化学プラントの機電系エンジニアにとってメカニカルシールはいつも問題になる部品でしょう。定量的な評価が難しく、いつ壊れるか分からないから信頼性を上げる取り組みをしないといけないのに、成果が上がらない。壊れた時には即復旧を求められて慌てる。復旧したあとは分からない原因解析を求められる。
そこでメカニカルシールのメーカーを変えたら何か変わるだろうと期待することがままあります。ワンチャンあるかも、との狙い。これがうまく行けばいいのですが、いかないこともしばしば。本記事では、メカニカルシールの性能差をメーカーの違いで比べるのが難しいことを解説します。
この記事は、シールシリーズの一部です。
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仕様書では見分けられない
メカニカルシールを購入する際に仕様書で比較することはあります。これで何かが変わる可能性はほぼありません。
今回はポンプを対象にしていますが、ポンプの仕様や内容物の特性でメカニカルシールを選ぶとしても一般的な構造の違いを指定するのがほぼ限界。シングル・ダブルやインサイド・アウトサイドといったもの。これらの情報が仕様書に書かれていたとして、メーカーによる差を見つけることはできません。
図面であれば、例えば金属部のスプリングや2次シールの違いで何かを比較できるかもしれませんが、それができるくらいの内容物の情報があれば購入段階で指定するべきであり、図面を見て初めてメーカーによる差に気が付くという世界ではありません。
壊れるまで分からない
メカニカルシールはシールをするという部品なので、シールさえできていれば性能としては問題ありません。ちゃんと動いていればメーカーによる違いを意識する人はほぼいないです。唯一現場で直接メンテナンスをする人くらいでしょう。
メーカーの違いを意識する人が増えるのは、壊れた時。原因をいろいろ考えていい対策が思いつかなかった時や納期が間に合わない時に、違うメーカーの物を採用しようという気になります。ここで上手く交換できてシールができれば、やはりメーカーの違いを意識することはありません。
ちゃんと動いてよかった。異常の兆候が出るまで様子を見ながら運転しよう。こうなります。
壊れても分からない
メカニカルシールが壊れた時には、メーカーの違いを感じるかもしれません。同じポンプでA社のメカニカルシールは3年持ってB社は1年だったというような場合です。しかもB社は2~3回続けて同じような頻度で壊れたとしましょう。この場合、B社品は残念ながら信頼感がガタ落ちとなるでしょう。
そこで「B社のせい」ということで社内で解決して、A社品に切り替えて使っていく。問題がないからやっぱりB社品が悪かったのだ、という説得力に繋がってしまいます。
A社とB社の違いを比較しようとしたときに、この方法だと適正な評価は実はできません。長い年月が経ってしまうので、製造内部の人や原料やプロセスなどの違いを考慮してないからです。A社→B社→A社に切り替えたとしても、その間に5年以上は経っていて製造条件も何かしら変わっているはず。この評価が難しいから、「B社のせい」としているだけであって、B社の何が悪いかを踏み込んで解析することは今は難しいでしょう。
同じ使い方をするポンプで、連続的に使用していて定期的に切り替えるなど、条件がほぼそろっていないとメーカーごとの評価はできません。この場合でも、特定の原料の特定の使い方に特化した評価なので、別のポンプでは勝手が違うかもしれません。トラブルが多いという印象値でメーカーの差があるように感じてしまうのが、保全の実態です。
交換したらいいとは限らない
メカニカルシールが壊れた時に修理するよりは新品に交換した方が良い。これは大抵の人が感じます。ポンプそのものも変えたほうが安心という意見もあります。
では、これらの対策をしたら安心でしょうか?そうとも限りません。立上げ当初のことは、製造でも保全でも時間が経てば忘れ去られます。日常の運転やメンテナンスが大事だからです。立ち上げ時にも設備でいろいろトラブルがあって何とか落ち着いたとしても、その情報は消え去られるかもしれません。「設備のなじみ」の評価が難しいので、メーカーでの違いをそこまで的確に比較することは難しいでしょう。
時代が変わると変わる
メーカーによる違いが仮に見いだせたとして、それが未来永劫続くかというともちろんそんなことはありません。これが現場にいると意外と気が付きません。
・今までA社が良かったからずっとA社を購入しよう。
・前の担当者もA社を買っていたから、私もA社にしよう。
これが続いていきます。
で、ある時にA社が壊れだしたら寿命だと思い、また交換。1年で壊れるということが続けば、A社品は劣化したのでは?という疑いを持たれます。そこでB社品に変えて、また故障。続けていくうちに、どちらがいいのか分からなくなります。
メカニカルシールはそもそも故障の確率が一定以上あって、操作方法などによっても変わりえるもの。原因がどこか、どの会社が悪いか、を調べるところに過剰な労力をかける前に、故障しても即交換ができる仕組みを作る方がはるかに大事です。
参考
最後に
ポンプ用メカニカルシールは、メーカーごとの性能差を定量的に評価することが非常に難しい部品です。
正常運転中は差が見えず、故障時に初めて比較対象となります。しかし、その頃には運転条件や製造環境が変化しているため、メーカーだけを原因として判断することはできません。
現場ではメーカー変更が万能策のように扱われることがありますが、本当に重要なのは故障時に迅速に対応できる保全体制です。
メーカーの優劣を追い続けるよりも、トラブルに強い運営の仕組みを整える方が、長期的には大きな効果を生むでしょう。
この記事の内容を、あなたの職場・キャリアに合わせて整理したい方に技術・キャリア相談を行っています。海外プラント、製造管理、組織の病理、キャリア停滞など、あなたの状況に合わせて具体的にアドバイスします
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【著者:ねおにーーと】
化学プラントで20年以上、設計→製造→保全→企画まで一気通貫で経験したユーザー側エンジニア。 バッチプラントの設備・運転・トラブル対応を中心に、現場で本当に役立つ知識を発信しています。 → 詳しいプロフィールはこちら
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