プラントエンジニアの機械系であれば、熱交換器の設計はメインの仕事となるでしょう。
難しい計算ソフトを使って、複雑な計算をするイメージを私も持っています。
連続プラントの反応に関係する専用設備であれば、プラントの成績に直結します。
ところが、バッチプラントの場合は、熱交換器は結構雑な設計でも何とかなると思います。
少なくとも、私は適当にしか設計した記憶がなく、専用ソフトを使ったことはありません。
大学のときにはそれなりに難しいシミュレーションを回していたので、熱交換器の設計は経験を活かせるチャンスだと思っていましたが、実際にはほぼ役立たず。
四則計算+αで終わる計算で、しかもやっても意味があまりない。
この現実を知った時に、過去の努力を虚しく感じた記憶があります。
さて、それは置いておき、熱交換器の設計で多少悩んでも何とかなるという例を、いくつか紹介しましょう。
凝縮や冷却目的なら型式は何でもOK
熱交換器は色々な型式があります。
有名な多管式熱交換器以外にもプレート式・スパイラル式・ブロック式・多重管式などがあります。
バッチ運転の場合、凝縮や冷却に熱交換器を使うことがありますが、多管式熱交換器を選んでおくと大抵上手くいきます。
とはいえ、例えばスパイラル式や多重管式やブロック式でも運転は十分に可能。
プレート式だけは真空など特殊条件では機能しません。
粉体が同伴する系では、多管式もしくは多重管式が無難でしょう。
スパイラル式やブロック式では詰まる可能性があります。流速を上げて閉塞を回避する狙いがありますが、スタートストップと途中で運転条件が振れるバッチとしては失敗しやすいです。
それでもうまくいく場合もあるでしょう。
多管式が無難であるとはいえ、いくつかの条件を満たせば他の型式でも何とかなるものです。
多管式ばかり選んでいる工場だと、あえて他の型式を選ぶ勇気を持てないかも知れませんが、いざという時には選択肢として持っていると良いでしょう。
逆に蒸発の場合には、耐圧の問題があり型式を選びましょう。
バッチ運転の場合、加熱目的での熱交換器はジャケット式の反応器が一般的ですが、これは広い意味では多重管式ですね。
熱交換器は伝熱面積・相変化・固形物の有無・洗浄性などを考慮して選ぶという、教科書的な説明がなされますが、実際にはそれなりに自由度があると思っても良いでしょう。
しっかり考えるのは、反応に直接影響を与えるなど、限定された場所だけだと思います。
50基も100基もある熱交換器を、1つ1つ設計するのは辛いですね。10基でもしんどいのに・・・。
向流と並流はどっちでもOK
熱交換器では向流と並流の選択は、毎度出てきます。
安定した運転の場合には向流の方が好ましく、スチーム加熱なら上から下・水冷却なら下から上などの「こうした方が良い」という選択はいくつかあります。
プラント建設など自由度が高い設計においては、しっかり選びましょう。
ユーザーエンジニアをしていると、こういう理想的な系ばかりを扱うわけではありません。
向流に流したいけど配管スペース的に並流にせざるを得ない、冷却水を上から下に流さざるを得ない、という状況はありえます。
無理すれば理想的な状態に配管を施工することもできるでしょう。
しかし、伝面や運転時間に余裕があって、多少熱効率が悪くても何とかなるので、変に改造範囲を増やしてほしくない、というニーズは結構あります。
こういう場合、工事コストは下がりますし、洗浄や切替のリスクも下がります。
改造の場合には、運転条件を精査する人や機会があるわけでなく、単にアイデアだけがある状態で詳細設計にあたり、理想的な系を目指してコストアップをしてしまう、ということが多々あります。
短期的な投資の面でも、プラントのライフサイクルという意味でも、実は得にならない結果となります。
ユーザーエンジニアは、プラントエンジニアリングの基本を抑えつつ、こうした現実に柔軟に対応できる応用力が求められますね。
材質が多少悪くてもOK
熱交換器の中でも、多管式の場合は、チューブ側をSUS304・シェル側をSGPとする例は多いです。
イニシャルコストを少しでも安くするという思想です。
これは、メンテナンスを重視するなら止めた方が良いでしょう。
シェル側もSUS304とする方が安心です。
シェル側の腐食は、冷却水の長期使用や、冷却水の流量不足もしくは過剰によって、中長期的にトラブルとなります。
ここで運転を止めて補修したり、新しい設備に交換していくと、コストが跳ね上がってきます。
それくらいなら、SUS304で統一する方が安心です。
保全マンとしては給に呼び出されるリスクが下がりますし、運転者もパトロールで気を回す度合いが下がります。
でも、従来通りのチューブ側をSUS304・シェル側をSGPが、絶対に悪いというわけでもありません。
問題が起きる機会は多くはありません。起きたときに運が悪かったと諦めるのも1つの手です。
考え方次第と言えますね。
同じことが、SUS304とSUS316Lの話でも言えます。
点検できなくてもOK
多管式やプレート式の場合、点検可否が1つの話題にあります。
点検できる方が良いと思いますが、これは長いこと運転をする人の立場でしょう。
点検口を設けて、10年に1回などの頻度で洗浄をして、リフレッシュさせていきます。
これって本当に必要でしょうか?
何もしなくても30年持つ設備でそれを40年50年と持たせるための点検洗浄であった場合、30年目で新しい設備に変えるということは、1つの手です。
この間は、逆にノーメンテナンス(BM)にすると、メンテナンス費を下げることもできます。
点検を定期的に行うか(TBM)、全く見ないか(BM)、はプラントの保全思想に直結します。
しっかりしたデータを取得していき、工場の思想を統一させていくことで、初めて実現できます。
数十年に1回の問題のために、点検口を設けて漏れるリスクや点検コストを上げるべきか。なくても何とかなってしまうものかも知れません。
参考
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最後に
熱交換器の設計はすればするほど、何でもいい中で最も良さそうなものを選ぶという発想になってきます。
イニシャルコストよりもランニングコストを重視した設計が大事であり、能力設計ではなくプラントの運転思想や稼働条件に関わってくる話です。
ユーザーエンジニアはこういう部分に積極的に関わらないと、プラントエンジニアリング会社や機器ベンダーと同じ考え方になってしまうと良くはないでしょう。
良い意味で、雑に設計できるようになりたいですね。
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