ガスケット(gasket)係数と最小締付圧力の話をします。
ガスケットの知識の基本よりは、やや応用といった部分です。
正直に言うと、この知識がなくても仕事は回るでしょう。
プラントの機械・計装系のエンジニアとして一人前になるころまでには、イメージが持てるようにしておきたい内容です。
とにかく丸投げが可能なユーザーエンジニアなら、ガスケット係数という名前すら聞いたことが無いベテラン層だっているくらいです。
ちょっとしたデータ比較のつもりでまとめてみました。
ガスケット(gasket)の種類ごとのおおよその値
ガスケットの種類ごとにガスケット係数と最小締付圧力の値をチェックしましょう。
株式会社バルカーのカタログを引用します。
厚みによって値は変わりますが、3mmで固定して比較します。
ガスケットと言えば3mmというくらい、3mmはかなり基本的な値です。
ガスケット係数m
ガスケット係数mを比較しましょう。
ガスケット係数mは
使用時のボルト荷重を決めるための、ガスケットに加える力
という定義ですね。
種類 | m | |
ジョイントシート | 2.0 | |
フッ素樹脂 | 2.5 | |
フッ素樹脂ジャケット | 3.5 | 中芯ジョイントシート |
渦巻ガスケット | 3.0 | |
メタルジャケット | 3.5 | ステンレス |
メタルソリッド | 6.5 | ステンレス |
メタルソリッドガスケットを除いてほぼ同じ値(2~3.5)ですね。
実際にガスケット係数の値で、ガスケットの選定をすることはほぼないので、私も気にしたことはありません。
特にバッチの世界では、
- 配管内圧=フランジ耐圧
- フランジ呼び圧力はJIS10k
- ガスケットに掛かる圧=フランジ呼び圧力×ガスケット係数
- ガスケットに食わる圧を考慮してフランジ規格(ボルトサイズ)が決まっている
という関係があって、ボルトだけを個別に選ぶという機会がありません。
高圧の世界でフランジ・ボルトナット・ガスケットをちゃんと決めるときには、ガスケット係数も考えましょうという話です。
ガスケット係数がなぜ耳に残るかというと、ガスケットの特性を示すデータとしてガスケット係数が言い易いからという単純な理由だと私は考えます。
その新しいガスケット、ガスケット係数はいくら?
上司からこう言われれば、慌てる若手の人はいっぱいいます。
それで知っている感を出したい上司が多いということで・・・。
最小締付圧力y
最小締付圧力yを同じように見てみましょう。
最小締付圧力yは
ガスケット締付時のボルト荷重を決めるための、ガスケットに加える力
という定義ですね。
種類 | y | |
ジョイントシート | 11.0 | |
フッ素樹脂 | 19.6 | |
フッ素樹脂ジャケット | 14.7 | 中芯ジョイントシート |
渦巻ガスケット | 68.9 | |
メタルジャケット | 44.8 | ステンレス |
メタルソリッド | 179.3 | ステンレス |
これは結構な差があります。
一般にガスケットの硬さ(柔らかさ)を議論するときに登場します。
バッチの世界では、ジョイントシート・フッ素樹脂・フッ素樹脂ガスケットの間で議論が起こります。
ガスケット係数と同じく、この範囲ではあまり考えることはありません。
渦巻ガスケットやメタルジャケットガスケットを使う場合には、フランジ・ボルトナット・ガスケットをシステムとしてちゃんと考えましょう。
低圧向けガスケット(gasket)の比較
低圧向けガスケットであるジョイントシート・フッ素樹脂・フッ素樹脂ガスケットではたまに以下の議論が出てきます。
硬い
ガスケットの硬さは、ガスケットを手で触ったり、フランジに締めこむときの感覚だったりの話として登場します。
ガラスライニングなど力を掛けたくない設備が多いからこそ、気になる話。
フッ素樹脂が相対的に硬いという感覚を持っています。
最小締付圧力yの値として現れます。
3つのガスケットの中では最も高い19.6N/mm2という値ですからね。
フッ素樹脂ガスケットが生まれた理由に、柔らかさの追求(馴染みやすさ)という側面があるくらいです。
フッ素樹脂ガスケットは漏れる
フッ素樹脂ガスケットは漏れるから嫌。
昔はこういう話を聞きました。
これはガスケット係数側で現れているでしょう。
フッ素樹脂ガスケットのガスケット係数は3.5と3つの中では最大。
これは同じ使用圧力のラインでも、ボルトに掛けるべき力を大きくしないといけないという意味になります。
同じ感覚で締め付けていたけど漏れてしまった、ということがフッ素樹脂ガスケットでは多かったでしょう。
ガスケットペーストで対応することも多いですが、ペーストを嫌うプロセスでは特に慎重な扱いが大事です。
ガスケット厚みを考えると・・・
本記事ではガスケットの厚みは3mmで固定して議論しました。
ガスケットの厚みを変えるとどうなるかは、参考知識として知っておくと良いでしょう。
ガスケット厚みが厚いほど、ガスケット係数mは低く、最小締付圧力も低い
これで分かれば、ガスケットのことはほぼ理解できています。
上の表現を少し変えると、
ガスケット厚みが厚いほど、締め付けやすくなる
と言えます。
ガスケット係数や最小締付圧力が低いということは、ボルトに掛ける力を低くできるということ。
小さな力で締め付けできるなら、締付やすいというのは当然でしょう。
大きな力で締め付けないといけない場合、複数のボルトでの締付力のバランスも狂いやすくなります。
ガラスライニングなど大きな力を掛けてはいけない装置なら、小さな力で締め付けできる方が安心感があります。
配管などの小口径ではあまり考慮することはありませんが、装置などの大口径になると考えても良い部分です。
知っておくといざという時に、役経つことでしょう。
参考
関連記事
ガスケットは私の中では一定のこだわりのある部品です。入社してすぐに着手した案件がガスケットだったからかも知れません。
本記事以外にもガスケットに関する記事はありますので、さらに知りたい方は以下の記事をご覧ください。
最後に
ガスケット係数と最小締付圧力の比較をしてみました。
ガスケット係数はリングジャケットガスケット以外はほとんど変わりませんが、最小締付圧力は種類によって大きく変わります。
実際の圧力を想定したガスケット係数と、体感的な硬さに結び付けやすい最小締付圧力。
バッチプラントでは最小締付圧力の方が分かりやすいでしょう。
ガスケット係数も知識としては知っておきたいですね。
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