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働き方

プラントのトライアルで問題が起きないように取り組む裏で起きる問題

トライアル失敗 働き方
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化学プラントでは、新製品や合理化などのトライアルに相当する取り組みが頻繁になされます。この段階になると失敗が起きることを恐れるために、いろいろな余裕を盛り込んだ計画となってしまいます。

これらの余裕は公の場に出ることは無く、各部署の計画の範囲に含まれてしまっています。機電系エンジニアならこれを予算や工期という点で、自身の財布の中に入れていることでしょう。こういう余裕としてどういう物があるか、それがどういう影響を後々与えるかを考えていきます。

予算

投資予算に対して余裕を持つのは、現代のエンジニアリングでは当たり前の話です。物価高騰が起こる前の時代(もう10年くらい前ですね)であれば、これまでの実績から適正な価格をほぼ正確に予想して、予算を絞り込むことが可能でした。

今では価格高騰が急に起こるリスクが高くなり、予算に余裕を持つことになります。この結果、起こることは・・・

  • 高い投資額になるので、投資が中断される
  • その工場は高い物件だと認識されて、敬遠される
  • プロジェクト途中で価格高騰が起こらず、お金が余る(けど返却はしない)

余裕を持ちすぎた結果、高い投資になるという分かりやすい形になります。結果、もっと安い地域での投資を考えるというのも分かりやすいでしょう。

せっかくもらった予算を余らせてしまって返却する仕組みがあれば、素直に返却するのも手です。でも、一般には別の用途に使いたくなるものですよね。ここをスムーズに進めるには、投資に関する仕組みをしっかり作り上げないといけません。「一度提示した金額から1円でも越えることは許されない」という厳格さを求めれば求めるほど、「余った金額を素直に提示することも許されない」となります。工場やエンジニアを責める形になりますが、結果的に会社全体が苦しくなっていく姿を、私はこの20年で嫌というほど見てきました。

価格高騰が読めない → 高い投資額になる → 本社から信頼感を失う → 安い地域に流れる

本社と工場を分断させていく方向です。

工期

予算と同じように工期も余裕を見ることになります。

こちらの影響は予算よりは軽微です。プロジェクト全体工期にしろ、現地工事の工期にしろ、数年前から計画していれば済むからです。

工期によって与える影響は、新製品や合理化の効果が発現する時期が変わる、生産機会が失われる製品が出る、というものです。どれだけ計画を早めようとしても2~3年は掛かるので、その間の計画を補正することは、極めて難しいというほどではありません。

工期を少し余裕を持たせて承認された場合、エンジニアとしては当然楽になります。作業員も楽になるでしょう。この結果、やり直し工事が少なくなって工事品質が良くなり、トライアルで失敗が起こりにくくなる可能性もあります。

求める結果に対して、削ってしまったら悪影響が出る典型例が工期でしょう。

エンジニア(工事設計や現地工事)をターゲットにしましたが、もっと上流でも工期の考え方は重要になります。化学プラントの場合なら、フラスコレベルの研究、実機へのスケールアップのための工業化開発、実機のプロセス開発、などの研究や開発をする技術者の工期も同じ問題を抱えます

反応

反応が失敗しないようにするためには、反応に余裕を持たせることになります。

  • 小実験の反応と実機の反応の違いに対する余裕を過剰に見る
  • 懸念していることが、起こるかどうか分からないから余裕を見る
  • 洗浄しないことで次の反応に及ぼす影響が良く分からない → 廃棄物の量を増やす

これらの余裕はとても目立ちます。研究で考えていたことと、実機で起こることの差があった場合、研究で何を考えていたのだ?と責められます。たとえ余裕を持たせすぎても持たなさすぎたとしても、どちらでもです。

化学会社の場合、研究は肝になる部分です。ここがしっかりしていないと、会社の意義を疑われかねません。そういうプライドがあるのだと思います。

確実に問題を起こさないようにするには、反応条件は最も無難な物に落ち着きます。その結果、コストや成績を度外視したとしても。安全は大事なので否定はできませんが、これが行き過ぎると多少の安全性の差よりも、コスト差の方が大きいこともあり得ます。それでも、安全を一度でも取ってしまうと、反応条件を変えることは極めて難しくなります。

結果、コスト競争力が出ないことになりかねません。

無難な反応条件 → コストアップ → 安い地域に流れる

予算の話と同じですね。

品質

品質に余裕を持つとは、例えば不純物を多めに予測していたり、規定に含めてしまったりすることを指します。

化学プラントの反応では、原料や製品に多くの不純物を含みます。これらの効果が最終製品にどういう影響を与えるか読めないものも多いです。だから、上限を設けて管理しようとします。

これが行き過ぎると、結果首が回らなくなります。

  • 原料の含量や不純物の量が厳しすぎて、生産できる会社が無い
  • 製品の不純物量が厳しすぎて、製造できる工場が無い
  • 目的の製品を得るために、特定の不純物が一定量含む必要があるマニアックルールができる

厳しい品質にしようとすればするほど、対応できる人が少なくなります。その結果は当然コストに反映されます。

不純物量を徹底して押さえようとしたら、粉体系なら再晶析を掛けて綺麗にするというのは一般に行われます。ピカピカの製品になるでしょう。コストは当然上がります。ところがこれが製品に悪影響を与えるというマニアックな製品があったりします。昔の製品ほどこういうブラックボックス的なプロセスが多いです。

製品の質は変えれないけど、原料はころころ変わり対応しようとします。そこで苦しんでいる状況を見るたびに、製品の質が厳しすぎることは本当に良い事なのか疑問に思います。品質の差が製品の効果にはっきり現れるなら分かるのですが、それを実感できる人がとても少ないのが化学業界っぽいです。BtoCの業界ならもっと分かりやすいでしょうね。

設備

反応や品質に余裕を持たせるために、設備上も色々な余裕を持ちます。

  • 腐食性が良く分からないから一式グラスライニング
  • 反応でガスや結晶が出るかも知れないから、配管口径は大きく、ポンプはスラリー対応
  • 操作ミスがとにかく怖いので、徹底して自動化

1度作ってしまった設備は後で修正が難しいから、考えられる最大の設備にしようとしてしまいがちです。結果はコストとして現れます。

設備だけが「1度変えると難しい」というわけではありません。反応条件と関わる品質も変えるのは相当難しいです。

設備の場合は、超高価な投資をしてある製品を作れるようになっても、数年後にはまた別の投資がなされそこでも超高価な投資をしてしまいかねません。結果、とても高いプラントになっていき、競争力を削いでいきます。

失敗を認めない文化が首を絞める

トライアルで問題が起きないように、と考えるのは「失敗が怖い」からです。お客さんへの品質、近隣地域への安全や環境上の問題なら分かります。

そうではない種々の影響ですら、失敗を認める(社内で共有される)のが怖いという文化を作ってしまうと、余裕が膨れ上がってしまいます。

○○会議などで、トライアルの結果を共有化しようとすればするほど、各部署は責任を回避しようとするでしょう。関係者が多く集まる場を設けると、起こりえることです。

皆さんの会社では、こういう晒し合いの会議て多いでしょうか。

参考

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最後に

化学会社のトライアルでは、失敗を過度に恐れるために、いろいろな場所で余裕を設けてしまいます。予算・工期・反応・品質・設備などどんどん膨れ上がっていきます。

これは結局はコスト(と工期)に直結します。高いなら安い地域で依頼する方が健全と考えるのも仕方ないですね。

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