配管工事の見積(estimate)方法の考え方を解説します。
ユーザー側の見積をターゲットにしています。
工場として予算を確保するための概算見積だけでなく、施工会社に工事依頼をしたときの詳細見積もあって、見積手法はいくつかに分類されます。
業界だけでなく会社によっても見積の方法が変わるので、これが正解というものはありません。
あえて言うと、結果としての施工会社の見積にどれだけ近づけることができるか。
この成果物に対して最小の努力で結果を出すための手法を、各自で開発しているという感じでしょう。
見積はテクニック
配管工事の詳細見積(estimate)
まずは詳細見積の方法を考えましょう。
以下の配管を考えます。(配管調整に関する記事より引用)
配管工事の見積体系
配管工事の見積体系を最初に整理しましょう。
工事の詳細見積(積算)の基本的な考え方は、「数量×単価」です。
配管工事にそのまま当てはめてみましょう。
これが基礎式です。
ここから多少の展開をしていきましょう。
配管工事の場合なら少なくとも「材料」と「施工」の2つに分類します。
配管を作るためには材料と加工の2つが当然必要です。
この2つが明確に分かれるのは、リソース先が違うという目線で見ても良いと思います。
「材料は外部から購入、加工は内部工数で解決」と考えると、見積上も分けておいた方が何かと都合が良いです。
材料単価は材料の購入費そのもので効いてくるので、後は地道な計算がまっているだけです。
一方の施工単価はもう少し細かく分ける必要があります。
ここでは、「溶接工数×材質係数×環境係数」の3つの掛け算で施工単価を見積しようとしています。
溶接工数とは、一般的にはDBと言われるもの。
材質係数とは、例えばSGPとSUS304では施工が違うからその分を考慮しましょうというような、係数です。
環境係数とは、施工する環境のことです。
例えば工場内でも複雑に配管が入り組んだ場所と、屋外タンクヤードのように周りに障害物がない場所では施工性は全然違います。
現地溶接をするのかプレファブ溶接をするのかも、施工性に影響が出ます。
この辺りは、施工会社側の立場だと相当雑な発想に見えると思います。実際の積算としては、細かな値をとにかく拾い上げていき、各種分類を細かく計算していく作業になります。ユーザー側の見積でこの見積を細かく分類していくには、膨大なデータと市況の正確な予測が欠かせません。それをユーザーができるはずがないので、細かな分類は費用対効果がなく雑な見積項目に対して「係数」で補正するという発想が現実的です。
積算
今回ターゲットにしている配管の積算作業を行います。
40AのSGPです。
配管工事の積算では、配管を構成する各種部品の拾い上げをします。
- パイプ SGP/40A×1m
- エルボ SGP/40A×4個
- フランジ SS400/JIS10k/40A×2枚
- ボルト SS400/M16×55L×8個
- ナット SS400/M16×8個
- ガスケット 40A×2枚
こんな感じで、配管要素を1つずつ積み上げていきます。
今回は平面方向の配管しかないため積算は簡単ですが、実際の配管は3次元的に配置されておりアイソメ図を見ながら地道に数え上げていきます。
配管数量もkm単位になると、積算も月単位の時間が掛かります。
そのためにも積算部という専門の部門を作ることになります。
パイプの数量はここでは割と雑に扱います。
直線距離が曲がりがある分だけ距離は伸びていますが、エルボやフランジがある分だけパイプ部分の長さは短くなり、トータルで1mあれば足りるだろう。
という直感的な判断でパイプ数量を決めていきます。
配管費の解説で概念としての単価の話をしていますが、実際に配管数量×単価という計算をすることは詳細見積では無いでしょう。見積対象全体に対して、1m当たりの単価をまず計算して、数量を掛けるというのではなく、個別の項目に単価を加えていって積み上げていくことになります。
