化学プラントで使用する、FRP設備の特徴について紹介します。
FRPは世間一般にも使われていて、化学プラントでも使う機会はかなりあります。
非プロセス用途で耐酸性の材質として使うという鉄則を何となく理解できても、具体的にどこで使うかを知らないエンジニアは、残念ながら意外といます。
この結果、新たな設備を設計するときや壊れた設備を補修する時に、応用が利かなくなります。
というのも、FRPはメリットだけでなくデメリットもあるからです。
適切な使い方を選定して、運用していく必要があります。
数が多くないため理解する優先度が高くないですが、理解しないまま経験年数だけが増えていくと、誰にも聞けなくなってしまいます。
しっかりと理解したいですね。
FRPのメリット
FRPのメリットを解説しましょう。
何となくFRPって捉えていると意外と見落としていることが多いと思いますよ。
安い
FRPはその安さが1つのメリットです。
特にサイズが大きくなればなるほどその効力を発揮します。
これは材料費・製作費を考慮すれば良いでしょう。
大型のタンクで水系ならFRPを選択しているなら、安さを重視しているはずです。
対抗馬としてSS400などの鉄系があがりますが、タンクが大きくなればなるほど材料費はもとより製作費も高くなってきます。
バッチ系化学プラントではFRPのタンクを意外と見かけませんが、これは大型のタンクが必要ないという背景があるからですね。
軽い
FRPのメリットとして軽さがあります。
これは製作性・施工性・運搬性などの面でメリットが出ます。
オーナーエンジニア目線なら施工性に目が行きがちですが、製作メーカー側の目線も見ておきたいですね。
FRPに関しては配管工事がどうしても目立ってしまいますからね。
製作メーカーの工場を見たり、ユーザー工場に運搬されているシーンを見るとちょっと考え方が変わるでしょう。
軽さは材料費などコストとしても若干は効いてきますが、それ以上に作業性に効いてきます。
自由度が高い
FRPは自由度が高いという点もメリットとして挙げられます。
ハンドレイアップで人手が必要なのは仕方がありませんが、成型のしやすさは鉄系よりも上です。
人が切ったり張ったりという作業を鉄に対して行う場合よりも、力を掛けずに行えます。
溶接も自動化が進んできたので、成型のしやすさにメリットは薄れつつありますが特徴としては依然として残っています。
また、化学プラント内では溶接を使わずに工事ができる点が特に重宝されます。
FRPというと装置や配管に対してイメージを持ちがちですが、補修という意味でも使えます。
耐食性が高い
FRPにもともと期待している機能としての耐食性の高さは、メリットの1つです。
特に酸系に対しての信頼感は高いです。
バッチプラントではプロセス液が安定しているわけでは無いので、材質選定上は悩むことが多いでしょう。
常時、pHがこの範囲・温度がこの範囲というような指定がしにくいからです。
ユーザーとしてはこれらの情報を出すことが難しく、メーカーは責任を取りたくないから見積するときに選定に悩む。
こんな構図はよく見かけます。
だからこそユーザーが材質指定をすることで、覚悟をする方が速く進めれるでしょう。
もともと耐食性に信頼感があるので、寿命年数をどれだけ延ばすかという世界です。
選定に多少失敗しても、大きな問題につながる可能性は低いです。
FRPのデメリット
FRPのデメリットも紹介しましょう。
万能感のあったFRPですが、塩酸タンク事故以降はデメリットにも目が行くようになってきましたね。
割れる
FRPは割れます。
FRPに限らず樹脂全般の問題です。
これは塩酸タンクの事故として、FRP天板に人が乗って天板が割れて落下するということがクローズアップされました。
塩酸ガスがFRPを透過してガラスを腐食させ、スカスカの樹脂状態になって劣化するという劣化モードは、その業界ではかなり有名。
樹脂やガラスをさらに高度なものにすることは難しく、上手に付き合っていかざるを得なくなりました。
天板に人が乗らないようにしながら作業をするために、現場での足場の設置だけでなく、タンクのノズルオリエンテーションの設計も重要な問題になりました。
加えて現場での固定の作業架台も重要な設計要素に。
エンジニアとしての腕の見せどころですね。
油に弱い
FRPは油に弱いというのは基本的すぎますが、意識していないエンジニアは多いです。
樹脂系材質全般に言えますが、FRPは溶媒に弱いです。
運転者が油を持ち込まないように気を付けるべき問題だ!
