化学プラントの設備材料と言えば。炭素鋼(carbon steel)が基本。
バッチ系では、ステンレスやグラスライニング・フッ素樹脂ライニングが目立ちように感じますが、鉄が王道。
設備を安定的に使うためにも、鉄に関する一般的な知識は、機電系エンジニアなら知っておかないといけません。
単なる鉄でしょ
こんなざっくりとした理解ではさすがに問題です。
ですが、掘り下げればいくらでも掘り下げることができる分野です。
そこで、化学プラントの機電系エンジニアが知っておくべき範囲に絞って、概要を解説します。
炭素鋼(carbon steel)の成型法
材料で鉄と良く表現しますが、実際には炭素鋼という分類です。
炭素鋼を中心に見ていきましょう。
炭素鋼(carbon steel)
炭素鋼って化学プラントではこれでもか?という目にする材料です。
あまりにも慣れ過ぎているせいか、この定義を知らない人もいるくらいです。
炭素鋼と鉄は同じ
こんな風に考えている人もいるでしょう。
大きくは間違っていません。
炭素鋼は鉄に炭素を混ぜたものです。
鉄と炭素鋼はこの意味で大きく違います。
炭素を入れるのは硬さを上げるためです。
炭素が全く入っていない、純粋な鉄は柔らかく使い物になりません。
炭素鋼は鉄中の炭素の量で以下のように呼び名が変わります。
- 極軟鋼 0.08~0.12
- 軟鋼 0.12~0.20
- 半軟鋼 0.20~0.30
- 半硬綱 0.30~0.40
- 硬綱 0.40~0.50
- 至硬綱 0.50~0.80
- 高炭素鋼 0.80~1.00
柔らかい・硬いという名前が入っていますよね。
SS400という一般的な炭素鋼は0.60%以下の炭素鋼です。
柔らかい鉄はパイプに、硬い鉄はバネや工具などに使い分けます。
鋳鉄
鋳鉄は炭素量が非常に多い材料です。
炭素が2.5~3.5%含んでいます。
炭素鋼が一番高いクラスでも1.0%程度でしたよね。遥かに高い数字です。
炭素量が多いので、硬くてもろいです。
鋳物を使った鋳造品として使用します。
溶かして型に入れて成形する方法です。
ポンプのケーシング・弁体などの複雑な形状に対して使います。
鋳「鉄」だから炭素が少ないと思いきや、逆に炭素量が多いというのが誤解のもと。
鋳鋼
鋳鋼は炭素が0.1~0.5%程度で鋳造します。
鋳鋼は最近ではあまり使いません。
鋳造そのものの問題として、内部に巣ができたり亀裂ができて強度が落ちる傾向があります。
鋳鋼は強度が必要、かつ複雑な形状の部位に対して容易に成形するためのものですが、
溶接技術が進歩した今、鋳物に頼る必要はなくなっています。
鍛鋼
鍛鋼は鋳鋼のような鋳物と違って、鍛造で成形するものです。
鍛鋼は鉄を物理的に叩いて成形する方法です。
鋳造のように溶かして成形するわけではないので、複雑な形状を作ることはできません。
しかし、鋳造のように内部欠陥が生じにくいため、信頼感があります。
強度が求められる場所で使います。
炭素鋼(carbon steel)の添加元素
炭素鋼には鉄に炭素を添加することでパワーアップさせます。
鉄と炭素だけで純粋に出来上がるわけではなく、他にも元素は添加されています。
パワーアップの方向に行く添加物もあれば、パワーダウンの方向に行く不純物もあります。
まずは、炭素C・クロムCr・ニッケルNiは理解しましょう。
残りは余裕があれば・・・という感じです。
炭素C・クロムCr・ニッケルNiは大事!
