2022年以降、あらゆる原料・部品の供給が不安定になる中で、特に調達が困難になっているのが**フッ素樹脂(PTFE)**です。半導体産業の需要急増を背景に、化学プラントの保全や運転においても深刻な影響が出始めています。
本記事では、フッ素樹脂が手に入らない状況で、化学プラントの保全エンジニアが取るべきバックアップ戦略や対応方法について詳しく解説します。現場で混乱しないために、今こそ準備すべきことを見直しましょう。
バッチ系化学プラントでフッ素樹脂を使う場所
まずはバッチ系化学プラントでPTFEを使っている場所を整理してみましょう。
恐ろしいくらいあらゆる場所で使っていることに気が付くでしょう。
- グラスライニング配管やフッ素樹脂ライニング配管のガスケット
- フッ素樹脂ライニング配管
- フッ素樹脂ライニングのマグネットポンプ
- セラミック渦巻ポンプのメカニカルシールOリング
- グラスライニング反応器の軸封のOリング
すごすぎて開いた口が塞がらなくなるレベルです。
これらの材料であるPTFE系が手に入らないとなったら、工場は停止せざるを得ません。
現在はPTFE系といっても一部の材料に限定されています。
その一部はPTFEでも高級系の材質なので、これがないと困ることは困るという状態です。
最悪の一歩手前という感じでしょう。
在庫を持つ
PTFE系の調達が遅れるということが分かったら、とにかくできる限りの数を工場内で在庫を持とうとするのが1つの戦略です。
簡単なように見えますが、これは実はとても大変です。
ユーザーの設備保全エンジニアが自分たちの担当する設備に対して、部品を含めて一元管理するという高度な保全管理を要求することになります。
特にOリングなど部品系になると、一元管理はせずに個々の機器に対して管理するというようなことをしていると思います。
例えば、マグネットポンプが30台あるプラントで型式で整理したら部品も一元管理できるだろうと思ってリスト化しましょう。
このポンプはずっと固定化されて使い続けるわけではなく、設備を交換して使ったり・部品の材質を変えていたりしてリストを変更していない場合があります。
主要な部品だけでも在庫を持とうと動けばいいのですが、母体が大きな組織ほど必要な金額も大きくなって動きにくくなります。
かくいう弊部も問題が浮上してから数か月の間、何も手を付けていません。成り行き任せです。
バックアッププランを作成する
その設備が壊れたときに、その設備を使わなくても運転が可能になるようなバックアッププランを作成するという方法があります。
こBCP(事業継続計画)に関わります。
生産ライン管理者は作っておいた方が好ましいと思いつつ、シナリオが多すぎてすぐには作れずに時間だけが過ぎ去っているでしょう。
設備保全エンジニアが在庫を調達できないのと同じ格好で。
仕様の標準化
プラント内の各種設備はとにかく標準化に進むべきです。
特にポンプは統一化しやすいはずです。
意識せずに設計して多くの型式の設備ができたとたんに、部品の在庫管理が大変になります。
バックアッププランも組みにくくなります。
そのプラントとして標準スペックを決めておき、スペックに収まるかどうかという判定を優先させるようなエンジニアリングが必要でしょう。
とはいえ、問題が顕在化している今から行っても遅いですが・・・。
フッ素樹脂に変わる材質を探す
何も準備ができずに時間だけが過ぎ去って、どうしようもなくなった時には材質を変更するという荒業に出ざるを得ません。
具体的には低級のPTFE系(PVDFやETFE・・・)などで調達がしやすいものに切り替えるという方法です。
寿命が短くなります。
下手をすると1週間に1回くらいの頻度で交換しないといけないかもしれません。
それでも生産を続けるのか安全を優先させるのかという、まさに経営判断になるでしょう。
最後に
フッ素樹脂の供給難は、バッチ系化学プラントの保全・運転に大きな影響を与えます。対応策としては以下の3点が重要です:
- 可能な限り在庫を確保する
- バックアッププランをあらかじめ策定する
- 必要に応じて代替材を使用する判断を準備する
いずれも簡単な対策ではありませんが、事前に備えておくことで、トラブル時の被害を最小限に抑えることが可能です。
設備仕様の標準化や部品管理体制の整備など、平時からの準備が今後ますます重要になるでしょう。
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