材料
材料費は上記の積算結果に対して、単価を当てはめていく作業になります。
項目 | 仕様 | 口径 | 数量 | 単価 | 金額 |
パイプ | SGP | 40A | 1 | 5000 | 5000 |
エルボ | SGP | 40A | 4 | 300 | 1200 |
フランジ | SS400/JIS10k | 40A | 2 | 500 | 1000 |
ボルト | SS400 | M16×55L | 8 | 20 | 160 |
ナット | SS400 | M16 | 8 | 10 | 80 |
ガスケット | – | 40A | 2 | 500 | 1000 |
合計 | – | – | – | – | 8440 |
材料費は8,440円という結果になりました。
単価はかなり雑に入れています。
現在の詳細の単価を調べる余裕がない場合は、多少大きめに見ていても大勢には影響がないと割り切ってしまいましょう。
施工費
続いて施工費です。
- 溶接 18DB
- 材質 1.0
- 環境 1.0
まずはDBの計算から。
40Aのエルボ4個とフランジ2個なので(4*2+2*2)*1.5=18DB
という計算結果を採用します。フランジのDBは考え方によって分かれる点は要注意
溶接工数は1DBあたりの工事単価という考え方をします。
雑ですが2,500\/DBくらいで考えておきましょう。ここは会社によって本当に大小が分かれる部分です。
18DB×2,500\=45,000円
SGPの材質係数は1.0としておきましょう。
SGPが配管の基本だから1.0とします。
例えばSUS304なら1.1とか1.2というように分かれます。ここも会社によって考え方が分かれます。
SGPW、STPG、SUS316Lと種類ごとに細かく分けても良いでしょう。
環境係数も1.0としておきます。
少しややこしい環境なら、1.1とか1.2というように係数を上げていきましょう。
以上を合わせると
45,000×1.0×1.0=45,000円という結果になります。
配管費
上記の結果をまとめると、詳細見積結果は以下の通りとなります。
- 配管費 53,440
- 材料費 8,440
- 施工費 45,000
材料費と施工費を足すだけです。
実際の見積には、この配管費に対して様々な費用が乗ってきます。
例えば、経費・設計費・管理費・税金などです。
この辺も係数的な発想で処理していきますが、係数の話だけなので省略します。
繰り返しになりますが、これらの係数を現実の見積結果に合わせていくようにデータを蓄積することが、エンジニア・積算・調達などの各部門で大事になります。
概算見積(estimate)
さて、詳細見積の次は概算見積です。
実は詳細見積は時間はかかるけど頭は使いません。
手法さえ決まっていれば、人によって誤差も発生しにくいです。(その手法を決めるのが大変ですが・・・)
一方で概算見積はテクニックが要求されます。
概算見積ではスピードが大事です。
積算したり材料と施工を分けたり…という時間はありません。
感覚的には、1本の配管あたり1分以内で計算するという手法です。
そのためには、単価を「口径×材質×係数」くらいに分けます。
既知のデータの利用
40Aの配管の詳細見積が53,440円という結果でしたが、これを次回以降の予算申請に使えるように概算見積の方法に落とし込みます。
まずは、今回の1m・40A・SGPの単価を設定します。
ここでは56,000円としておきましょう。
53,440円はキリが良くない数字ですし、余裕も含んでいません。
40AのSGPのm単価が56,000円なので、例えば2mなら56,000×2=112,000円という簡単な見積もりをします。
口径が変わった場合はどうしましょうか?