って責任を分割して考慮すらしないエンジニアが多いですね。
FRPが油に弱いという特徴を知りつつ、FRP設備や配管に対して運転で油が持ち込まれる可能性があるかどうかを目が向けれるようになると、より広い視点で見れるようになってきます。
例えば、水と油を分液するタンクがあって、分液後の水を直接FRPタンクに送ることは良いのか?というような視点です。
完全に溶媒を扱わない反応系なら心配しなくても、通常は溶媒をどこかで扱うので心配した方が良いです。
この辺はFRPに限らず化学プラント向け設備の材質やメンテナンスに関して全般に当てはまります。
施工に気を使う
FRPは施工上の注意が必要です。
溶接という意味では気を使わなくてすみますが、別の意味で気を使います。
- ゴミの飛散
- 周囲で火気作業をしているかどうかのケア
- 大型のタンクが転倒しないかどうかの注意
FRPは施工性がいいために、現場レベルで切ったり張ったりできます。
このときに発生する屑が環境中に放散されます。
自然環境にもよくありませんが、人体に対する影響も考えないといけません。
FRPの製作工場が地域に集中していることはこの辺りが背景にあります。
FRPは樹脂がメインの組成なので、火をつけると燃えます。
現地工事で多業種が混在作業をしている時に、周囲で溶接作業をしていると非常に危ないです。
特に上下作業は注意が必要。
FRPが軽いということが大型タンクではリスクとなりえます。
軽い大型のタンクは、強風で転倒する可能性があります。
軽いタンクを地面にアンカーボルトで強く固定すると、割れる可能性もあります。
トルク管理やナットの手締めなどで対応するといった細かな注意が必要になる場合も。
これらは、ユーザーの工事担当者は是非とも理解しておきたいポイントです。
ガラスと樹脂
FRPってそもそもどんな材質でしょうか?
何となくプラスチックって思っていないでしょうか?
耐酸性の樹脂だ!くらいにザックリ把握している人もいます。
ある意味間違っていませんが、FRPはガラスと樹脂から成立していることを改めて理解しておきましょう。
FRPがFiberとPlasticだから、ちゃんと意味を考えれば分かりますね。
FRPという略称だけで理解していると見落としがちですよ。
ガラス
FRPの構成要素の1つであるガラス。
CガラスとEガラスの2つがあると思っていてください。
Cガラスは耐食性が高く、Eガラスは耐食性が低い。
化学プラント的にはこれだけで十分です。
FRPにおけるガラスは以下の機能をもっています。
- 樹脂の強度を上げる(Reinforced)
- 樹脂中を透過するガスの量を減少する
FRPのもともとの意味としては強度面から来ていますが、樹脂の透過という意味でもガラスは寄与します。
Eガラスのように耐食性のないガラスを使うと、ガラスが徐々に侵されていき、スカスカの樹脂層が出来上がります。
これが樹脂のブリスター・剥離という劣化モードに繋がっていきます。
だからこそ、プロセス液に接触する一番重要な部分だけは、ガラスの耐食性を上げたCガラスにしておきましょう。
これは譲ってはいけません。
Eガラスは強度のみに寄与すると考えて、接ガス接液部以外の強化層にはEガラスを使用しましょう。
接ガス接液部だけでなく強化層も一体でCガラスにするのは非現実的です。
仮に接ガス接液部がCガラスで作れない場合は、Eガラスを使わざるを得ませんが、寿命を延ばすために肉厚を上げましょう。
傾向監視と定期交換というメンテナンスに頼ることになります。
樹脂
樹脂はビニルエステル系が無難です。
つまり、指定する必要はほとんど無いということ。
ガスならノボラック、液ならビスフェノールという指定をした方がベターです。
より寿命を延ばすことができるという程度なので、過信しないように。
結局は、傾向監視と定期交換の問題に繋がります。
圧力
FRPは耐圧容器として使いません。
タンクで使う場合は常圧に限定しましょう。
負圧や加圧など常圧以外で使う場合はメーカーと調整が必要です。
負圧側は結構耐えるような作り方をしてくれますが・・・。
樹脂である以上は気体耐圧に対して過信しない方が良いです。
液体耐圧ならそこそこ使えるのでベンチュリースクラバーとしては使えます。
温度
FRPは高温では使えません。
常温~60℃くらいが限界と考えるべきです。
これはFRPに限らず樹脂系に広く当てはまります。
60℃を基本的な耐熱温度の限界ととらえておき、60℃より高い温度で扱う場合はちゃんとチェックするというくらいの理解をしておきたいです。
探せば100℃くらいでも耐えるものもありますが、だからといって問答無用で100℃まで耐えると考えると、選択肢を狭める方向になります。
フランジ
