動バランス(dynamic balance)について解説します。
化学プラントの回転機器でたびたび話題になりますが、何を行っているか意外と分かりにくいものです。
理論的な部分は除いて、概要だけを説明したいと思います。
動バランスを取らないと振動が大きくて、安全安定運転の妨げになります。
機械屋としては知っておきたい知識です。
回転機器は振動する
回転機器は振動が必ず発生します。
物が動くあらゆる場所で振動は発生します。
その大小は設備によってさまざまですが、ゼロではありません。
この絶対的な原理はまずおさえましょう。
設備はゆがみがある
設備は絶対に歪みがあります。
どれだけ垂直に・どれだけ平行に作ったとしてもミクロのオーダーでは必ずズレがあります。
歪みが大きいものほど、動かすと振動は大きくなります。
この辺は力学の世界の話の原理原則の部分です。
速度が速いほど振動は大きい?
感覚的には早くものを動かすほど、揺れが大きいと思うでしょう。
実はこれは正しくはありません。
物体の形状などによって、どの速度で揺れが最も大きくなるかは変わります。
この速度のことを共振速度とか共振振動数とか言います。
共振って音叉の話などで聞いたことありませんか?
タコマ橋の例で知っている人がいるかもしれませんね。自励振動の話ですが、カルマン渦の例として理解してる人もいるでしょう。
タワーマンションの高層部が地震で揺れやすいという例でご存じの方もいるでしょう。
化学プラントではブロアー
さて、「物が動けば振動が発生する」「歪みが大きいほど振動は大きい」「揺れが大きくなる速度は物によって変わる」というくらいの情報が出ました。
化学プラントで振動の問題として発生しうるのはブロアーだと思います。
遠心分離機も振動機器としてはメジャーですが、採用していない工場もあるでしょう。
ブロアーの振動を考えるために、ブロアーの構造をシンプルに見てみましょう。
こんな感じでシャフトとインペラが結合されていて、シャフトをベアリングで支えている構造です。
シャフトを何らかの動力で回して、インペラを回します。
この絵の通り完全に対称形に作った設備で、シャフトを完全に円形に回すことができれば振動は起きないはずです。
単純に同心円状に回転し続けるだけです。
ところが、物は必ず歪みがあります。
例えばこんな感じでシャフトもインペラも歪みがあります。(相当強調して書いています)
そういう歪みがある物を動かすと振動は起きます。
もちろん回転させようとする力(例えばモーター)も完全な円形で動いているわけではないので、振動を発生させる要因になります。
化学プラントでブロアーが振動しやすい機器に挙がるのは以下の特徴があるからです。
- 形状が不安定(シャフトに対してインペラが大きい)
- 速度が速い
- 動力が大きい
動バランス(dynamic balance)
さて、いよいよ動バランスです。
動バランスは言葉通り、動く物のバランスを取ろうというもの。
動バランスでは、回転する設備にあえて重りを付けることでバランスを取ろうとします。
今回の場合はシャフト・インペラの一体物を回転させて、速度・加速度を各所で測定します。
速度・加速度が全体的に均一になるように、重りを付けていきます。
結構地味な作業です。
シャフトとインペラをセットでバランスを見ることが大事です。
シャフトだけのバランスを取り、インペラだけのバランスを取れば、シャフトとインペラを組み合わせたら自動的にバランスが取れるもの。
こんな風に思いがちですが、結構ズレます。
動バランスチェックには専用の設備が必要です。
自社内には保有しておらず、外部委託の形で動バランスチェックをすることが多いでしょう。
振動騒音は何が問題?
ブロアーで振動騒音が大きかったら何が問題でしょうか?
意外と答えられないかもしれませんね。
- 設備が壊れると即生産停止になる(ガス除害に使うので)
- 作業員の作業環境を悪化させる(騒音)
- 周辺設備を破壊する(振動)
- 近隣地域に影響を与える(騒音)
ブロアーはガスの吸引という重要設備に使うので、できるだけ寿命は長く使いたいです。
振動や騒音が周辺設備や作業員、それどころか近隣地域にも影響を与えかねません。
疎かにしてはいけませんね。
参考
最後に
動バランスについて解説しました。
物が動けば振動がおき、物は必ず歪みがあるので、振動の大小が問題になことがあります。
化学プラントではブロアーが振動問題が起きやすく、解消するために動バランスを取ることが求められます。
部品ごとではなく一体物でバランスチェックをするようにしましょう。
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