近年、データサイエンスやデータサイエンティストという言葉は、製造業でも注目を集めるようになりました。とくに化学工場では、**DX(デジタルトランスフォーメーション)**の波を受けて、保全や運転の最適化、コスト削減を目指す動きが加速しています。
しかし、実際にデータサイエンスに取り組もうとする機電系エンジニアにとって、その理想と現実のギャップは想像以上に大きいもの。現場を知らずに配属される、十分なデータがない、昇進機会が限られている──こうした現実に直面することになります。
本記事では、化学工場でデータサイエンスに挑戦する機電系エンジニアが陥りやすい課題や矛盾点について、リアルな視点から解説します。
使えるデータは無い
化学工場で機電系エンジニアの仕事をしていると、常々データの少なさに悩まされるでしょう。
データもしくは相当するものとして、使えそうなものは以下くらいしかありません。
- 液面・温度・圧力・流量などの運転データ
- スポットで行う検査データ(手書きレベル)
- 文章で書かれた報告書
運転データを使った解析は化学工学や運転の知識を必要とするので、機電系エンジニアが主体的に行うのは無理でしょう。
これができている職場は、機電系と製造のコミュニケーションやローテーションが非常に活発になされていたり、装置や運転方法が単純もしくは少ない、という条件が付きます。
検査データを使って何とか解析を・・・と取り組みますが、費用対効果を考えるとかなり疑問です。
良くある手として振動や電流データを常時解析して、補修のタイミングを見極めるというものがあります。
これは補修するタイミングが1年変わるかどうか、その費用が多少変わるかどうか、という世界であって突き詰めることは一定の価値があっても、最初にすることではないでしょう。
運転や保全の経験をしていれば、大体この設備が怪しくてこれくらいの頻度で点検・補修すれば良いだろう、だからこれくらいの予算と工期があれば良いだろう、と実績を積んでいきます。
仮に予算が取れそうになくても工期が確保できていれば対応はできるので、生産計画の変動によって操作ができてしまいます。
その精度をさらに上げるために、データサイエンスを使って劇的な効果がありますか?という話になります。
対外アピールとしてはした方が良いのでしょうが、DCSの運転データのような体系的な情報にはなることは考えにくいです。膨大な計測機器が必要になります。
メーカーから提出される報告書はデータとしては活用したいけど、まだ難しいですね。入力するのを忘れる人が必ず出ます。
機電系エンジニアでデータサイエンスに取り組もうとしたら、このアナログ環境をまずは変える必要があります。
機電系よりも臨機応変さが求められる職場でデータサイエンスが進まないことはあっても、機電系は割と繰り返しデータが得やすいはずなのですけどね・・・。
唯一可能性があるとすれば、計装系の仕事をして計器の特徴や関わる運転方法を知り、最適な制御方法を構築するためにデータサイエンスを活用するというくらいでしょうか。
これでどれだけの合理化を生み出せるか、という厳しい世界です。
現場を知らないままキャリアを積む
化学工場で機電系エンジニアでデータサイエンスの仕事をする場合、全社横断的な組織に配属されます。
データサイエンスを知っている人をとにかく集める以上は、そうなります。
これだと、現場を知る機会は相当少なくなるでしょう。
工場から仕事の依頼が来て、対応する。
工場の実態を知らないので、提出されたデータと会話などのコミュニケーションから得られた情報だけが頼り。
- 問題を本当に解決しているのか、表面的な解決になっているのか、イメージができない。
- 解決した内容が、極めて限定的なものになっているかもしれない
- 工場で課題として認識してないけど、本当は解決すべき課題があるかも知れないが気付けない
こんな状態になります。
かといって、貴重なデータサイエンティストなので、ローテーションをして工場に移すわけにはいきません。
化学工場のことは良く知らないデータサイエンスをし続けることになります。
汎用的な仕事なので、転職はしやすいでしょう。
競争相手が多い
化学工場で、データサイエンティストとしてのキャリアはまだ確立してないでしょう。
(工場を含む)会社もデータサイエンティストに対して、長期的な育成計画を立てるとは思えません。これは、生産技術なども同じですけど。
急遽、人を集めてポジションを作っても、枠が限られます。
化工・化学・物理など他にも競争相手がいっぱいいる中で、昇進が結構早く止まってしまうことになるでしょう。
同じ程度の給料で、それなりに仕事をしていたらちゃんと出世する機電系の生産技術に比べると、辛いはずです。
かといって、生産技術に転向するにはかなりの覚悟が必要です。研究から工場に来るのと同じような感覚になるでしょう。良いことは基本ありません。
データサイエンスを扱う会社はいっぱいあるので、もっと良い場所に転職しよう、という気になることでしょう。それなら機電系なら、最初から化学会社のデータサイエンスに焦点を当てなくても、と思っています。
参考
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最後に
化学工場におけるデータサイエンスの導入は、確かに将来性があります。ですが、現場を知らず、データも整っていない状況で成果を出すのは極めて困難です。
特に機電系エンジニアがキャリアの軸としてデータサイエンスを選ぶ場合、「データがない」「配属が現場から遠い」「キャリア形成が難しい」という三重苦に陥る可能性があります。
理想と現実のギャップを理解し、あくまで“片足を突っ込む”くらいのスタンスで取り組むことが、ストレスを軽減し、長期的にキャリアを活かすコツと言えるでしょう。
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