最近私は自社の工場の技術力を、少し俯瞰した目で見ることが増えています。他社の製品をみたりしていると、自社の工場の技術力は何だろうと疑問に思いますが、実は意外と大したことがないのではと思っています。
本記事では、特に日本の製造業にありがちな現場力に代表される工場の技術力が、どれくらいの意味があるかを考えます。製品はバッチ生産の少量品目で、コモディティ化が進んでいるものです。こういう製造をしている会社は日本にも多々ありますが、自社の技術力を疑っている会社はあまり多くはないと思います。
手動などの操作
日本の製造業では匠の世界と言われるように、手動操作で高精度を出すことに重きを置いているように思っています。これは機械加工をイメージしやすいですが、化学工場でも似たようなもの。
「現場でのバルブ操作で製品を作りこむもの」
これは大なり小なりどこでも同じもので、人による精度出しがNGだから自動化が進んでいるプラントであっても、残っている手動操作の良否が議論になったりします。典型例が分液。

中間層の残り具合などがバッチによって違う時に、人による差があることを意識できます。できるだけ標準化するためには、ビデオなどで記録を取って現場で表示するでしょう。
こういう取り組みで、品質を作りこんでいくことが日本の技術力と言われています。
・・・で、これが本当に製造業の力と言えるでしょうか?が本記事のテーマ。答えはNGです。
というのも、手動作業の良否が示すことは以下のことだからです。
ある製品の、あるプラント設備構成の、ある原料を使ったときの、最適な作業品質
この前提が壊れると、手動操作の良否は一気に崩壊します。
・同じ製品でも、プラントなど立地が違う。
・同じ製品を同じプラントで作っていても、原料が変わると違う。
例えば、人件費も原料費も高い場所と安い場所で同じ物を作った場合に、品質はどちらもOK・高い場所と安い場所の違いは歩留まりや収率といった量の問題としましょう。この場合に、量が少し多い程度だと、価格の高さが足を引っ張ってしまいます。
どうしてもその品質が必要という理由がなければ、価格が安い方が正義となるこの状況で、品質を高めるための努力は限界があるのに、そこにこだわらざるを得ない。これが私が担当するプラントの実際です。
制御プログラムの作成
手動作業の匠の世界が避けられるようになって、自動化が進んでいきました。ここで大事になるのは、制御プログラムを作成・改造するスキル。DCSのシーケンスに関わる知識です。化学工場の運転の心臓部である制御はとても重要なはずなのに、スキルを持っている人が少ないです。
工場でも制御に関する知識向上やポリシーの確立や標準化などいろいろな工場オートメーション化を進めているはずです。昨今DXも積極的に取り入れているでしょう。
・・・で、これが本当に製造業の力と言えるでしょうか?が本記事のテーマ。答えはNGです。
というのも、自動制御の技術力は以下の前提があります。
あるメーカーの、ある型式の、制御装置を使った運転品質
1つの会社という意味では、DCSのメーカーや型式はできるだけ揃えるでしょう。技術力の維持はある程度可能です。
ところが、世間には多くのDCSがあり、プログラムの記述方法も違ってきます。多くの人は特定の場面にだけ対応できるので、別のDCSを使おうものなら考え方を修正することに苦労します。
・制御方法が違っても、安全性は極端には変わらない
・品質を揃えるための制御方法の変更は難しい
・動かし方を変えると、オペレータがとまどう
結局、その工場であった制御や考え方があり、千差万別です。自社で優れた制御だからと言って、他社でも同じとは限りません。
制御は安全性を高めるためのもので会社の考え方で変わるので、特定の会社での考え方をマスターしたところで、別の会社では使えない。これが私が考える制御の実際です。
反応ルートや反応性が違う
製造に関する知見の中でも、反応に関する情報は重要なはずです。ところが、工場では
・すでに決まった反応ルート
・反応性も立ち上げ時に決めた範囲内
で安定的に機械的に進めることが求められます。
別の工場に同じ製品を持って行ったとしても、反応ルートが変わったり原料の違いによる反応性の違いが起きたりします。工場では反応の知見は半ばブラックボックス化されやすいため、技術力と勘違いする人は少ないですが、「長年の経験」を売りに出そうとして失敗する例は結構あります。
製造に関する知見は欠損しやすい
反応に関する情報は立ち上げ時やその数年間の間で、専門家がフォローしている間がピークです。製造に関する知見は、その後もどんどん積み上げられていくはずですが、情報としてまとまることは少ないです。
定常運転の情報が必要なわけではなく、以下の情報が詰みあがっていきたいのですが、それすら怪しいです。
・運転時に起こったヒヤリや少しの異常に関する情報
・4M変更などで起こった変更の履歴とその影響範囲
・大昔の運転条件と今の運転条件の違い
その時々の変更に関しては敏感に対応するものの、トータルを見て考える人は驚くほど少ないです。工場の技術力と言っても個人の経験と知識の集合であって、そのうちの数人をピックアップしただけでは、工場の技術力とは言えなくなります。
歩留まりが悪くても安くて速いが正義
工場の技術力として、長年の経験に裏付けされた膨大な知識体系が上がりやすいです。ところが、コモディティ化した製品では多少の成績の悪化はともかく早く作ったり修正したりする考え方の方がはるかに大事です。その方が結果的に安かったりします。
この考え方を知ってしまうと、日本でよくあるプラントの技術力が何の意味があるのだろうと疑問に思ってしまいます。
参考
最後に
日本の化学工場では、
- 現場力
- 手動操作
- 熟練経験
- 独自制御
- 長年の知見
などが技術力として語られます。しかし実際には、それらの多くが、「特定条件でのみ成立する最適化」に過ぎないケースも少なくありません。
特にコモディティ化した製品では、
- 安さ
- 速さ
- 柔軟性
- 生産性
の方が競争力として重要になる場面が増えています。もちろん現場知見は大切です。ただ、それを過信し、「日本の現場力は世界最強」と思い込むことには、かなり危うさがあると感じています。
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【著者:ねおにーーと】
化学プラントで20年以上、設計→製造→保全→企画まで一気通貫で経験したユーザー側エンジニア。 バッチプラントの設備・運転・トラブル対応を中心に、現場で本当に役立つ知識を発信しています。 → 詳しいプロフィールはこちら

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