流体力学は機械系の大学などで学ぶ重要科目です。
四力学など基本の学問として位置づけられていますよね。
大学院の試験でも必須になるので、とりあえず勉強するという人も多いでしょう。
何の役に立つのかイマイチ理解しないままに・・・。
化学プラントではプロセス・ユーティリティ含めて多くの流体を扱うので、流体力学はふんだんに使用されることが予想されます(私は入社時に全く予想していませんでしたが・・・)。
しっかり勉強して、使いこなさないといけないと思うかも知れないでしょう。
ところが、実際にはそうでもありません。
化学プラントで流体力学を使う場面とその程度を解説しましょう。
比重と粘度
比重と粘度はとても重要な要素です。
流体力学の範囲内に含めるべきか怪しくなりますが、化学プラントではごく日常的に使う表現です。
比重
比重(もしくは密度)は疑問に思う人はあまり居ないでしょう。
液体なら水が1、気体なら空気が1
この関係を知っていることがスタート。
その次は、比重の大小関係をいくつか抑えましょう。
液体は有機溶媒は1より低い。酸・アルカリで1より高いものがある。
気体は有機溶媒は空気より重たい。
この辺の関係が即座に出てくるレベルになれば、大丈夫です。
比重は圧力損失・分液速度・運転動力など影響範囲が広いです。
比重が問題になりそうなことは設備設計でも結構ありえるのですが、水や空気として考えても上手くいくこともあります。
だからこそ、標準である水や空気とは条件が違う時にこそ注意しましょう。
細かい値は調べれば出てきます。
この知識を使うのは、プラント設計で考えるべきことを列挙したり、P&IDやプロセス制御を考えたり、運転トラブル時に対応を考えたりするときです。そこで漏れなく課題を抽出するときに活躍します。
比重の定義が大事というわけではなく、比重がプラント運転の様々な要因に関係しているということを理解していることこそが大事でしょう。
粘度
粘度も比重に近い要素があります。
ただし、比重よりは重要度は下がります。
温度が下がると粘度が高く、温度が上がると粘度が高い
100mPa・s以上くらいになると圧力損失を要チェック
この関係を知っていれば十分です。
粘度が高くない範囲内では、機電系エンジニアとしては圧力損失にそこまで気を使うことはありません。
粘度の定義は知っていても居なくても、実務には影響がでないでしょう。
断面積が狭い = 流量が少ない = 圧力が高い
圧力損失は流体力学のメイン部分です。
細かい計算が必要になるでしょう。
ところが現場レベルではこの関係をしっかり認識する方が遥かに大事です。
断面積が狭い = 流量が少ない = 圧力が高い
連続の式の意識が強くて断面積が狭い = 流量が多いと考える人が多いです。
プラント運転で問題になる時には、エネルギーが不変の状態なので、断面積を狭くすると圧力損失があがらないように流量が低くなります。結果、断面積が狭くなっている手前では圧力が高くなるでしょう。
運転トラブルで最も起こりやすいのが、詰まり。
詰まって液体が送れなくなった時に、詰まりの箇所を調べて閉塞解除をしようとしますが、どこが怪しいかを見抜くためには断面積の考え方がとても大事です。
問題になっている工程でどこが狭いだろうか。
P&IDや現場を見て、運転データやヒアリングで流量・圧力の情報を入手して、即答します。
そんな時に、圧力損失の計算が~ベルヌーイの定理が~、と言っている時間はありませんね。
ガスは圧縮膨張する
ガスは圧縮したり膨張したりする性質があります。
これだけを見ると当たり前だと思うでしょうが、プラントに当てはめている人はあまり多くはありません。
圧縮ガスは危険
気体は圧縮できるので、その状態から解放されたら膨張します。
圧力の高いガスは危険
大事故に繋がることが非常に多いです。
高圧ガスという法律で制限を掛けているのも、圧力の高いガスが危険だからです。
圧縮や膨張という性質以上に、圧縮したら危険という認識こそがプラントエンジニアとしては持っておきたい感覚です。
ユーティリティは加圧
エアー・窒素・スチームなどユーティリティは圧力が高い状態にあります。
気体を圧縮させるためには圧縮機という機械が必要です。
圧縮させると温度が上がるので、冷却が必要
この辺の関係が理解できていれば十分です。
流体力学的には断熱圧縮とか熱サイクルとかいう話になりますが、流体力学というほどの知識がなくても理解できると思います。
プロセスは減圧が多い
プロセスはバッチの場合は減圧が多いです。
減圧蒸留が多いからです。
減圧 = ガスラインの気体は膨張 = 配管口径が大きい = コストが高い
この関係がしっかりと理解できれば十分でしょう。
プロセスで加圧系でガスを扱う場合は、バッチと言えども十分にあり得ます。
この場合は、危険度が急に上がります。
高圧の状態で反応を進めて温度が上がると、さらに高圧になるからですね。
詳細検討には専門知識が必要
プラントエンジニアでも現場に近い保全や設計の場合には、流体力学は上記くらいの知識があれば十分です。
その代わりに、反射的に出てくるレベルになっていないと意味がありません。
逆に、一定の時間を掛けて問題を解決するシミュレーションや研究においては、流体力学の知識を幅広く知っておく必要があるでしょう。
持ち場立場の問題です。
機電系エンジニアの仕事を初めて人の中には、大学の時のようなアカデミックな計算をする場面が少なくなって落ち込み、周りはもっとすごい検討をしている人だらけで焦る人が居ます。
でも、現場で原因を解析し対応策を即答できる人の方が、製造業としては遥かに大事です。
プラントの機電系エンジニアは現場よりの仕事ですので、製造課をタイムリーにサポートできるように基本を徹底して使いこなせるようにしておきましょう。
参考
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最後に
化学プラントの機電系エンジニア向けに流体力学で重要ポイントを3つ絞りました。
比重・粘度は標準とそのズレの大きさの程度を知っておきましょう。問題に気づいたら調べれば良いだけ。
圧力損失よりも断面積・流量・圧力の定性的関係は大事です。ガスの圧縮膨張の一般的な性質も大事です。
知っておくべき範囲は狭いですが、即答して使いこなせるレベルになることが大事です。
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