危険物製造所の構造上必要な要件をまとめました。
プラント建設レベルでは、絶対に知っておかないといけない知識です。
でもオーナーエンジニアレベルの改造工事なら知らなくても10年くらい普通に仕事ができてしまったりします。
既存と同じという設計をしていればいいわけですから。
20号タンクと同じように危険物製造所の規制がいっぱいあります。
今回は政令レベルの話で留めています。
細かいレベルでは所轄官庁の指導なども含めて相当数があります。
その辺りは省略して共通的な部分に絞ります。
規制一覧
化学プラントつまり危険物製造所の規制は危政令で定められています。
第1号 | 保安距離 | |
第2号 | 保有空地 | |
第3号 | 標識・掲示板 | 基礎・地盤 |
第4号 | 地階禁止 | |
第5号 | 壁・柱・床・梁・階段 | |
第6号 | 屋根 | |
第7号 | 窓・出入口 | |
第8号 | ガラス | |
第9号 | 溜枡 | |
第10号 | 照明・換気 | |
第11号 | 排気装置 | |
第12号 | 囲い | |
第13号 | 漏れ防止 | |
第14号 | 温度計 | |
第15号 | 直火禁止 | |
第16号 | 圧力計・安全装置 | |
第17号 | 電気設備 | |
第18号 | 静電気除去 | |
第19号 | 避雷 | |
第20号 | タンク | |
第21号 | 配管 | |
第22号 | 電動機・ポンプ・弁・継手 |
22個も項目があったら整理自体が大変ですよね。
製造所という建物そのものの規制が最も大事なので、そこに焦点を当てます。
第4号~第13号の範囲です。
主要構造
プラントの主要構造は不燃材料・耐火構造で作ることが定められています。
建築用語の中でも基本的な部材に慣れ親しんでいない人もいるでしょう。
例えば梁など。
イメージで書くと以下のとおりとなります。
建屋の骨組みに当たる部分は不燃材料として壁だけは耐火構造、ですね。
では不燃材料と耐火構造って何が違うのでしょうか?
不燃材料は材質そのもので耐火構造は構造に着目したものです。
並列して比較するものではありません。
不燃材料
不燃材料は、不燃>準難燃>難燃という燃えにくさランクに分かれます。
危険物製造所はその最高ランクの不燃材料にしましょうという規制です。
定義としては発火時間で仕分けされますが、そこは理解していなくてもOK。
具体的な不燃材料としてはコンクリート、ガラス、鉄鋼、モルタル、グラスウール、ロックウール、ケイ酸カルシウム板などがあります。
「床・窓・構造物・断熱材など建物に関わるメジャーな部分で燃えにくいものをピックアップしたら思いつくもの」が全て不燃材料に当てはまると、機械屋的には考えれば良いでしょう。
鉄鋼が不燃材料であるから、設備や配管も鉄鋼材料で作るのが基本です。
化学プラントで樹脂配管がなぜダメなのか、配管中でサイトガラスなどをなぜ使っていいのか、という根本的な問いを受けることがたまにありますが、その答えはこの不燃材料にあります。
カーテン・シートなど簡易的な囲いを付けたいというニーズは非常に高いですが、不燃材料がなかなか開発されずに苦労しました。
最近では透明の不燃材料が開発されてようやく、使いやすい簡易囲いを作れるようになりましたね。
耐火構造
耐火構造は建物の各部材(壁・柱・梁・屋根・階段)などを具体的にどういう構造で作るかを定めたものです。
詳細は四日市市危険物規制審査基準が分かりやすいでしょう。
不燃材料で壁や柱を作ると言っても、構造の指定が全く無いかというとそういうわけではありません。
厚みなど寸法に関する規定があります。
コンクリート造は最近では流行らず、RC造がメインで鉄骨の部材でくみ上げることが多いでしょう。
耐火構造として意識するのは実質は壁だけになると思います。
それくらいの緩い知識でも機電系エンジニアなら十分合格範囲です。
専門的な建築設計者に詳細設計はお任せするとして、共通知識として最低限を知っていれば良いでしょう。
耐火時間で仕分けがされるという点も、あまり意識しなくて良いと思います。
窓・出入口
窓や出入口には防火設備を付けることが要求されます。
出入口は実質は防火扉。
開放せずに扉を付けて防火性能がちゃんとある物を付けましょうという意味です。
