配管設計(piping design)の基礎的な部分である、配管と配管の間隔を設定するための思想を解説します。
ここを失敗したら、化学プラントの配管工事では「あっ」という間に失敗します。
とりあえず広めに設定していれば良いだろう
こんな風に考えられる工場は、コストも気にせずスペースも広い恵まれた環境と言えます。
できるだけスペースを有効活用するために間隔は狭くしたいけど、狭くしすぎると配管同士が干渉してしまうし、作業しにくいとクレームが出る。
こういう悩みを抱える配管設計者は多いでしょう。
そこで、配管同士の間隔設計で失敗しないための設計思想をまとめました。
配管近接間隔を設計するためには、多くの情報を集めないといけません。
並行配管
まずは、複数の配管が平行に並んでいるシーンを考えましょう。
配管スタンド上などでよく見かけます。
並行配管では、物理的に配管が取り付けられる最小スペースを確保しましょう。
フランジどうしの近接
隣り合う配管のフランジどうしが接触しない。
この条件を確保すれば、最低限干渉することはありません。
下の図のように2つの配管を並べたときにどこまで接近できるでしょうか?
裸配管の場合、配管内で最も外側に位置する部品はフランジです。
このフランジ同士が接触しないように並べて配置することが最低条件でしょう。
フランジとフランジの間に最低限の作業スペースを確保して、配管どうしの設置位置を決めます。
配管①のフランジ外径+配管②のフランジ外径+作業スペース
SGP配管+JIS10kフランジを例に少し計算してみましょう。
– | 口径 | 25A | 40A | 50A |
口径 | 外径 | 125/2 | 140/2 | 155/2 |
25A | 125/2 | 125 | – | – |
40A | 140/2 | 132.5 | 140 | – |
50A | 155/2 | 140 | 147.5 | 155 |
25A~50Aのフランジ外径/2を足し算したものです。
ここに作業スペースを適切に加えて、丸めた数値で配管を並べると良いでしょう。
配管とフランジの近接
フランジとフランジどうしが接触しないというのは、実は多少の余裕を見た発想です。
もう少し詰めようとすれば、千鳥配列が考えられます。
下の図のようなイメージです。
フランジとフランジを同じ位置に置かないで少しずらすだけで、配管と配管の距離を近接することが可能です。
複数の配管を並べるとしても以下のような感じで、フランジ位置は2パターンしかないので、設計を邪魔することは少ないでしょう。
配管①のフランジ外径+配管②の配管外径+作業スペース
配管①と配管②は大きい配管を①、小さい配管を②とします。
さて、この場合の接近距離を計算しましょう。
まずは、配管外面とフランジ外面の計算から。
– | 口径 | 25A | 40A | 50A |
口径 | 外径 | 125/2 | 140/2 | 155/2 |
25A | 34/2 | 79.5 | – | – |
40A | 48.6/2 | 86.8 | 94.3 | – |
50A | 60.5/2 | 92.8 | 100.2 | 107.8 |
作業スペースEを例えば30mmくらい(手が入る)に設定して、数字を丸めると以下のようになります。
– | 口径 | 25A | 40A | 50A |
口径 | 外径 | 125/2 | 140/2 | 155/2 |
25A | 34/2 | 110 | – | – |
40A | 48.6/2 | 120 | 130 | – |
50A | 60.5/2 | 130 | 130 | 140 |
この距離は配管設計者が決める数値です。
5mm単位で設定する場合もあれば、もっと大きく丸める場合もあるでしょう。
断熱
裸配管の場合は配管外面やフランジ外面だけを考えれば良かったですが、断熱が付くと少し変わります。
断熱厚み分だけ距離を圧迫します。
大きい配管側はフランジカバー外径・小さい配管側は配管外面と断熱厚みを考慮しないといけません。
特に小さい配管側が見落としがちです。
配管①のフランジ外径+配管①のフランジカバー厚み+配管②の配管外径+配管②の断熱厚み+作業スペース
配管①と配管②の両方に断熱があるか、片側だけかというパターン分けが発生して、計算は少し風雑になります。
スチームトレースが付くとさらに大きくなります。
ジャケット配管だとフランジ口径を間違える可能性があるので、こちらも注意です。
オプションこそが間違いを誘発する原因となりますね。
ヘッダー
次はヘッダーを考えましょう。
分かりやすいポンプヘッダーを例に挙げますが、タンクヘッダーでも同じです。
ポイントはバルブの有無です。
ヘッダーにはバルブが付くことが普通です。
ハンドル作業
バルブはフランジ接続するケースを考えると、フランジとフランジの距離を確保すればよさそうに感じますね。
バルブではハンドル操作を追加で考えないといけません。
例えばボール弁なら以下のようなイメージです。バタフライ弁も同じですね。
ハンドルはボールバルブ本体よりもスペースを取ります。
ハンドルを設置しようとしたら隣のバルブに当たってしまった・・・。
こんな失敗は割とありがちです。
こんな失敗をしてしまったら、現場レベルでハンドルを変形させて対応せざるを得ないでしょう。
ハンドルはバルブメーカーによって変わりますので、使用するメーカーのハンドルを調べる必要があります。
千鳥の罠
さて、ヘッダー配管をできるだけ詰めるために千鳥を考えるときの注意点を紹介します。
千鳥配管でバルブの位置をずらせば、確かに並びを詰めることは可能そうです。
ここではボール弁を想定していますが、今度はボール弁のハンドルの回転を考えないといけません。
バルブが干渉しないように千鳥でずらして、ヘッダーを詰めた結果、ハンドルを回そうとしたときに隣のバルブに当たった。。。
これも非常に陥りやすい展開です。
この辺りになると条件的には複雑になってくるので、ヘッダーで千鳥配列というのは個人的にはおススメしません。
配管設計で失敗して、現地工事で修正するときに大変です。
ゲート・グローブ
ボール弁やバタフライ弁以外のバルブの場合は、ハンドルを回すという作業を考慮しなくていいでしょう。
一般にゲート弁やグローブ弁は大口径になるほどハンドルが大きくなります。
ハンドルどうしが干渉する可能性もありますが、それより大事なのが作業の安全性。
千鳥配列で述べたような、「最低限手が入ればいい」というだけではなく、ハンドルを持ち換えたり姿勢を変えたり体重を乗せたり・・・という作業を考慮しなければいけません。
机の上で作業をイメージしながら決めることになるでしょう。
かなり安全率を見ておく必要があると思います。
参考
配管の近接距離は配管設計の基本事項です。
将来的に困らない配管レイアウトにするうえでも、いろいろな情報を集めて総合的に判断しましょう。
以下のような本がおススメです。
関連記事
詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
最後に
化学プラントの配管どうしの近接間隔の設定の思想を紹介しました。
並列設置ではフランジどうしの距離、千鳥配列のメリット、断熱・トレース・ジャケットのオプションを考えます。
ヘッダーでは追加でハンドル周りも考えないといけません。
考慮すべき要素が多く、ある程度余裕をもって設定したいですね。
化学プラントの設計・保全・運転などの悩みや疑問・質問などご自由にコメント欄に投稿してください。(コメント欄はこの記事の最下部です。)
*いただいたコメント全て拝見し、真剣に回答させていただきます。
コメント