黒字リストラが話題になっているこの頃、化学工場でもリストラは現実に起こっています。リストラがあろうがなかろうが、工場の競争力や付加価値は工場勤務者の使命の1つとして常に問われています。そこに気が付ける環境に居るかどうかの差はあるものの、工場ならどの部署でも危機感を感じてもおかしくはありません。
本記事では、化学工場の各部署で本来持つべき競争力や付加価値に対して、現実はどういうことが起こっているかを考えていきます。悲観的な話をしっかり受け止めようという話です。
・日本は質の高い製品を作る技術者の集団
・値段が高く、品質の高い製品が、実は市場では求められていない
この2つの条件が加わると、工場の技術者はみんな付加価値が低いという評価になってしまいます。
この記事は、業界再編シリーズの一部です。
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機電系エンジニア:投資が進まない工場の中で
私がこのブログで何度も指摘している機電系エンジニアの価値。オーナーズエンジニアだと基本的に価値は少ないと思っています。機電系エンジニアは化学工場では以下のようなミッションが中心になっているはずです。
・設備改造や導入を予算や工期の問題なく完了する
・設備トラブル時に稼働遅れを無く復旧する
これに対して、化学工場を広い目で見てみると以下のような期待感しか持たれていないかも知れません。
・設備改造はお金が掛かるので実施しない。老朽更新のみ
・稼働を少し止めても構わない
日本で工場で投資しようにも基本的に高いので、海外で投資した方が良いのでは?という声が強くなればなるほど、工場勤務者の価値は少なくなっていきます。稼働も少なくなっていくので、設備が壊れたら即日修理という要求も少なくなっていきます。ワークライフバランスの面からも、無理はさせられにくくなっていくでしょう。
この状態が続くと、エンジニアリング能力を持った機電系エンジニアは減少していきます。仮に日本で活躍する場が減っていくとして、海外の立上支援に貢献するという価値すらないかもしれません。
・多少の仕様向上は、製造の価値を高めるものではないので、質を落として良い
・自工場の解しか持っておらず、他の選択肢を考えられない
業界や事業によっては、投資が圧倒的に安ければ、品質を多少落としても問題ないという決心がなされえます。
こういう状況であれば、海外で工場を建てるとしてもその地域で実績のあるエンジニアに依頼する方が良いという選択肢が出ます(日系のプラントエンジニアリング会社が選択肢に上がるわけではありません)。
プロセスエンジニア:花形職種も安泰ではない
機電系エンジニアの価値は疑われやすいと個人的に思っていますが、プロセスエンジニアも大差ありません。
・設備投資に関わるプロジェクト全体を把握する
・基本設計やプラントの動かし方など、運転の中心部を設計する
機電系エンジニアから見ると花形のように見えるメイン設計部分を担当するプロセスエンジニアですが、彼らも外からは以下のように見られます。
・投資額が高い
投資が高いのは工場全体の思想が深く関わっているはずですが、実際に投資見積をするプロセスエンジニアの責任として目立ってしまいます。
機電系エンジニアと同じように、そのプラントの前提条件を踏まえたうえで、合致する条件で仕事をしたらたまたま高いという結果であることは往々にしてあるでしょう。この状態が続くと、機電系エンジニアと同じで、他の選択肢を考えることができなくなっていきます。
海外など安い地域で安い労働力で多少品質が落ちても良いという条件が付けば、日本で高度な運転をするために付加価値を付けているプロセスエンジニアが相対的に落ちていきます。
機電系エンジニアよりは設計の自由度が高いので、柔軟に対応できる人は生き残れるかもしれませんが、高い質が不要なプラントが主力になっていくと生き残りも怪しくなります。
製造管理者:海外では代替可能
製造管理者は、機電系エンジニアとほぼ同じ扱いで価値を疑われます。1つの工場では複数のプラントがあり、それぞれに管理者が配置されているので、その数を減らす方向は比較的簡単です。
特に工場での価値が無くなり始めたら、真っ先にカットされる対象になるでしょう。
プロセスエンジニアと同じで例えば海外では必要性が少ない職種かもしれません。言語の問題もあり、海外で製造管理者を日本人が実施するのは難しいでしょう。
品質を落として良ければ・・・という条件が付けば、技術系はどこも怪しくなります。
オペレータ:熟練よりも自動化の時代に
オペレータも製造管理者やプロセスエンジニアと同じです。そのプラントでの操作方法に習熟していても、そんな高度な操作は不要といわれた瞬間に価値が下がります。
海外に工場を移す理由として作業員の労務費が上がりやすいですが、自動化が進んだ今では多少の操作性の違いが品質に及ぼす影響は下がっています。トラブルだらけの工場ならともかく、それなりに安定した品質を作っている工場の方が多いです。
ただでさえオペレータを志望する人が少なくなっていて、付加価値も無いと言われてしまうと、切ないです。
品質管理:責任とリスクの狭間で
品質管理は工場の価値を左右する大きな存在です。品質管理がNGといえば出荷できません。
これが付加価値を生み出していると勘違いする人がいますが、現実は疑わしいもの。明らかにPLに繋がるような異常を取り除くのは大事なことですが、責任回避のためにNGを出す品質管理者も居ます。
この結果、工場の競争力が低くなっていきかねません。
「そんなにNGを出すなら、この工場で作ってもらわなくてもいいよ」
工場外から見るとこういう考え方も出てきます。
品質管理は製造とは距離を置いていて製造に協力する立場ではない、と思っていて長期戦略を考えずにいるうちに、安くてそれなりの品質の会社に負けてしまいかねません。最近この辺りのことをとてもよく感じます。
安全衛生管理:必要不可欠だが代替可能
安全衛生管理者は極めて怪しいです。日本で製造工場が残っている限りは残るでしょう。製造する機会が少なくなっていくと、椅子の取り合いが起きます。
誤解を恐れずに言うと、安全衛生管理者は誰でもできる仕事です。技術系でそれなりの経験を積んでいるとどの部署の人でもそれなりにパフォーマンスが発揮できてしまいます。だからこそ、日本で作るニーズが少なくなると、海外の人に任せてしまうという流れになりえます。法律の違いなどもありますからね。
特に安全は過剰にすることは容易ですが、災害をゼロにすることはできないまま投資だけが膨れ上がる要因になりえます。再発防止対策を取って効果が出そうだと満足してしまいがちですが、工場の競争力を削いでしまう危険性があります。
工場外からはこう思われているかもしれませんよ。
「そんなに文句を言うなら、この工場で作ってもらわなくてもいいよ」
参考
最後に
- 「高品質」だけでは価値を生まない時代になった
- 各職種が自らの価値を問い直す必要がある
- 本質的な付加価値は、**“作る力”より“選ばれる力”**に変化している
今の工場で働くすべての人が、
「自分の価値はどこにあるのか?」
を問い直すタイミングに来ています。
悲観ではなく現実として、この流れを正しく理解することが、
次の一歩を踏み出すための出発点になるでしょう。
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