不満を口に出す上司・怒る上司に対する否定は、昨今非常に活発です。
主に部下側からの主張であったり、人事系のマネジメントの視点からであったりと、現在目の前で起こっていることに着目した否定は非常に多いでしょう。
それも緊急処置としては大事ですが、本来は不満を持っている人が何に対して不満なのかをちゃんと調べ、その対策を取ることも大事なはずです。
なぜかそこがいつも見落とされていて、不満を口に出す人だけが悪者になっている格好なのが気になっています。
2024年現在、大きな日本企業で会議など多数の人が集まる場では、不満を口に出したり怒ったりするシーンはほとんど見かけなくなりました。
たまに見られるのは、机の近くでの個人間での話し合いや指導など雑談に近い形の場合です。
世間的には怒ったり不満を口にしたりする「上司」は、窓際・パソコンが使えない・口だけで手を動かさないなど、能力的に疑わしい表現をされることでしょう。
私の身の回りではこの例に当てはまる人はほとんどおらず、冷静に仕事をしている人ほど窓際社員の印象です。
注目している「上司」の上司から見たときや他部署から見たときの印象と、部下から見た「上司」の印象では違いがかなりありそうです。
怒る「上司」が実際にどういうことを考えているか、観測範囲をまとめてみました。
部下に対する不満という以上に大きな不満を持っていて、それが抑えきれなくなるタイミングが運悪く部下と接している何気ない場面、ということが多いです。
組織維持に対する危機感
観測範囲内で不満を口に出したり怒ったりする上司は、組織維持に対する相当の危機感を持っています。
若手の部下に仕事をしてほしくても、今までよりもかなり量を絞らざるを得ず、自分たちがやってきた量と質をこなすことができないために部下の成長に不安を感じてしまいます。
気合と根性で多くの量を処理するというわけではなく、仕事の本質を考えて今のやり方を変える工夫を可及的速やかに実施しないといけません。
そういう変革をするための経験を積めずに、言われたことをとりあえず処理していくうちに、組織としてはさらに硬直化してしまいます。
仕事の依頼があったときに、社内の人たちなら相談して妥協点を見出してから取り組みますが、社外だったら仕事の仕方ありきで「できる・できない」の話になってしまいます。
社内でもこの流れが進んでいき、現場レベルでの組織間では頭の固い状態になることを、上司の人たちは極めて恐れています。
この流れを少しでも止めるためには、上司が仕事を巻き取りますが、それも限界があります。
プレイングマネージャーとしての自身の仕事と部下の教育でいっぱいになって、不満や怒りの形で表れてしまうシーンが見られます。
「今の若者は・・・」というロジックとは違う印象ですよね。
トップの発信力に対する不満
不満や怒りを面に出す上司の典型例として、トップの発信力に対する不満があります。
現場レベルでは人・仕事量などの問題で、変わらざるを得ない状態なのに、トップが正しく認識してそれを認める環境にない場合があります。
典型的な板挟み状態になります。
中間管理職です。
コロナ禍での急激な変化でも、トップから発信されることは少なく、現場レベルでの自主努力に任せっきりになっていて、現場からトップに声を上げたら否定され、何か問題があれば現場のせいにされる。
こういう構図が、工場の各部署で発生しています。
「質を落としても良いですよ」
この一言がないがゆえに、管理職である上司が緊張の糸を緩めることができずに、表に出てしまいます。
若手や部下からの報告で拙い部分があったり、そもそも報告がなかったりすると、我慢の限界を越えて漏れてしまうということがあります。
怒られる側からしたら、とばっちり以外の何物でもなく迷惑でしかありませんよね。
アンガーマネジメントなど言われていますが、それができるレベルをとっくに越えている。
そういう悲惨な状態であることをトップが理解していない、という場面が多いです。
将来の方向性を見い出せない不安
組織の維持が難しいという危機感を覚えながら、トップからの発信がない状態だと、部署レベルの管理職は将来の方向性を見いだせない不安がでてきます。
自分自身の身の振り方はもちろんですが、若手の今後を不安に思ってしまいます。
例えば、異動やローテーションの考え方が管理職に降りてこないというパターン。
人事権を持っている人が、その場その場で起きた問題に対応すべき人を異動させてしまい、長期的な教育プランを持っていなかったりします。
中間管理職は育った若手が別の部署にとられ、また一から指導しないといけず、いつまで経っても同じことを繰り返している錯覚を覚えます。
それどころか教育のニーズがさらに高まり、負担が増える一方。
仕事は減るどころか増えていきます。