これは既知のデータから未知のデータを類推するという作業になります。
未知のデータの類推
次は未知のデータの類推に移ります。
口径・材質・係数と未知の要素はいくつもあります。
口径
口径の類推は、一般的には0.6乗則を使います。
40A・SGPの単価が56,000円だったので、例えば25Aのデータを類推しようとしたら、以下のような計算になります。
56,000×(25/40)0.6=42,239→42,000円
これでも良いのですが、概算見積という意味ではやや使いにくいです。
このオーダーであれば、私は口径×1,400円という概算計算をします。
口径 | 0.6乗 | 概算 |
50A | 64,000 | 70,000 |
40A | 56,000 | 56,000 |
25A | 42,000 | 40,000 |
0.6乗則で計算した結果と、単純に比例計算した結果は、上記の通り誤差を生みます。
0.6乗則の方が大口径側で低い額・小口径側で高い額になります。
このズレを合算して最小化するような口径を基準にするのがコツです。
取扱数量が最も多い口径を選ぶのが良いでしょう。
数量が少ない口径で金額がズレても結果には大きく影響しないからです。
口径 | 距離 | 0.6乗 | 概算 |
50A | 1m | 64,000 | 70,000 |
40A | 1m | 56,000 | 56,000 |
25A | 1m | 42,000 | 40,000 |
計 | 3m | 162,000 | 166,000 |
例えば、上記の25A~50Aがそれぞれ1mずつの配管工事の見積を比較してみましょう。
誤差は2%強で許容範囲だと思います。
さらに、40Aが相対的に多い配管工事の見積を比較してみましょう。
口径 | 距離 | 0.6乗 | 概算 |
50A | 1m | 64,000 | 70,000 |
40A | 3m | 56,000 | 56,000 |
25A | 1m | 42,000 | 40,000 |
計 | 5m | 274,000 | 278,000 |
誤差は2%を下回る結果になります。当たり前と言えば当たり前。
この発想のように、数字を合わせ込みに行くならメイン部分を抑えに行くと良いでしょう。
バッチ系化学プラントなら、40A~50Aくらいが基準になります。
材質
材質は詳細見積の結果をそのまま反映させると良いでしょう。
いくつかの見積をしてSGPメインの工事、SUSメインの工事のデータの比較をします。
同じくらいの口径・同じくらいの配管数量での比較が良いですね。
ここで、SUS/SGP=1.2というくらいのオーダーであることが分かったとしたら、概算見積でも同じ1.2を使います。
係数
係数は感覚的な要素が入ってきます。
プラント内/プラント外といった区別や現地溶接/フランジ取付という区分で多少の差を付けましょう。
口径の議論の時と同じで、メインになる工事の精度を合わせていく形が良いです。
化学プラントの場合はプラント内のフランジ取付の精度を高めていきます。
プラント外や現地溶接ならコストが多少下がりますが、概算見積の段階で下げた予測をしてもあまり良いことはありません。
極端に言うと、プラント外や現地溶接の場合でも、プラント内やフランジ取付と同じ係数で見積をしても良いと思っています。
超概算見積(estimate)
超概算見積は、ラング係数の世界です。
予算申請の手前のFSレベルでの検討に使います。
この段階では配管工事としての見積はしません。
このラング係数内に配管工事のファクターが入ります。
ラング係数をどれだけに設定するか、ということを考える場合に設備の情報を参考にします。
例えば以下のような感じです。
- グラスライニング設備に対しては、係数を高めに設定する
- 屋外タンクだと、係数を少なめに設定する
一応こういう区分は可能ですが、そもそもラング係数で見積をしようとしている段階ではあまり意味をなさないでしょう。
ラング係数で見積をしたいというときには、そんな個別の情報には興味がなく、高い側の数字で見積をしておくことが多いからです。
これで高いと外部から言われたときは、見積時間がないことを正当な理由として主張しましょう。
予算が足りなくなって別途申請する手間を考えると、高い側に見積を出すことに反対する人は社内では少ないと思います。
参考
関連記事
投資や見積についてさらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
化学プラントのオーナーエンジニア目線で配管工事の見積の考え方を紹介しました。
積算結果を利用する詳細見積以外にも、いくつかのデータをもとに類推する概算見積、そんなことは言っていられない超概算見積の方法があります。
どのケースでも実績データの吸い上げが大事になります。
短い時間で最良の結果で得られることで、見積作業から解放されるでしょう。
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