化学プラントで熱交換器は非常に多く使われます。様々な型式があり目的に応じて使い分ける必要があり、選定するには知識や経験が必要となります。失敗すれば大きな事故に繋がる可能性もあり、選定は慎重に行いましょう。
本記事ではバッチプラントに限定して熱交換器の一般的な選定方法について解説します。
この記事は、熱交換器設計シリーズの一部です。
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多管式が万能
バッチプラントでは多管式熱交換器が万能です。とにかく悩んだら、多管式熱交換器にしましょう。多管式熱交換器なら、耐食性も取扱物質にも幅広く対応できます。
唯一の欠点と言えば設置面積が大きいということでしょうか。これもある程度妥協をすれば解決する問題です。
多管式熱交換器を前提として、個別の条件に対して選定を考えていきましょう。
凝縮
バッチプラントの9割以上が凝縮目的で、多管式熱交換器を使うのが一般的です。状況によってはスパイラル熱交やブロック熱交も可能です。
多管式
多管式熱交換器であれば、いろいろな選択肢があるので安心です。
・メンテナンスを重視して横型
・耐食性を上げるならグラスライニングやカーボン
切替生産を前提とするバッチプラントなら、汎用性を求めて横型のグラスライニングやカーボンが無難だと思います。
積極的に凝縮するための蒸留工程以外にも、ガスの外部拡散を防ぐためのガスラインの冷却用途にも幅広く使えるので、反応器ごとに熱交換器が組み合わせでセットされていることが理想です。後になって熱交換器を足したり、ルート変更しようとすると結構大変ですね。
スパイラル・ブロック
スパイラル熱交やブロック熱交は多管式熱交の代替となりえます。ただし、粉体が混じっている系では特に慎重になりましょう。
理論的にはスパイラルもブロックも多管式より線速が高いので、粉体による閉塞が起きにくいと思われますが、これは実際の運転条件で問題ないことを意味していません。粉体の性質は運転条件や原料の条件によっても変わりえるので、ある瞬間で問題なかったとしても長期的な運転を通すとトラブルとなりえます。
スパイラルやブロックのメリットの1つが敷地面積ですが、これを重視したばかりに他のデメリットが出ると元も子もありません。このバランス感覚があるプラントなら問題ないですが、多管式熱交での実績が多いプラントほど、実績重視で進めることになるでしょう。メンテナンスや応急時には同じ型式であることは強力なメリットですからね。
スパイラルやブロックは多管式とは構造が違うので、メンテナンスも気を使うでしょう。専門会社に委託するとコストはあがりますし、自前でメンテナンスするには習熟が必要です。
液体冷却
液体冷却は、多管式熱交換器とプレート熱交換器のどちらも候補になります。
多管式
多管式はとにかく無難なので、液体冷却でも多管式を選んでも良いでしょう。ただし、凝縮のように使用箇所が多いわけではないので、凝縮用の熱交換器のように汎用性や統一性を求めるのは、あまり得策ではありません。
個別の設計をすればいいなら、選択肢が多い多管式の方が設計しがいがあります。
プレート
液体冷却ならプレート熱交換器は使いやすいでしょう。腐食性が高いならチタンなど高級金属も使えます。
多管式熱交換器のデメリットを敷地面積だと考えると、プレート熱交換器がそのデメリットを補う存在になるわけではありません。現地交換を前提としたプレート熱交換器はフレームサイズが大きくなり、結果的に多くの面積を必要とします。これなら、縦型の多管式熱交換器の方がメリットがある場合もあります。
プレート熱交換器はメンテナンスに特殊技能が必要という問題もあります。専門会社に委託する必要があるので、メンテナンスコストが高くなる方向です。
参考
最後に
バッチプラントにおける熱交換器選定では、以下の方針を意識すると安全で効率的です。
- 基本は「多管式」を選ぶ
- 凝縮用途が中心なら横型が便利
- 耐食性を重視する場合はグラスライニングまたはカーボン製
- スペースを優先する場合でも、メンテ性を犠牲にしない
- プレート・スパイラル・ブロック式は限定的に活用
結論として、**「多管式熱交換器を基準に条件ごとに微調整する」**のが最も現実的です。
安定運転・保守性・コストのバランスを取りながら、目的に合った最適解を選びましょう。
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