仮に教育に手を抜いた場合、今の組織が無くなって別の部署に異動せざるをえなくなった時に、この緩い環境に慣れてしまった若手は、対応できるだろうか。
この点で指導のレベルを一定以下に抑えることを躊躇う上司は、非常に多いです。
その結果が不満や怒りとなって現れます。
もう少し広い目で見ると、どの部署でも似たような状況にあるのですが、組織の課長レベルの中間管理職ではそこが見えません。
だからこそ孤立しやすい位置にあって、精神的な負担が大きい環境にあります。
トラブル発生時の不安
部下の報告が曖昧だったり、そもそも報告が無かったりすると、トラブルが発生したときに管理職は相当の問題として責められます。
自身の管理能力を問われますからね。
- 説明が足りていないから質問をすれば、責められていると感じて説明しなくなり
- 説明しなければ状況が分からずに、後で管理能力を問われる
この辺の葛藤を管理職は持っています。
部下の教育を諦めている管理職なら、問題が起きたときに責任を取るしかないと覚悟して、説明の不足があっても気にしません。
教育を諦めたくないがゆえに、いろいろと口が出てしまいます。
かといって、少しくらい教育や指導をしても部下がすぐに変わるわけではないので、状況が好転する可能性は低いでしょうが。
技能伝承ができないことへの不安
不満や怒りを面に出す上司は、自分の持っている知識や技能が部下に伝えられないことに対する不安を持っています。
- 自分が若い時に苦労して得た知識は、本来苦労して得るものではない
- 知識や技能の習得速度を速めて、多能工化させたい(それしか会社として生き残る道がない)
無駄な時間を掛けて教育せずとも、しっかり技能伝承できれば、一人前になる速度はあがるはずだという期待です。
多能工化は今後の大きなキーワードになるでしょう。
現状はその真逆の単能工化が進んでいて、いわゆるポテンヒットをいっぱい発生させてしまいます。
それが大きなトラブルとなって、生産停止や事業撤退に繋がる可能性があるため、上司は不安に思います。
知識を習得するにはインプットだけでは足りず、アウトプットが必要になり、その機会を過度に増やすことができないので、習得速度が上がる可能性はほぼありません。
教えたいことがいっぱいあるのに、伝わらない。
この辺りのモヤモヤを持っている人は多いです。
プレイヤーとしての力量差に対する不満
不満や怒りを表に出す上司は、プレイヤーとしての力量差があります。
上司・部下の関係はもちろんあります。これは次の項で説明します。
ここでは上司である管理職間での差の話。
ある管理職は積極的に仕事をしてやり方を変えようとしているのに、別の管理職は窓際そのもので何もしようとしません。
部下との間で問題を起こすわけではないので、部下からは否定的な意見が少ないでしょう。
でも周囲の部署や「上司」の上司くらいの目線では、すごく問題になります。
問題視している管理職がストッパーとなっていて、何も変わらない。
頑張って変えようとしている自分が評価されず、何も変えようとしない管理職と同じ扱い。
この辺の不満が頭の中には確実にあります。
これを部下に対して口にすることは少ないでしょうが、不満を抑えきれなくなる要素の1つになるのは確かでしょう。
部下の努力不足に対する不満
部下の努力が不足しているという点は、不満や怒りの1つになります。
これは否定できません。
教育的な指導をしたり、話しやすい環境を作ったり、今の上司はいろいろと気を使っています。
それでも部下の方が変わらずに、ますますレベルの低いやり取りになってしまうことがあります。
こういう人が一定量います。
ここに手厚くフォローするには、それなりの人や工数が必要です。
ところがそれができる人が自分以外に誰も居ません。
そうなると、ストレスはどんどん溜まっていくでしょう。
仮に不満や怒りを表に出したら、出した方が負け。ストレスを貯めた方が負け。組織の課題を放置していても負け。
中間管理職が辛いと昔から言われていますが、今はその比じゃないくらい辛い要素がある、ということは共通認識として持っておきたいですね。
誰も中間管理職をやりたがらない大きな理由です。
参考
関連記事
最後に
不満や怒りを表に出す上司が内面で考えていることを、観測範囲内でまとめました。
部下に対する不満は一定量ありますが、それ以上に組織維持や方向性が見いだせないことの不満が非常に強いです。
そこに技能伝承や自身の能力という要素が入ってきます。
何も言わない上司が好まれていますが、問題を先に送りしている部分にはおそらく気が付いていないでしょう。
化学プラントの設計・保全・運転などの悩みや疑問・質問などご自由にコメント欄に投稿してください。(コメント欄はこの記事の最下部です。)
*いただいたコメント全て拝見し、真剣に回答させていただきます。