化学プラントを安定運転するために必須の知識が潤滑油(oil grease)。
運転上は何気なく使っていますが、保全上はいくつかの重要な要素があります。
機電系エンジニアとしては知っておきたいところですね!
化学プラントでは潤滑油が危険物という扱いも認識したいところです。
潤滑剤の目的
潤滑の目的は一般に下記のとおりです。
- 減摩作用(摩擦の低減)
- 冷却作用(摩擦熱の除去)
- 密封防止(シリンダ・ピストンの気密など)
- 腐食防止(錆の抑制)
- 異物混入防止(水、ちりなど)
- 清浄作用(内燃機関の異物)
- 応力分散(歯車・軸受の応力集中分散)
バッチ系化学プラントの設備では1.減摩作用がメインの目的、2.冷却作用、4.腐食防止、5.異物混入防止、7.応力分散がサブの目的になります。
減摩作用
減摩作用は潤滑剤の基本です。
主に転がり軸受・ベアリングを使用するバッチ系化学プラントの設備に対しては、特に重要です。
化学機械は24時間365日運転します。
安定運転をするためには劣化を抑えることが大事であり、摩擦は少ない方が良いです。
動力コストを抑えるためにも摩擦は少ない方が良いでしょう。
冷却作用
冷却作用は減摩作用から派生した作用です。
摩擦が起きると摩擦熱が起きます。
潤滑油は摩擦熱を抑えるための機能があります。
腐食防止
潤滑油は腐食防止の役目も持っています。
例えばベアリングボックスが鋳鉄製であって、空気に触れていると当然錆びます。
錆が起きるとベアリングの動作にも影響がでますね。
潤滑油を適正に入れていると、ベアリングボックスの腐食を防止できます。
異物混入防止
潤滑油は異物混入防止の役目も果たします。
錆が良い例でしょう。
錆が異物となってベアリングの動作を邪魔する可能性があります。
潤滑油があると単純にガードが1つ増えるという意味で、異物混入防止の効果があります。
応力分散
潤滑油には応力分散の目的があります。
すべり軸受が典型例ですね。
そもそも減摩作用と似たような位置づけで私は考えていまsう。
潤滑油の一般的要求
潤滑油に対して一般的に要求される性質は下記のとおりです。
- 適正な粘度・ちょう度
- 使用目的に応じた境界潤滑性能
- 安定性が優れている
- 異物を含まない
潤滑油の性能を端的に示す指標に粘度・ちょう度というものがあります。
潤滑油では粘度、グリースではちょう度で表現します。
そもそも潤滑油が液状、グリースが半固形状という区分をしています。
粘度・ちょう度がどれくらいかだけで潤滑油を決めてもほとんど問題ありません
流体力学的なアプローチ(閑話休題)
液体に潤滑は流体力学的には以下のような取り扱いをします。
- 潤滑油膜は薄い。
- 流体膜と固体壁の界面での流体のすべりはない
- 流体はニュートン流体
- 潤滑膜は粘性層流であり、慣性は無視可能。
- 重力も無視可能。
回転軸など運動しているまさにその部分は高速回転なので乱流と扱いたくなりますが、薄い潤滑油が境界的な役割を果たして層流とみなすことが多いようです。
伝熱・応力の均一分散とも関連しますね。
乱流領域とならないように適正な粘度の潤滑油を選ぶと考えて良さそうです。
潤滑油自体が異物
潤滑油がベアリングに対する異物混入防止という視点で見ましたが、実は潤滑油自身がプロセスの異物となります。
設備面では潤滑油の設備内への混入もケアしないといけません。
ここでオイルシールが大活躍。
言葉どおり潤滑油のシールの役目です。
Vパッキンが一般的ですね。
冷凍機などには冷媒に潤滑油が混ざり合うので、油を回収する設備を設けないといけません。
冷凍サイクルに油回収サイクルが付加されているくらい、潤滑油が設備上の重要なポジションにあります。
潤滑油の種類
世間一般に潤滑油というと工業用潤滑油を指しますが、それは下記の種類があるようです。
- マシン油
- 軸受油
- 冷凍機油
- 圧縮機油
- タービン油
- 作動油
- 工業用ギア油
- 摺動面潤滑油
種類が非常に多くて嫌になります。
化学プラント的にはマシン油・タービン油と冷凍機油くらいでOKでしょう。
JIS K2001で定めるISO粘度グレードという粘度の表現を使って、型式の指定をすることが多いです。
- マシン油ならVG32
- タービン油ならVG220
こんな感じです。
VGの後の値は粘度を示します。粘度が低いほど高速回転・高いほど高圧に向きます。
粘度が高い潤滑油で高速回転をしようとしても運動の邪魔になりますし、粘度の低い潤滑油で力を伝えようとしても応力分散がすぐにされてしまいます(豆腐に大きな力を加えられないのと同じ)。
- ポンプなど高速回転機器はマシン油
- 減速機など高圧機器はタービン油
グリースの種類
グリースは潤滑油ほど詳しい知識は無くても大丈夫です。
グリースに付いて知っておきべきことは「シールド型のベアリング」
これくらいでしょう。
ベアリングの中にグリースを封入したタイプがあります。
化学プラントではグリースを使う場合は一般にこのタイプを使用します。
グリース封入をしていない普通のベアリングを準備して、そこにグリースを塗る。
こういうメカニカル的な対応は特殊な設備に限定されます。
グリースの指標
グリースの指標はいくつかありますが「ちょう度」を知っていれば十分です。
潤滑油の粘度に相当するものです。
他に濁点・離油度などの指標もありますが・・・
油そのもの性質の話なので、製油メーカーなどの専門分野としてお任せすれば良いと思います。
グリースにはさまざまな指標があるのだということだけを知っていれば良いと思います。
潤滑油も全く同じことが言えます。
食品グレード
グリースと言えば化学プラントでは食品グレードのグリースを使う場合があります。
これは異物混入防止を気にしたこと。
とはいえ、食品グレードのグリースが異物混入防止の意味で機能するのかどうか。
その設備で製造する製品の規格にもよるでしょう。
品質保証部もグリースについてまで指定することは普通は無いと思います。
グリースの添加剤
グリースには添加剤を加えます。
グリースは潤滑油に金属せっけんを加えて添加剤を入れることでできあがります。
添加剤を加えることでやっとグリースとしての機能を持たせれますね。
- 酸化防止剤
- 洗浄分散剤
- 油性向上剤
- 極圧添加剤
- 錆止め剤
- 腐食防止剤
- 粘度指数向上剤
- 流動点硬化剤
- 消泡剤
- 乳化剤
いろいろあるんだということを頭の片隅に入っていれば十分でしょう!