リンP・硫黄S・モリブデンMo・チタンTi・アルミニウムAl・銅Cuは参考程度
マンガンMn・コバルトCo・ケイ素Si・タングステンW・バナジウムViは後回し
ここだけ分かれば、以下はさっと読み流しても結構です笑
炭素C 強度アップ
炭素を添加すると、鉄は硬くなります。
引張強さ・降伏点という材料力学的な指標が上がります。
ただし、含有量が多すぎると逆に減少していきます。
衝撃値・伸びが減少してもろくなります。
含有量の最大値は0.9%程度のようです。
リンP 有害
リンを含んだ鉄は衝撃値・伸びが下がります。
もろくなります。
含有量が0.06%以下で均一に分布していると害はありません。
硫黄S 有害
硫黄もリンと同じく、強度を下げる要因となります。
硫黄が鉄の粒界に分布して、もろくなります。融点も下がります。
高温での加工性も悪くなります。
マンガンMn 脱酸材
マンガンは硫黄Sを除くために役立ちます。脱酸材といいます
硫黄Sが鉄にとって良くないので、マンガンを加えることは鉄にとって良いことです。
延性がよくなるため圧延や鍛造など加工性が良くなります。
人間の健康にいい食物繊維的な役割っぽいですよね。
クロムCr 強度アップ・耐食性アップ
クロムCrは機械的な強度をアップさせます。
さらに耐食性もアップします。
ステンレスにも使われます。
というよりステンレスといえばクロムCrと1:1の関係で認識しても十分。
ニッケルNi 低温衝撃アップ
Niは機械的性質をアップさせます。
機械的性質というと「なんか全体的に良くなっている」と考えて良いです。
粘り強さも上がります。
粘り強さは低温での衝撃値とほぼ1:1。
化学装置では炭素鋼は0℃以下では極端にもろくなり使えなくなりますが、
低温での衝撃割れを起こさないようにNiを添加します。
SUS304の18-8ステンレスと1:1に考えて良いです。
モリブデンMo 機械的性質アップ
モリブデンも機械的性質をアップさせます。
なんか全体的に良くなっている
これですね。
SUS316Lに対してモリブデンを使い、粒界腐食に強くします。
コバルトCo 耐熱性アップ
コバルトはニッケルと似たような性質です。
高温強度を増すのがニッケルとは違う点。
ニッケルよりも「なんか全体的に良くなっている」ですね。
ケイ素Si 脱酸材
ケイ素は脱酸材として使い、引張強さ・降伏点を増加させます。
マンガンMnと同じですね。
タングステンW 高温強度アップ
タングステンWは、高温における引張強さ・硬さを増します。
そもそも高価なタングステンを鉄に添加するという思想は
バッチ系化学プラントとはマッチしません。
鉄中にタングステンを添加した例を、私は扱ったことがありません。
タングステンは化学プラントでは単体で扱うことはあります。
バナジウムV,チタンTi 機械的性質アップ
バナジウムやチタンもタングステンを同じように、機械的性質をアップさせます。
これも私は扱ったことがありません。
チタンは化学プラントでは単体で扱うことはあります。
アルミニウムAl 脱酸材
アルミニウムも脱酸材ですね。
これも鉄中に添加した例は見たことがありません。
アルミニウムは単体では化学プラントの設備でも目にすることがあります。
銅Cu 海水の耐食性アップ
銅は大気中や海水中の耐食性を改善させます。
ただし伸びや絞りが下がります。
これも鉄中に添加する例は見たことがありません。
銅は単体で取り扱うことが普通でしょう。
炭素C・クロムCr・ニッケルNiだけで十分
いろいろな元素がありましたが、全部覚える必要はありません。
バッチ系化学プラントでは炭素C・クロムCr・ニッケルNiまでで十分です。
ステンレスと関連があるという意味で知っておいた方が良いというレベル。
極端に言うと炭素Cの存在すら忘れていても、何とかなってしまいます。
それくらいの感覚なので、リンPや硫黄Sは「確か良くないものだ」くらいで十分。
他の元素は炭素鋼の添加元素としては、ほとんど話題に上がることはありません。
というか、炭素鋼自身が話題に上がることがないので・・・。
炭素鋼(carbon steel)グレード
バッチ系化学プラントで使う炭素鋼のグレードを見ていきましょう。
化学成分
バッチ系の化学プラントで使用する炭素鋼とその化学成分を示します。
グレード | C | Si | Mn | P | S |
SS400 | – | – | – | ≦0.050 | ≦0.050 |