FRPでフランジに対して考える必要はありません。
自由に成形ができつつ耐圧を期待しないので、配管などの周囲設備のフランジに合わせるように成型するだけです。
遮光塗装
FRPは光に若干弱いです。
他の樹脂系に比べれば強いのですが、寿命を少しでも伸ばしたいという場合は遮光塗装をしても良いでしょう。
その代わり内部の液量監視ができなかったり、劣化の目視確認がしにくいというデメリットがあります。
使用方法
FRP設備は排水処理設備に限定した方がいいでしょう。
除害装置やタンクなどの設備をFRPにすると良いです。
というのも油に弱いという最大のデメリットがあるから。
大量の有機溶媒を使う化学プロセスでは使えるはずもありません。
それだけでも大きく限定されますね^^
とはいえFRPのメリットは十分に享受できます。
排水発生量が多いプロセスでは特に効果が大きいです。
排水発生量は化学プロセスのサイズや設備数とは必ずしも直結しないですからね。
排水タンク
FRP設備はタンク用途に使うのが普通です。
排水タンクとして大活躍します。
成型が容易・安いという理由で大型の排水貯槽として使います。
排水や廃油の貯槽は大きければ大きいほど生産を安定させますので、FRPはニーズが高いです。
ベンチュリー
FRP設備はベンチュリースクラバーとして使用可能です。
成型が容易・そこそこの圧力に持つという性質を使って、水エゼクター的な使い方をします。
排ガス配管
FRPは排ガスの集気ラインに使用することがあります。
これは耐食性を考慮してのこと。
でも、結構雑に考えています。
プロセス液から出てくるガスが明らかな酸・アルカリなどの水系なら考えても良いのですが、溶媒が飛散する系でもFRPを使ったりします。
FRPは溶媒に弱いにもかかわらず、量が少ないから大丈夫だろうという考えです。
漏れても集気するから大きな問題にならないし、適当な補修をしてしのぐことも可能だからという思想です。
でもFRPに固執する必要はなく、溶媒ならステンレス系やフッ素樹脂ライニング系でも使えるはず。
酸ならPVC(塩ビ)配管でも使えるはず。
考え方次第ですけどね^^
塗装
FRPを塗装剤として使用する場合があります。
コンクリートや鉄の床面が薬液で腐食することを防止したり、水はけを良くするという目的で使用します。
前者は酸系の薬液を扱う場所で、後者は粉体を扱う室内などで考えます。
工事面では、施工中に周囲の生火工事ができなかったり、足場が設置できなかったりと制約が大きいので、慎重に工事計画をしたいところです。
酸系とアルカリ系
FRP設備は酸系とアルカリ系で分割する方が良いです。
これは化学プロセスに依存しますよね。
酸系のプロセスが多い化学プロセスでは、酸系の液やガスに対する処理設備が多いでしょう。
ではFRPの仕様として、酸系に強いガラスや樹脂に指定すべきでしょうか?
これも考えもの。
酸系の液やガスを処理する場合、タンクは常時アルカリ側に維持しておくからです。
タンクに苛性ソーダの液で弱アルカリ程度にしておきます。
ここに酸が入ってきて、酸とアルカリを中和させます。
処理量にばらつきのあるバッチプロセスでは、一時的に酸側に触れることもあるでしょう。
特に反応初期で酸系のガスや液が相対的に大量に発生する場合です。
こんな場合は、使用条件としてのpHは弱酸~弱アルカリという微妙な表現になります。
処理プロセスがアルカリの場合は、この逆ですね。
タンク内を常時弱酸にしておきます。
それでも使用条件としてのpHは弱酸~弱アルカリ。
いずれにしろ、酸に強い・アルカリに強いという性質を重視した設備選定はしない方が良さそうです。
酸系のプロセスが多いから、酸系の処理設備だけを保有しておくというのもプラント思想としては考えもの。
導入当初は酸系だけを考えていれば良かったけど、後々アルカリ系の処理をすることになりそうということを予想して、
後で拡張できるような予備スペースは予め準備しておきたいですね。
プラント建設思想として大事です。
参考
FRPは化学プラントで非常によく使います。
本記事の知識でも実務でかなり使えますが、さらに知識を深めたい場合は以下のような本がおススメです。
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最後に
FRP配管と化学プラントの関係について紹介しました。
FRPは安く・軽く・施工しやすく・酸アルカリに強いという特徴があり、排水系に大活躍します。
割れやすい・油に弱いというデメリットがありますが、使いようは十分にあります。
排水タンク・ベンチュリースクラバー・配管などに使います。
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