潤滑油・グリース(oil grease)の劣化
潤滑油は使用していると劣化します。
劣化のパターンはいくつかあります。
- 金属粉が潤滑油に混入
- 酸素が潤滑油に混入して変性
- 水が潤滑油に混入して変性
- 熱履歴で潤滑油が変性
金属粉は新品の運転初期に発生します。
いわゆる馴染み運転のころですね。
回転軸・ベアリング・ケーシングと組み上げたあと運転していって応力や熱によって変形して所定の位置に「収まり」ます。
その間に摩耗が起きて金属粉が発生します。身近な例では自動車でも同じですよ。
金属粉が大量に発生して潤滑油中にいっぱいになると、異物としてベアリングにダメージを与えます。
新品の運転では一定の時間が経てば、油の入れ替えをしましょう。
潤滑油に異物が混入すると変性します。
典型例が酸素と水。
酸素は潤滑油の入れ替え時に注入口から、水は設備洗浄時にオイルシールからそれぞれ侵入します。
長期運転をして熱が加わっていくと潤滑油はそれだけでも編成します。
いずれにしても一定の時間が経てば、油の入れ替えは必要ですね。
潤滑油の種類統一
潤滑油においては油種の統一は重要な思想です。
メーカーの言いなりになってはいけません。
メーカーは責任なんて取りません。
自社で開発した製品に対して推奨の潤滑油を使ってくださいというだけ。
その潤滑油が自社で使っている多くの潤滑油とISO粘度グレードが同じだけどメーカーが違っていた。
こんな例は非常に多いです。
ユーザーとしては真面目にメーカー推奨の潤滑油を確保すると、それだけで膨大な種類になってしまいます。
これは一般に設備メンテナンスの世界で昔から言われています。
それでも設備メーカーの営業は自社の潤滑油しか提案せず、違う製品の物を使ったら保証しないという面倒なことを未だに言ってきます。
- 油種統一の思想を知っていながら責任逃れのために言っているのか
- 潤滑油のことを知らずに、本気で提案してきているのか
どちらなのか良く分からない営業が本当に増えています。
そんなことに気を回してもエネルギーを浪費するだけなのでスルー推奨です。
潤滑油の量
潤滑油の量はオイルゲージを基準にします。
当たり前のように見えますが、理解してないエンジニアがいます。
メーカーのSVでも意外と理解していなかったりします。
取説の注油量が正しくオイルゲージの量に合わせてはいけない。
真顔でこういうことを言ってきます。
注油量どおり入れたらオイルゲージよりやや少ないという場合があります。
ここでちょっと多めに入れることは悪いことではありません。
初回の注油で油が全体にいきわたっていないとか事情を全く考慮しません。
オイルゲージの適正量ちょうどでなければ運転できないという訳ではないので、多少多かったり少なかったりしても運転は可能です。
潤滑油の量が変わると以下の形で結果が出てきます。
- 量が少ないと電流値が上がり、油の温度が高温になる
- 量が多いと電流値が上がり、油の温度が高温になる
要は潤滑油の量は電流値と油の温度について最適な値があるという意味です。
油の量が少ないと接触抵抗が増えて電流が上がり、油の温度も上がります。
油の量が多いと油自体が抵抗となって油の温度が上がります。結果的に油の温度も上がります。
最適値があるからオイルゲージを見ながらしっかり注油しましょう!
参考
最後に
化学プラントの機電系エンジニアが知っておくべき潤滑油について解説しました。
減摩作用・異物混入・ISO粘度グレード・マシン油・タービン油・グリース・劣化パターン
何気なく使いがちな潤滑油ですが、油種の統一など保全上は考えるべき要素がちゃんとあります。
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