化学プラントで液体を漏らした(leak liquid)ときの対応についてまとめました。
漏らしたといっても量の大小がありますが、大多数はちょっと漏らしたという話。
ガスケットから漏れたというような例です。
昨今では少子高齢化の対策としてDXが叫ばれていますが、こういう液漏れに対する基本的な対策はやはり人によるパトロールが効果的です。
複数の人の目でパトロールして、そのプラントの弱点をみんなで共有できれば強いですね。
液体が漏れる(leak liquid)と何が問題?
化学プラントで液体が漏れるとどんな問題が起こるでしょうか?
割と根本的な問題です。
漏れたらだめ!って決まりごとのように言いますが、どんな問題が起こるのか意外と言語化できる人は多くはないでしょう。
資源の無駄
液が漏れるということは資源を無駄にするということです。
当たり前ですよね。
漏れた液は回収は基本的にできず、廃棄しないといけません。
化学会社は資産を投入して、人や設備を動かし目的の成果である生産品を製造し販売することで利益を得ます。
- プロセス液が漏れると収率とか歩留まりが下がります。
- ユーティリティ液が漏れると電気代のロスが発生します。
製造部の管理者はこういう変動費に敏感であるべきです。
特に収率はとても大事。
環境破壊
プロセス液が漏れると環境破壊に直結します。
大気中に漏れ土壌に浸透し海水・河川を汚染します。
化学プラントではどんな液がどんな危険性があるか分かりにくいですよね。
不気味で危険な化学プラント。
環境破壊に繋がる物を漏らすと、周辺地域からのクレームを受けて生産停止ということもありえます。
薬傷
液が漏れると人が薬傷をする可能性があります。
化学プラントでは地面の上に配管が張り巡らされて、いつ漏れるか分かりません。
これが人に掛かるとどうなるでしょうか?
酸やアルカリではヒトの皮膚が溶けたり、服が燃えたりします。失明することもあります。
恐ろしいですね。
どんな液が漏れるかも分からないので、どんな被害に会うのかも分かりません。
転倒
液が漏れると床面が濡れます。
水だと放置していると乾燥しますが、有機溶媒だと乾燥せずに残り続けることもあります。
酸なら床を腐食させます。
こういう通常とは違う状態の床面に気が付かずに、人が歩いてしまうと転倒する恐れがあります。
最悪転落します。
大いにありえます。
液漏れは安全上の視点からも大事です。
感度が鈍くなる
液が漏れるというのは、運転意識の低さが原因の場合があります。
- 液が漏れた状態を放置していて処理しない
- 液が漏れた原因を調べない
- 類似トラブルが起きる可能性を考えない
安全安定生産をするための意識を高めるためには、人の感度をあげていかないといけません。
液が漏れるということ自体が異常なことという認識を持ち、感度が鈍いかも知れないと疑った方がいいでしょう。
液体が漏れた(leak liquid)時の対応
化学プラントで液体が漏れた時の基本的な対応を紹介します。
- ステップ1発見
液が漏れたということを認識する段階です
- ステップ2安全確保
安全第一なので、とにかく安全確保
- ステップ3外部遮断
プラント外部に拡散しないように遮断します
- ステップ4内部遮断
漏れている前後の箇所を閉鎖します
- ステップ5報告
上司や関係者に報告
- ステップ6修理・処理
漏れている個所の修理をしたり、漏れた液の処理をしましょう
- ステップ7原因調査
なぜ漏れたのか調べましょう
発見
まずは液体が漏れたということを発見する段階です。
DCS上で異常に気が付いて、現地をパトロールして場所を発見するというケースが増えています。
現地のパトロールに掛ける時間はドンドン短くなっていますからね。
そのためにも通常時の運転がどんな状態であるかをオペレータは認識していないといけません。
簡単なプロセスならトレンドを覚えるくらい読み込みましょう。
他にもガス検知器などの現場計器で検知できる場合もあります。活用しましょう。
最近はAIを使って通常のトレンドと異常時のトレンドの差をコンピュータが気が付いて、アラームを出したり調整してくれたりするようです。