開き扉が一般的です。
非難するときのことを考えて、外開きにしましょう。
右手が利き腕の人が多いので、右手で持てる方向に開閉する方が良いでしょう。
開き扉以外にスライド式も使えますので、扉開閉と設備設置の関係でレイアウト的に厳しい場合の選択肢として持っておいた方が良いでしょう。
2方向避難の原則で出入口は2つ必要になるため、どうしても制約が出てきてしまいます。
窓は網入りガラスを付けましょう。
火災の熱でガラスが簡単に割れてしまわないようにするためです。
排出・滞留
危険物製造所の構造的には危険物の排出・滞留が最も注目すべきポイントです。
これは第4類の危険物を扱うことを念頭に置いています。
溜枡
危険物製造所の床には溜枡を付けることが要求されます。
これは第4類の溶媒蒸気が空気より重たいから。
漏れた有機溶媒が気化すると低い位置に集まろうとします。
もちろん液体の有機溶媒も同じ。
これを外部に拡散させないようにするためには、地面でキャッチしようという思想です。
コンクリート床面なら専用の桝を作り、桝に向かうように勾配を付けます。
鉄製の床の場合は、梁自体を傾けて勾配を付けるか根太を使って勾配を付けるかというせんたくになるでしょう。
どちらにしてもコンクリートのように2方向の勾配を付けるのは難しいので、1方向の勾配を付けて排水溝で集めて溜枡に集合させるスタイルが一般的です。
囲い
製造所の床面には囲いを付けます。
これは危険物の液体が外部に漏えいしないようにするため。
防油堤と発想は同じです。
150mm高さ以上であることが要求されます。
床に勾配を付ける以上、囲い高さは方位によって変わることになるでしょう。
最小の囲い高さが150mm必要と考えておきましょう。
溜枡から外部排水溝に流れる場合には、その手前に油分離槽を置いて油が排水溝に流れないようにします。
こう考えると結構手厚い保護策をしていると思いませんか?
換気・排気
換気は換気扇、排気はベンチレーターを意識したものでしょう。
どちらも危険物の蒸気などを滞留しないようにするためです。
第4類の蒸気なら地面に向かって落ちていくでしょうが、化学プラントで複雑に設備や配管が入り組んでいるとどこで滞留するか分かりません。
自然換気ができそうならそれでも良いですが、怪しそうなところは強制換気のために換気扇やベンチレータを付けようという思想ですね。
ざっくり以下のイメージです。
排気は屋根の一番高いところから積極的にガスを排出します。
古い工場ではスレートを山形に乗せた屋根の上にベンチレータを付けたタイプが多いです。
一般的な工場なら壁を付けているので、山形屋根も妥当性があります。
化学プラントの場合は壁を付けずに屋根だけ付けるケースに、こういうベンチレータを付ける例がたまにあります。
もっとも最近では屋根代わりに屋上に設備を置くことが多く、屋根という概念がないのでベンチレータを付けるケースは少なくなっています。
壁がある部分には、換気扇を付けて危険物の滞留を防ぎます。
その他
その他の規制は危険物製造所としては補足的な内容になるでしょう。
- 加熱冷却のある設備には温度計
- 圧力上昇がある設備には圧力計
- 静電気が発生する可能性がある設備には静電気除去設備
- 指定数量10倍以上なら避雷針
- タンク、配管、その他の設備の関する規制
20号タンクが焦点に当たりやすいですが、危険物製造所の規制としてはここでようやく登場します。
参考
危険物製造所の知識は、化学プラントのエンジニアにとってとても大事です。
失敗は許されない分野ですので、常に手元に置いて使える状態にしておいて損はありません。
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最後に
危険物製造所そのものの規制について解説しました。
危険物製造所で危険物を扱うということを少し広い視野で見てみて、建物に目を向けてみるともっと多くの規制をすべきことに気が付くと思います。
建築物だから知らない分からないと怯えることはなく、原理原則的な視点で見てみるとそんなに難しいことは言っていないことに気が付くでしょう。
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