プラントの増改築プロジェクトの設計段階で、オーナーズエンジニアが考えていることをまとめました。
オーナーズエンジニアが何をどう考えているかを知る機会はあまりなく、一方的な情報のやり取りをしていることが多いでしょう。
忙しくて対内・対外のコミュニケーションも上手く取れなかったりします。
外から見ていると、いろいろ検討していて何か凄いことをしている、と受け取ってもらえやすいです。
ですが、実態はかなりの確率でそうではありませんよ、という紹介です。
偉そうに見えても中身は・・・。
配置
配置は、配置図の作成という形でオーナーズエンジニアは参画します。
配置図を作成するくらいだから、配置に関する全てを掌握していると、外部からは受け止められます。
ところが、オーナーズエンジニアが実際にしているのは、凄く狭い範囲です。
設備がプラント内に設置できるかどうかを検討し、図面に反映させる。
このためには、設備の大きさ・建物の構造・配管の組み方など広い範囲で考えないといけません。
実際にこれを検討するのは、図面屋さんであったりプラントエンジニアリング会社なので、彼らがしっかりしていればオーナーズエンジニアがチェックすることはほぼありません。
増改築の検討案が出たら、参考図を基に仮図を作成。問題なければそのまま詳細検討をし配管図を作っていく。
こういうアプローチになります。
配置については設計段階だけでも、ほぼ丸投げができてしまいます。
配置図は建設のためだけにあるのではなく、作業性の確認・安全衛生面での検討・トラブル時の保安設備の設置状況の確認など多岐にわたる目的で使用されます。
これらのニーズを完全に理解することはできず、必要に応じて配置図のバージョンを変えて管理していくことになるでしょう。
これが進んでくると、オーナーズエンジニアが配置図を作成しているというよりは、単に上から来た案をCAD化していくだけ、という仕事になります。
そのため、オーナーズエンジニアが配置に関して思想を持っていないことが普通でしょう。
設備設計
設備設計は、オーナーズエンジニアのメイン業務です。
プラントの運転は設備で決まると言ってもおかしくありません。
その設備を実際の形にするために必要な、仕様を決めていくのがオーナーズエンジニアの仕事です。
ここでオーナーズエンジニアが設備の全容を把握していて、社内からの問い合わせに完全に対応できると思われるのが、一般的な印象でしょう。
ところが、オーナーズエンジニアは設備について驚くほど知識がありません。
こういう対応が多いです。
オーナーズエンジニアとしてこれで良いと思っている人は少ないでしょう。そう信じています。
でも、分からないことは分からない。どうしようもない。
メンタル問題に陥りやすい部分。
- プラントエンジニアとして設備は知っておく必要があり、社内の問い合わせは完全に答えられるように日々努力している。
- 内部から質問があって答えられないと悔しくて勉強していく。
- 答えられない問題がいっぱい出てきたら、どんどん不安になって答えたくなくなる。
こういう思考パターンになっていくと思います。
③の段階が続いてしまうと良くありません。
簡単な質問でも答えられるようになって、自信を積み上げていくプロセスが必要です。
その意味で、保全や工事会社から設備の問い合わせがあると、割と答えやすい物が多く自信に繋がります。
P&ID
P&IDも配置と同じく、オーナーズエンジニアが作るものという認識があるでしょう。
だからP&IDのすべてを知っているのだ、とはならないのは配置と同じです。
配置以上に、P&IDは知らないことだらけでしょう。
連続プラントで製法が分かりやすいものなら、こういう悩みは非常に少ないです。
バッチプラントだと、運転の根幹となる部分の理解が難しく、良く分からないままP&IDを作成したりチェックすることになります。
プラントで必要な基本要素を理解するのにも時間が掛かり、P&IDの理解速度は遅くなります。
P&IDを作るのはオーナーズエンジニアという自負とは別に、分からないことだらけでプロセス部門の言うがままにCAD化するという展開になります。
設備設計と同じくらいに丸投げが可能で、だからこそ自信喪失に繋がります。
CAD化した内容が間違っていたり、プロセス部門の理解間違いが原因で、何回も書き直しが起きたりします。
