ジャケット付反応器では温度調整を行います。
加温にはスチームを使うのが一般的。
この時、ジャケット側の温度はどれくらいになっているでしょうか?
簡単な計算で推算することができます。
今回考える系は以下のようなものです。
シンプルに水をスチームで加熱するという場合を考えましょう。
条件は計算を簡単にするために、概算値を使います。
- U:200kcal/h/m2/℃
- A : 10m2
- スチーム蒸発潜熱 : 500kcal/kg
ジャケット温度 = スチーム飽和温度?
良くある勘違いとして、ジャケット温度がスチームの飽和温度と等しいというものがあります。
機械の設計をするエンジニアなら、最大使用温度に興味があるので、最大使用圧力に対する飽和温度として設計条件を付与するでしょう。
しかし、現実の運転ではこの条件は、限定的です。
以下のように締め切った状態であれば、ジャケット温度=スチームの飽和温度となります。
ジャケットは配管とは状態が違う
締め切った状態だと、安定状態ではジャケット温度はスチーム飽和温度となります。
ただし、運転開始直後からこの状態にはなりません。徐々に飽和温度に近づきます。
というのも、ジャケットという装置の部品は配管とは違うからです。
ジャケットにスチームが流れて、排出されるまでに、スチームが起こる変化を考えましょう。
ジャケットにスチームが流入された瞬間に、スチームは体積膨張をします。
ジャケット部の空間の方が蒸気配管の空間より広く、配管内を流れているスチームがジャケットという広い空間に放出されます。体積膨張をするということは、スチームの圧力が下がり、温度も下がります。
この感覚が直感的にイメージしにくい場合、逆を考えれば良いでしょう。
圧力の低い蒸気(空気でも何でも気体ならいいでしょう)を圧縮させて圧力の高い状態にすると、圧力と温度は上がります。この逆と考えましょう。
ジャケットの隔壁で熱交換を行ったスチームは、温度が下がり凝縮して、体積が小さな水(ドレンと言います)に変化します。
ドレンの状態のまま、スチームトラップを通じて外部に排出されます。
締め切った状態というのは、スチームトラップの能力が足りていないとも言い換えられます。
ドレンの排出が追い付かなくなると、ジャケットに流入したスチームはジャケット内で充満され、ジャケット温度は最終的にはスチーム飽和温度となります。それまでに間にジャケット内はドレンで充満されているかもしれませんが・・・。
また、スチームが内容物である水に熱が伝わる前に、スチームはジャケットという金属部に熱を伝えることにエネルギーを使います。伝熱速度を考えると分かりやすいですよね。
その意味でも、最初からジャケット温度=スチームの飽和温度とはなりません。
ここまでの情報から、以下のことが言えます。
- スチーム流量 >トラップ排出流量のとき、開始温度から徐々に上がっていき、最終的にはジャケット温度=スチームの飽和温度
ジャケット温度はスチーム飽和温度より低い
スチーム流量がトラップ排出流量より少ない「通常の運転状態」のとき、ジャケット温度はスチーム飽和温度より低いです。
これを簡易計算してみましょう。
スチームの流量とスチームの蒸発潜熱から、スチームが供給できる熱量Q1を計算します。
単純な掛け算。
この熱量分だけジャケットで熱交換が行われます。
総括伝熱係数Uと伝熱面積Aは既に与えられていて、交換熱量が決まっているので、温度差Δtが決まります。今回ならΔt=25℃となります。
反応器内部の温度が40℃の状態なら、Δt=25℃なので、ジャケットは40+25=65℃となります。
反応器は都合よく減圧状態だとして50℃で蒸発するなら、ジャケットは50℃+25℃=75℃で一定となります。
蒸発がある程度進んでいくと伝熱面積Aが減少してくるので、Δtはどんどん上がります。最終的には飽和温度まで上がる可能性がありますが、伝面減少速度の経時変化を考慮した計算が必要となります
減圧をしない場合(大気圧の場合)、スチーム120℃・水95℃までは上がっていくでしょう。さらに水の温度は上がりますが、スチーム温度は変わらないので熱交換量はどんどん少なくなっていきます。
ジャケットに流れるスチームの流量は下がります。
100℃まで到達したら沸騰して、伝熱面積Aが減少していき、さらにジャケットに流れるスチームの流量は下がります。
前提として100kg/hのスチーム流量を考えていますが、流量制御を掛けているイメージではなく、100kPaGスチームを100kg/hで流すための配管口径と流量調整弁のサイズが一定で固定化されているというイメージで考えてください。
締め切った状態と同じようになっていきます。
- スチーム流量 <トラップ排出流量のとき、開始温度から徐々に温度は上がるが、ジャケット温度はスチーム飽和温度より低い状態で運転する。運転状態が変化すると、最終的にはジャケット温度=スチームの飽和温度となる。
参考
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最後に
反応器のジャケットにスチームを流したとき、ジャケットの温度はスチームの飽和温度にいきなり変化するわけではありません。ジャケット部でスチームは膨張するため、ジャケット温度がいきなりスチーム飽和温度にはなりません。
また、ジャケット隔壁での伝熱より先に金属部への伝熱が行われます。
スチーム供給量と温度差の関係から、ジャケット温度は一定の温度で運転を続けます。
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