SM400B | ≦0.20 | ≦0.35 | 0.60~1.40 | ≦0.035 | ≦0.035 |
SLA235A | ≦0.15 | ≦0.30 | 0.70~1.50 | ≦0.025 | ≦0.020 |
炭素C、ケイ素Si、マンガンMn、リンP、硫黄Sがパラメータであることが分かりますね。
順番に見ていきましょう。
SS400が基本
炭素鋼の基本はSS400という一般構造用圧延鋼材です。
最も基本的なSS400では、リンPと硫黄Sという有害物の含量も規定されていますが、ケイ素SiとマンガンMnは規定されていません。
それどころか主要元素であるはずの炭素Cも規定されていません。
後で述べますが、SS400の場合は引張強度だけを規定しています。
SM400BやSLA235Aは低温材
SS400以外にSM400BやSLA235Aという材質をバッチ系化学プラントでは使います。
これはいわゆる低温材。
SS400では0℃以下の温度で耐えれず、割れる性質があります。
低温脆性と呼びます。
低温脆性を防ぐためにも添加物である炭素Cを多くし過ぎてはダメと規定したり、ケイ素SiやマンガンMnを一定量は添加しないとダメと規定しています。
SM400BよりSLA235Aの方がより低い温度にも耐えます。
これが添加剤の割合と関係しています。
機械的性質
機械的性質も紹介します。実質は引張強さだけでOKです。
グレード | 引張強さ(N/mm2) | 降伏点(N/mm2) |
SS400 | 400~510 | 245≦ |
SM400B | 400~510 | 245≦ |
SLA235A | 400~510 | 235≦ |
SS400にある400という数字。気になりませんか?
この400という数字は引張強さを表します。
SS400なら引張強さが400N/mm2以上であることを示しています。
SS400・SM400Bの400という数字は、引張強さの最小値と同じであることを理解していれば十分でしょう。
炭素Cが多いほど引張強さは高いけど、炭素Cを規定するのか引張強さを規定するのかという点で引張強さの方が分かりやすいから規定していると考えた方が良いでしょう。
元素の割合は元素分析などの分析をしないと分からず、サンプリングによって誤差が出てきそうですが、引張強さはその物を引っ張れば分かります。
化学的分析よりも物理的分析の方が目に見えて分かりやすい。
電気よりも機械の方が分かりやすいということと同じでしょう。
SLA235Aは降伏点の最小値と同じですね。
降伏点は引張強さと関係がありそうだという認識で十分です。
バッチ系化学プラントの鋳鉄・鋳鋼・鍛鋼グレード
炭素鋼に比べて鋳鉄・鋳鋼・鋳鋼はもっと雑な見方をしていいです。
鋳鉄、鋳鋼に関してはこれらのグレードがあります。
- FC200
- FCD450
- SCS13
- SCS14
- SCS16
- FC200やFC450が鋳鉄のグレードで、鉄の鋳造版。
- SCS13、14、16は鋳鋼のグレードで、ステンレスの鋳造版
これだけで十分です。
鉄やステンレスの親戚と思えばいいくらい。
鋳鋼も似たようなもので、フランジに対して規定していると思えば良いです。
何となく知っていれば十分。
鉄の配管に接続するから、FC200のポンプを使ってSS400のフランジを使うのが基本だけども
鉄のグレードを少し上げたら、FCD450のポンプを使ってS20C?SF390F?のフランジを使っているのでしょう。
見慣れない材質であれば、普通の規格よりグレードを上げているはずだ。少し検索してみよう。
これくらいの感覚で十分だと思います。
材質や規格名の微妙な違いに過度な気を配る必要まではありません。
鉄でもステンレスでも壊れるときは壊れます。
寿命が多少短いか長いかだけの違い。
長ければ長い方が望ましいことは確かですが、そのための検討に時間を掛けたり、標準化できていなければ意味がありません。
参考
関連記事
最後に
バッチ系化学プラントで使う炭素鋼や関連材の種類を紹介しました。
SS400が基本で鉄と炭素を混ぜたもの。他にも添加元素がいっぱいあるということ。
低温材のグレードがあるということ。鋳鉄や鋳鋼というグレードがあるということ。
これくらいを知っていれば実務では何とかなります。
化学プラントの設計・保全・運転などの悩みや疑問・質問などご自由にコメント欄に投稿してください。(コメント欄はこの記事の最下部です。) *いただいたコメント全て拝見し、真剣に回答させていただきます。