化学プラントの配管といえば鉄やステンレスを思い浮かべる方が多いですが、樹脂配管(塩化ビニル・ポリプロピレン)も用途によっては選択肢になります。特に排水や排ガスといった軽負荷系統では、耐酸性や施工のしやすさから有効に活用できます。
一方で、耐熱・耐圧の限界や設計自由度の低さなど、注意すべきデメリットも多く存在します。
本記事では、化学プラントにおける樹脂配管の特徴と使いどころを、金属配管と比較しながら解説します。
化学プラントでの樹脂配管の使用先
樹脂配管の化学プラントでの使用先を紹介しましょう。
- 排水配管
- 排ガス配管
あっさりしていますよね。
排水配管はポンプのシール水の排水配管のように、漏れても大きな問題はないけど、水の通り道を作りたいというようなニーズを対象としています。その気になれば、コンクリート床に溝を付けて水の通り道を作っても良いような場面。排ガス配管は除害用の吸引ファンでガスを吸わせるための配管として使います。空気が漏れこんできても良いような場面。
樹脂配管の特徴
樹脂配管の特徴をまとめました。
- 耐酸性が高い
- 有機溶媒に持たない
- 耐熱温度が低い
- 耐圧が低い
- 施工しやすい
樹脂配管の最大のメリットは耐酸性。排水でも排ガスでも酸系であれば樹脂配管は、材質選定の候補となりえます。
逆に有機溶媒には持たないと考えた方がいいです。バッチ系化学プラントでは汎用的に使用できる材質ではありません。劣化しやすい樹脂配管なので、酸にもアルカリにも耐えるからといっても信用しない方が良いです。漏れて薬傷する可能性がありますからね。
樹脂配管は耐熱温度が低いです。塩化ビニルでもポリプロピレンでも60~80℃が限界です。ポリプロピレンの方が若干寿命が長いですが、気休めレベル。
樹脂配管は耐圧も低いです。直射日光によって劣化する性質もあり、過信は禁物ですね。ポンプで液体を昇圧して送ることすらためらうレベルです。圧縮気体なんて論外でしょう。割れたら被害が大きいです。配管施工後に気密試験をして配管を割ってしまって、作業員がケガをした。なんてトラブルもあります。
施工上の特徴
樹脂配管は施工が簡単だと言われます。その具体的な内容を見ていきましょう。
軽い
塩化ビニルやポリプロピレンなどの樹脂配管は非常に軽いです。塩化ビニルの比重は1.4程度です。鉄の比重は8.0程度なので約1/6の軽さ。40Aの鉄の配管5mなら約20㎏で、化学プラントの工事作業者はこれを肩に担いで運搬します。大変です。
これが塩化ビニル配管なら約3kg。軽いですね^^ 配管の軽さは施工性に直結します。
加工しやすい
樹脂配管は加工のしやすさも特徴です。
- のこぎりで切断
- 接着剤で接着
という素晴らしい特徴があります。なぜ素晴らしいかというと…鉄やステンレス配管では溶接が必要だからです。溶接が必要な段階で、現場施工が難しいのが化学プラント。わざわざ現場の採寸をして、加工場で製作して、現場に運搬して取り付ける。これって結構面倒です。
火を使わずに現場で施工できる樹脂配管は加工性が良くて、施工性にも直結しますね。接着剤だと不安だからといって溶着をする場合は、配管の信頼性は上がりますが施工性は下がります。中途半端な特徴になってしまうので、溶着が求められる環境なら別の材質を検討した方が良いと思います。
施工後の注意点
樹脂配管は施工した後にもいくつか注意しないといけません。
日光に弱い
樹脂配管は日光に弱いです。太陽光で劣化します。数年でボロボロになります。現場で何となく手や足で樹脂配管に触れてしまうと、簡単に割れます。
変形する
樹脂配管は変形しやすいです。「加工しやすい」というメリットの逆です。温度変化に弱いので、高温の蒸気や水を流すと、配管が撓んだり曲がったりします。これは液たまりやガスたまりの要因になり、良いことはありません。
設計自由度が低い
樹脂配管は実は設計自由度が低いというデメリットがあります。
規格の縛りが厳しい
例えば塩化ビニル配管は規格で縛られ過ぎています。VP管・VU管という違いがありますが、化学プラントではVU管が普通です。
- VP管 上農水道埋設用・建築給水用
- VU管 下水用・土木用・排水用
化学プラントでは給水用に樹脂配管を使うのは避けた方が良いでしょう。建屋の天井裏などに施工した樹脂配管から、漏れたら修理が面倒だからです。排水用が一般的だと考えるとVU管に限定されます。
面間が大きい
樹脂配管は面間が大きいというデメリットがあります。面間とはここでは、フィッティングの寸法を指します。樹脂配管はエルボもチーズも面間が大きいです。
鉄の配管ならショートエルボとロングエルボという2つから選択可能です。樹脂配管なら選択肢は1つ。エルボで配管を曲げるにしても必要な面間が大きく、配管敷設の空間を圧迫してしまいます。
他の配管を敷設する選択肢をなくすという意味で、将来拡張余地が低くなるデメリットがあります。
肉厚が固定されている
樹脂配管は肉厚が固定されています。鉄の配管なら重要度に応じて配管の肉厚を変えることが容易です。VP管が薄肉・VU管が厚肉という使い分けはできますが、自由度は2つのみ。
特殊加工ができない
樹脂配管は特殊加工ができません。鉄の配管ならレデューサ代わりにレデューシングフランジを自作することができます。ステンレス配管でも同じです。こういう自由度を樹脂配管では持たせることが難しいです。
実は高い
樹脂配管は安いから世間一般で使っている。こんな風に思うかもしれませんね。
でも化学プラントレベルではそんなことはありません。少なくとも鉄配管よりは高いです。ステンレス配管と同等レベルでしょう。これが樹脂配管を化学プラントで避けたがる理由です。
漏れるかもしれず、排水や排ガスなどの条件が軽い場所でしか使えず、コストも安くない。これなら鉄配管の方が良いのではって思いませんか?一部のプラントでは樹脂配管の用途として鉄配管を使います。
SGPでも良さそうですが、ちょっとでも寿命を上げたいならSTPG370のSch40やSch80にすれば良いでしょう。
参考
最後に
樹脂配管(塩ビ・PP)は、排水や排ガスといった限定的な用途で効果を発揮します。耐酸性や施工性のメリットがある一方、耐熱・耐圧・設計自由度・コスト面では制約が多く、汎用的な材質とは言えません。
化学プラントでは「鉄やステンレスで代替できない場面でのみ」採用を検討するのが現実的でしょう。
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