シールレスポンプ(sealless pump)の予備品の持ち方について解説します。
化学プラントのメンテナンスを考える上で、予備品の考え方はますます重要になります。
設備の技術向上が望めない以上は、壊れてもプラントを止めないという方向でメンテナンスは考えるべきです。
最も頭を悩ます設備がポンプでしょう。
数が多いわりに壊れる頻度は高く、メンテナンスの優先度が最優先ではない。
この辺の保全環境の影響を受けて、ポンプ故障に対して保全マンも敏感にならないといけません。
特に保全的な思考が大事なシールレスポンプに対して、故障が起きた時のために部品をどうやって持つか、その考え方の一例を紹介します。
設備が壊れた時はどうしても慌てがちですが、なるべく慌てないようにするためにも保全はしっかり考えておきましょうね。
シールレスポンプ(sealless pump)の部品
動機器である以上、最低限必要な部品は揃えておきましょう。
最低限とは力を受ける部分です。
設備の中で最も負荷が掛かり故障する部分というのは、力(応力)を受けやすい部分です。
動機器としてのシールレスポンプではどこが該当するでしょうか。
シールレスポンプとはキャンドポンプやマグネットポンプのことを言います。
ベアリング
最初に考えないといけないのはベアリングです。
ベアリングは回転部分と静止部分の接点部分。
当然ですが相当の力を受けます。壊れやすいです。
是非とも部品を持っておきましょう。
スリーブ
ベアリングが大事ということを認識したら、セットでスリーブも考えましょう。
ベアリングとスリーブは常にセットで考えて良いくらいです。
プロセス液内でベアリングとシャフトが直接接触することはなく、シャフトにはスリーブをセットするのが普通です。
プロセス的には耐食、動機器的には摩耗・コストの観点から、スリーブを付けるのはごく当たり前です。
ベアリングの予備を持つということは、一対の関係としてのスリーブの予備も持たせましょう。
これはメカニカルシールとシャフトスリーブの関係でも同じことです。
渦巻ポンプなどプロセス液外でベアリングを付ける場合は対象外です。
インペラ
ベアリング・スリーブの予備を持っていれば、最低限はクリアしています。
これよりも優先度は落ちるものの準備しておきたいのがインペラ。羽根車。
インペラは液体の進行方法を変えて圧力を加えるために、過大な力が加わります。
ポンプに詳しくない人なら、ベアリング・スリーブよりも先にインペラの方が予備品として持っておくことを考えるかもしれませんね。
インペラも力が加わっていくと摩耗が進み、インペラ径が小さくなっていき能力が落ちていきます。
どこかのタイミングで交換していきたいです。
でもベアリング・スリーブよりはマシ。
ベアリング・スリーブの劣化が進むと、ポンプが急に壊れて止まってしまう可能性があります。
この確率に比べればインペラの劣化は遅いです。
モーター
ポンプ本体から離れますがモーターも予備品の管理が大事です。
電力・電圧などでグループ分けをして管理したいですが、難しいでしょう。
カップリングが合わないというケースが多いからです。
共通予備的にモーターを揃えるのは非現実的ですが、壊れやすい設備やリスクが高い設備に限定して予備品を持つという考えを持っておきたいです。
防爆のモーターは特に年々入手が困難になっていますからね。
シールレス(sealless pump)の本体を予備品として確保
シールレスポンプなら本体一式を予備品として持っておくことも考えましょう。
本体一式には上で上げたような部品も全部含まれます。
最強の予備品です。
部品を緻密に集めて管理していくよりも楽。
部品を個々に購入してポンプ本体をくみ上げるよりも、ポンプ本体一式を購入する方が安かったりします。
会社としての資産管理の問題さえクリアできれば、本体の予備を持たせるようにしておきたいですね。
予備品の管理
ベアリング・スリーブ・インペラなどの部品は、予備品の管理をしっかりとしたいです。
プラントごと管理
型式と寸法の管理をプラントごとにちゃんとしておくべきです。
これは保全上の最低ライン。
プラントで使っているポンプの型式とそれに相当する部品の型式をリスト化します。
これを員数管理すれば解決するはずですよね。
ポンプの型式が少し違っていても、同じ部品を使っているケースも多々あります。
部品の共通化をすることで、予備部品の管理点数を下げることができます。
これを発展させればケーシングなども部品の共通化の対象になり、さらに発展させると
ポンプ本体の共通化という設計思想そのものにも影響を与えます。
例えば、変に2.2kWのポンプを買うくらいなら、多少余裕を持たせて3.7kWで選ぶと良いかも知れません。
これは最小ポンプを3.7kWにして、ポンプの型式を限定化するという発想です。
型式のリストだけでは分かりにくい場合もありますので、寸法が合っているかどうかも確認できるリストを作っておきましょう。
ほとんどメーカーのカタログで十分ですが・・・。
ここまでの話はある程度の会社なら当然のように実施できていると思います。
工場全体での管理
工場内の各プラントレベルでは管理がしやすくても、工場全体になるとハードルが一気に上がります。
アナログに人の問題です。
1プラントを管理する場合は保全マン1人で大丈夫です。
工場全体に話が及ぶと、保全マン複数人の共同作業になります。
一匹狼の保全マンには極めて難しい作業です。
個々人が好き勝手に予備品管理をしていると、リストを統合するだけでもちょっと難しい作業になります。
入庫出庫の履歴管理なども大事になってきます。
プラント数が多ければ多いほどの管理が困難になっていき、難易度が急に上がります。
ですが、これが実現できれば保全レベルは高くなっていきます。
生産能力の増強の望みが薄い日本では、安全運転を継続するための保全に力を入れるべきでしょう。
予備品の管理リストを作るだけでなく、予備品の在庫・入出庫などの管理も必要になります。
これだけで専門の保全管理者が1名必要なレベルです。
外部に委託しても良いですが。
型式アレルギー
シールレスポンプの保全では型式アレルギーを持っている人が居ます。
最近は減少傾向ですが。
これは毎年のように型式が変わって、昔の型式が使えなくなるというもの。
せっかくポンプを導入したのに生産中止になった型式がでてきて、一式更新しなおさないといけない。
これは保全上も経理上もリスクが高いです。
- ユーザーとしてはなるべく同じ型式をずっと使い続けたいもの
- ポンプメーカーとしては技術開発をして競争力を上げたいもの
お互いの思いが一致しない部分ですね。
メンテで稼ぐことはメーカーとしても一般的ですが、壊れやすい部品を使うメーカー・型式を頻繁に変えるメーカーとは取引は避けた方が賢明です。
参考
最後に
シールレスポンプの故障に備えた部品の持ち方を紹介しました。
ベアリング・スリーブ・インペラなどの力のかかる部品は最低限、できればポンプ本体一式でも予備を持てれば理想です。
型式と寸法の管理をして、部品の管理ができるようにしていると楽です。
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