とりあえずいったんは発行して、問題があれば都度直せば良いだろうと甘く考える人も居ます。
P&IDを基に配管図を作っていて、P&IDが変わると配管図が大きく変わるという事実に目を背けて。
これらの問題の解決方法は、プラントの運転を自分で考え・言語化し・自分でP&IDを書き・誰かにチェックしてもらう、という経験を積むことが王道。
オーナーズエンジニアは自分でP&IDを書く機会が少なく、努力の範囲に限界があります。
プラントエンジニアリング会社だと、この辺りは結構ドライに割り切れると思いますが・・・。
配管図
配管図は、オーナーズエンジニアが関与する部分はあまりありません。
複雑な配管図を自分で作成することはほぼなく、図面屋やプラントエンジニアリング会社に委託します。
現場に配管図を持っていき、関係者と打ち合わせをする。
こういうイメージとは少し離れた世界に居ます。
配管図もP&IDに近い問題を持っています。
配管に詳しくあるべきオーナーズエンジニアですが、使い方は分からず・自分で書かないのでチェックも難しいという状況。
現場で工事会社から配管図の質問を受けても、答えられずに持ち帰ることになります。
持ち帰ってすぐに答えが出れば良いのですが、いつまで経っても解決案を出せなかったり、他人に答えを出してもらっていたら、配管図を読んで考える力が身に付きません。
自信喪失に繋がります。
この辺の問題をオーナーズエンジニアは抱えながら、日々の仕事をしているでしょう。
配管図は自分の仕事でない、と割り切ってしまえれば楽なのですが・・・。
ローディングデータ
ローディングデータは、オーナーズエンジニアによっては自分の仕事ではないと言い切る人も出てきました。
機器図があれば基本的に作成できるものですし、機器図を渡せば判断してくれる土建エンジニアも居ます。
エンジニアリングのプロジェクトとしては、機器の発注→機器図の作成とローディングデータの時間軸を合わせることが大事です。
ところが、オーナーズエンジニアとしては機器図を待たずにローディングデータを作るようなプラン変更が、往々にして必要となります。
ローディングデータが自分の仕事の範囲と思っていれば考えれるかもしれませんが、そうでなければ「メーカーから図面が来ないからローディングデータは出せない」と冷たい回答をします。
こういうエンジニアは注意です。
何も考えておらずに、他人に考えてもらおうという姿勢。
他の図面以上に丸投げが可能だからこそ、問題になった時にその人の本質が出やすいです。
作業関係
作業関係の図面を作成するのは、オーナーズエンジニアの仕事の一つです。
現場作業を知って形にするのがエンジニアですが、P&IDや配管図のような分かりやすい物ではありません。
実際にオペレータがどういう動きをするのか、自分でも確認しながら、言語化や図面化をして形にしていかないといけません。
オーナーズエンジニアの仕事の中でも、ある意味で最もクリエイティブ。
これも類似設備から参考で作れることは作れます。
一度作ったものを試しに使ってみて、ダメな部分を少し改良する。
こういう方法は、不可能ではありませんが厄介です。
プラントの場合は、危険な薬液が付いた設備を洗浄したり、外部に持ち出して加工したり、運転で使わない時間帯を探したり、と面倒な調整がいっぱい入ります。
できれば、一発で合格点をもらって使ってもらう方が、関係者全員が不幸せになりません。
そのためにオーナーズエンジニアは丸投げせずに努力してほしいところですが、分からないことが多くて質問を受け付けないという人もいるくらいです。
参考
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関連情報
最後に
プラントの増改築の設計段階でオーナーズエンジニアが考えていることを紹介しました。
考えることは非常に多いのですが丸投げも可能で、各段階で不安になりながらその場しのぎをするような思考が多いです。
誰かに教えてもらう機会も少なくなり、フィードバックがないまま不安な時期を過ごしてしまうと、丸投げで自分の仕事は成立すると誤解すらしてしまいます。
周りからしっかりしているように見えても、実際には結構雑な考え方をしています。
実務をするわけでなく調整業務がメインなので、仕方のない部分はあります。
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