化学プロセス(chemical process)でとても重要な温度について解説します。
機電系エンジニアは化学工学をあまり深く理解しないケースが多く、温度を圧力などと同じ1パラメータとして理解しがちです。
温度を変えることは、化学プロセスでは様々な影響を及ぼします。
運転段階で少し調整しようものなら、その影響を思い浮かべて何を重視するか判断しないといけません。
どれだけの影響があるか確認していきましょう。
化学工学的
先に化学工学的な部分で温度に関係する話をしましょう。
この辺りは機電系エンジニアがかなり苦手としている部分です。
あまり多くを触れても仕方ありませんので、基本的な要素だけにしぼります。
反応速度
温度が変わると反応速度が変わります。
それもかなりの影響があります。
10℃温度が上がれば反応速度が2倍、などと言われます。
もちろん、個々の化学反応によって反応速度の違いはあります。
それでも2倍も速度が変われば、勝手に上げていいのかどうかちゃんと考えないといけませんね。
反応速度が速いと反応時間が短くて済むからヨシ!
というわけにもいきません。逆に
反応速度が遅くても時間さえかければ良いのでしょ?
と割り切るのも危険です。
どちらも品質異常を起こす可能性があります。
熱安定性
温度が変わると熱安定性が変わります。
温度が高い方が熱安定性が悪くなり、いわゆる熱暴走を起こす可能性が高くなります。
化学プラントで温度を安易に上げてはいけない理由は、ここにあります。
普通の製造管理者は、温度を少しでも上げる判断をするときには、きわめて慎重になります。
万が一、これで事故が起きたら、とんでもないことになる
地域住民や従業員への影響という意味でも当然大事なことですが、その人の資質を問われます。
何でここで温度を上げるという判断だけ思い切りよくやってしまうの?
という問い詰めを経営層から受けるでしょう。製造ラインから外れる確率は高くなります。
組成
温度が変わると液やガスの組成が変わります。
蒸留を考えると分かりやすいです。
組成は機電系エンジニアが苦手としている部分ですね。
液体の中にはいろいろなものが混じっているのが普通ですが、これが認識されません。
設備設計的にはややこしいので安全側に代表させた一成分で設計してしまうことが、大きな背景だと思っています。
化学プロセスで組成が変わってしまうと、品質が変わります。
設備のトラブルがあって、とりあえず温度を変えたら何とかなるかも知れないという場合でも、後処理を考えると簡単にはできません。
溶解度
温度が変わると溶解度が変わります。
組成と近い意味を持ちますが、溶解度は運転上大きな影響が出てきます。
液体に対する固体の溶解度は、温度が高い方が有利です。良く溶けます。
逆に温度が低いと溶けにくいです。単純な液体系で取り扱えばよかったものが、温度が下がることで固形分が析出してスラリーになります。
これだけでもポンプで送れない・ポンプが壊れるという問題が起きますね。
対策としてトレースやジャケットでの加温を行います。
液体に対するガスの溶解度は、温度が高い方が不利です。あまり溶けません。
排ガス処理のための水エゼクター方式では、温度が上がらないように熱交換器による冷却が大事になります。
そうしないと処理すべきガスが処理できず、大気中に拡散されてしまいます。
体積
温度が変わると体積が変わります。
ボイルシャルルの法則そのものです。
温度が高い方が体積は増えます。
ガス系で話題になります。
ガスラインの口径をいくつに設定するか?という話で登場します。
設備コストや工事の安全性という話なので、一時的なものとはいえ大事にしたいです。
圧力
温度が変わると圧力が変わります。
これもボイルシャルルと同じ扱いでも構いません。
設備装置の体積は一定なので、温度が変わった分だけ圧力が変わります。
真空系でも扱いは同じ。
真空系で高い温度で取り扱うということは、低真空側での取り扱いとなります。
プロセスの圧力が変わった分だけ、真空ポンプの制御で対応することになります。
多少の温度差では圧力として影響がでることはないですが、プロセス的には影響が出てきます。
密度
温度が変われば密度は変わります。
機械系のエンジニアは最初に思いつくのがこれでしょう。
設備メーカーも気にする部分です。
ところが、多少の温度による密度の影響はほとんどありません。
バッチ系なら代表的な密度を提示して、余裕を持たせることになるので、温度を気にして密度を調べることはほとんどしません。
化学工学的には分液などで密度の話が出てきます。
粘度
温度が変われば粘度は変わります。
粘度も密度と同じかそれよりは扱いが低いでしょう。
温度が上がれば粘度が下がります。
多少の温度差であれば影響は低いです。
ポンプで10cPを越える場合に少しずつ気にしていこうという程度です。
設備的
機電系エンジニアにも馴染みのある設備的な部分での、温度の影響を解説しましょう。
腐食性
温度が上がると腐食性が上がります。
反応と同じですね。
腐食も反応の1つ。
通常の運転条件で問題ないと考えていた材質でも、温度が上がると急に劣化する場合もあります。
バッチ反応槽の場合には、槽本体とガスラインは高い温度となり、それ以外の液ラインは低い温度の可能性があります。
コスト問題で材質を統一できない場合でも、槽本体とガスラインだけは高い温度でも耐える耐食性のある材質を選ぶ、などの選別はできるようになりたいですね。
多少の温度変化なら気にならないレベルですが、機電系エンジニアとしては最初に知っておきたいことです。
プロセスエンジニアに任せても物事は進みますけどね。
寿命
温度が変わると寿命が変わります。
腐食性に近い意味を持ちますが、高温でも低温でも寿命に影響が出る可能性があります。
温度が高い方が腐食性と同じ意味で寿命が短くなり、耐熱温度が低いゴムや樹脂系が話題になります。
温度が低くても、割れなどの問題が起きます。
腐食性と同じように短期的に影響が出ませんが、長期的には影響が出る可能性があります。
設備が壊れて原因を解析するときに、「温度のせい」にすることもたまにありますね。
放熱量
温度が上がると放熱量が上がります。
熱エネルギーのロスという意味で、断熱の話になります。
大気との温度差が付くほど、放熱量が増えていきます。
多少の温度なら影響は少ないでしょう。
割と忘れやすいのが、電気の放熱。
キャンドポンプのようなプロセス系と電気系が近い場合には、温度の影響が電気に出てくることも考えられます。
プロセス温度が高いと電気系との温度差が少なくなって、放熱量が少なくなります。
電気ケーブルの温度が上がり、電流が少なくなったり、ケーブルが燃えたりと影響が出てくることが考えられます。
多少の温度なら問題にはならないでしょうが、影響範囲という意味では知っておきましょう。
化学工学の理解は避けない方が良い
化学プラントでの機電系エンジニアリングでも化学工学は大事です。
化学のことは良く分からないと避ける傾向が強いですが、後々影響が出てくるでしょう。
1人で製造部と協力してトラブル対応をしようとしたときには、欠かせません。
化学を過度に怖がる必要はありません。
体積・圧力・密度ですら化学工学の世界。機電系エンジニアも日常的に触れる部分です。
温度と合わせて理解を進めていくことで徐々に化学工学に触れて、現場で使えるようになりましょう。
参考
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さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
化学プロセスで温度が変わることで起きる影響を簡単にまとめました。
化学工学的に反応速度・熱安定性・組成・溶解度はとても大事な要素です。
設備的には腐食性や寿命を最も気にしたいところですね。
細かい計算はしなくても、影響があるかどうかを現場でぱっと思いつくようになれば、とても使えるでしょう。
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