップクラスに厳しい制約が耐震基準です。
耐震基準は建物の強度計算・構造計算とほぼ同義だと思っても良いでしょう。
この基準は、日本では珍しく基準が年々厳しくなっていきます。
というのも大きな地震が起こるたびに基準が見直されているからです。
逆に他の規制はそこまでドラスティックに変わることは少ないです。
既得権
日本の法律では既得権が認められることが多いです。
既得権とはここでは「すでに作られた建物は耐震基準が改訂されても適用されない」という意味ですね。
既得権が認められない世界では、基準が変わるたびに作り替えをしないといけません。
そういう国があることは確かです。
でも、法律が変わって今までの方法ではダメなはずなのに、既得権だからOKっていうのは論理的には変ですよね。
現実的にはそうせざるを得ないのですが。
構造計算(Structural calculation)の要否
建築の構造計算が必要かどうかは、一定の条件があります。
1の建物を一式作る場合は仕方ありません。
というより通常の設計プロセスに組み込むべきことです。
構造計算を行う場合は建築確認申請を行わないといけません。
建築確認申請がある = 構造計算が必要 = 長期の設計期間が必要
という認識を私はしており、できるだけ避けたいと思っています。
これがあるだけで消防申請のタイミングも早くしないといけません。
プロジェクト全体の設計スケジュールを大きく変える要素です。
土建の設計条件をしっかりおさえることはとても大事。
2には注意したい条件がいくつか含まれています。
建屋って?
建屋と架構は厳密には違います。
超カンタンに言いますと、建屋は壁で囲われたもので架構は壁で囲われていないもの。
ストリップ形態の工場は架構です。
工場萌えをイメージする対象は架構ですね。設備が丸見えです。
建屋は壁で囲われた工場です。
一見すると何をしているか良く分からない工場ですね。
この建屋に対しては構造計算が必要です。
逆に言うと架構は構造計算の対象外。
バッチプラントだと粉体取扱エリアが壁で囲われた建屋になっていて、建築確認申請の対象となります。
ここが厄介な部分。
10m2って?
10m2の増改築とは床面積の増改築を指します。
3m×3mで9m2なので思った以上に小さいでしょう。
ちょっとした改造だから大丈夫だろう、と安易に考えていると痛い目を見ます。
このクラスになると柱サイズって雑に扱えませんよ。
構造計算(Structural calculation)の再計算は非現実的
建屋の改造があって構造計算が求められるのなら、計算しなおしたらいいでしょ?
こんな風に思うかもしれませんね。
でも、建屋の改造に伴う構造計算はほぼ死刑宣告に等しい意味を持ちます。
というのも一般には建築時の基準は現行基準よりも緩い基準で作っているから。
構造計算の再計算を新基準で行うと、強度不足という判定をいただきます。
そうすると建屋の補強が必要になりますが、杭や基礎など根元の部分に手を加えることになります。
これってプラントを建てるよりも時間も手間も費用も掛けます。
プラント建設後の数年でさらに建屋を増築したいというレアケースなら、耐震基準が変わっておらず再計算が適用できる場合もあるでしょう。
でもそれくらい短い期間で建屋の増設があるなら、なぜ最初から予定していなかったのか?という疑問はありますけどね
構造計算の回避例
既設プラントに増改築をする場合の現実的な回避例を、機械屋としてはイメージを持っておくべきです。
プロセスエンジニアなど建設の知識がないエンジニアなら仕方がありませんが、土建と強い関りがある機械屋は知っておかないといけません。
化学エンジニアが持つイメージ
プラント増設に関して化学エンジニアが持つイメージを紹介しましょう。
投資計画を立てるのは化学エンジニアです。
化学エンジニアがどういうイメージを持っているかは、理解しておく方が良いでしょう。
彼らが持っているイメージはこんな感じです。
ネタだと思うでしょう。
いや、本当にこんなイメージです。
何か面積が増えるって思うだけです。
もしくは、もうちょっと理解のある人ならこんなイメージです。
これくらいのイメージを持っている人すら少ないです。機械エンジニアでも同じこと。
ですが、このケースだと「構造計算を一式やり直し」のパターンになります。
実際のイメージ
実際にプラント増設をする場合のイメージを紹介しましょう。
この例のように、新しい建屋は独立した建屋とします。
これがポイント。
柱が近くに2本接近していてもったいない気がしますが、仕方ありません。
これだと新しい建屋部分にだけ最新の構造計算が適用されます。
ここで注意したいことは、既設と新設の連結方法。
既設と新設が力学的に縁を切っていることが大事なので、梁などで連結することはできません。
でも2階や3階など高階層部で重たい原料を運搬したいというニーズは少なからずあります。
こんな場合は、
- 既設と新設の間をできるだけ密接させる
- 既設も新設もブラケットを取って補強する
- 接続部は鉄板を載せる
というような対応が必要でしょう。
既設プラントとレベルを合わせるなど、細かい調整が必要になってきます。
この辺の舵取りができるようになると、化学プラントのエンジニアとしては一流の仲間入りでしょう(笑)
参考
最後に
化学プラントでのプラント増設に関して知りたい構造計算の前提知識について紹介しました。
構造計算の基準は年々厳格化・独立した建屋の建築
投資に大きく影響するため、構造計算のやり直しを防ぐための増設パターンとイメージは持っておいた方が良いですよ。
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