ハイテクですね。
安全確保
液体が漏れたことを発見したら、とにかく安全確保です。
少し漏れているだけだから大丈夫と安易に近づかないこと。
いつ圧力変動があって液が噴き出すか分かりませんからね。
ちゃんと運転を止める操作をしましょう。
現地のオペレータがDCSのボードマンに連絡して、停止操作を行います。
外部遮断
次に遮断操作です。
この辺からは順番が臨機応変になることもあるでしょう。
まずは外部への遮断です。
プラント外・工場外へ拡散させないようにします。
プラントの周囲は防液囲いや排水溝で覆っていて油分離ピットに集合させるようにしているでしょう。
液体が漏れた時は、このピットのバルブを閉めに掛かります。
これで基本的にはOK。
内部遮断
次に漏れている個所の遮断を行います。
配管のガスケットから漏れているというケースで、前後のバルブを閉めに掛かる作業です。
その前にポンプが止まっていること・反応が止まっていることは絶対に確認しましょう。
安全確保です。
報告
液体の外部への拡散がなく漏れる液も止めたら、報告です。
実際にはDCSボードマンが報告しているでしょう。
製造部の管理者・排水処理部門の担当者
この辺りに報告をします。
製造部の担当者と排水処理部門の担当者が担当者ベースで報告して対応している間に、報告を受けた製造部の管理者が排水処理部門の管理者や環境部門の管理者に管理者ベースで連絡します。
- 漏れた液で排水処理に影響を与えないようにすること
- 環境に影響がないことを確認すること
漏れ量を報告するのに「チョット漏れた」とか「ダーッと漏れている」とかいうような擬音を使う人は素人です。
若手メンテナンスマンにありがち。
漏れ量を報告するときは「10秒に1滴」とか「糸を引くように連続的に垂れている」というような表現を使いましょう。
できるだけ個人の思い込みを防ぐためです。
東日本大震災の原発のベントでもこの話がありましたね。
とても大事です。
修理処理
緊急対応と報告が終わったら、後処理です。
漏れた液体その物については、とにかく集めてできるなら前処理をして本格的な処理は依頼する形になります。
水系ならこんな感じです。
- 乾燥砂で吸収
- ドラム缶などに詰め込む
- 手動で中和処理
- 処理品を排水処理部門に相談したり外部処理に依頼する
中和処理って簡単に書いていますが、結構危険です。
中和熱が出て危険なので、ゆっくり少しずつ時間を掛けて処理しないといけません。
液が飛び散ることもありえるので、保護具も必要です。
異常の処置なので、通常時よりも危険だと思って対処が必要です。
油系ならこんな感じです。
- オイルマットなどに吸着、ドラムポンプでドラムに回収
- 処理品を排水処理部門に相談したり外部処理に依頼する
漏れた場所そのものはメンテナンス部隊に依頼することもあるでしょう。
単なるガスケット交換程度なら運転員でも可能ですが、配管のピンホールなどが起こっていた場合は取替や補修が必要です。
メンテナンス部隊に引き渡す前に、漏れた場所の洗浄が必要です。
これも異常時の処置なので、被液等の災害が起きやすい場面です。
原因調査
一通りの処理が終わったら、原因調査をしましょう。
ガスケットの経年劣化くらいならと思わずに、他に同じような場所がないか疑うべきです。
- ガスケットの入れ間違えをしていないか
- 同じラインの別のガスケットも劣化していないか
- 実は別のラインの漏れの影響を受けていないか
現地を一通りパトロールして潰していきつつ、DCSのトレンド上で影響がなかったかも調べましょう。
どこまで広く全体を見れるかに掛かっています。
参考
最後に
化学プラントで液が漏れた時の対応について解説しました。
発見・安全確保・外部遮断・内部遮断・報告・修理処置・原因調査と冷静に対応しましょう。
液が漏れると収率が下がるだけでなく環境や人体にも影響がでることもあります。
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