化学プラントでは圧力計(Pressure gauge)をどこでも見かけます。
あまりにもありふれている計器なので、深く考えないエンジニアもいると思います。
ところが使用価値としてはとても高いです。
温度計・流量計・液面計と合わせて四大基本計器と呼ばれることも。
ポンプなどの加圧機器、真空ポンプなどの減圧機器、スチームなどの高熱設備、ストレーナなどの除去装置などの現場作業で大活躍。
圧力が高いものほど危険だから、危険状態表示として使います。
それ以外にも装置や配管内に物が存在しているかどうかを示す、存在表示としても使えます。
計器選定という意味でのエンジニアリングの価値はあまりなく、主に現地式かDCS取込をするか程度でしょう。
とはいえ、化学プラントとしては非常に大事なので周辺知識も含めて理解しておきたいですね。
圧力計はバルブ感覚で使う身近な計器です。
圧力の単位
まずは圧力の単位を整理しましょう。
現在ではPa単位が普通です。
私が入社したころはkgf/mm2を使っている人が結構いました。
今でも真空側ではTorrを使う人が居ますし、私もそうです。
Paに統一したいでしょうが、定着するにはかなりの時間が掛かりますね。
kgf/mm2
kgf/mm2は昔の単位です。今ではほとんど使いません。
しかし、体感的には非常分かりやすいです。
というより昔の単位系は体感的に分かりやすい指標を使っていますね。
1kgf/mm2は1mm2の面積に1kgの荷重がかかったときの圧力。
非常に合理的な単位です。
1kgf/mm2が大気圧と等しいというところが最大のポイント。
1kgf/mm2 ≒ 100kPa ≒ 大気圧
便利だけど、使い方を間違えると大問題です。
例えば「400kPaのポンプ圧力が~」という意味で、「4キロの~」という表現を使うと、大混乱!
それは4kgf/mm2のキロなのか、4kPaのキロなのか
冗談のように見えて問題になります。
特に真空系ではこれが致命的な問題になることも・・・。
水柱
mmAqは今でも現役で使います。
水柱とは圧力を水の高さに換算する発想です。
100kPaの大気圧 = 10m水柱
というのが一般的。
10m×9.8m/s2×1,000kg/m3 = 98,000N/m2 = 98kPa
という関係です。
水柱は微圧の測定に使います。マノメータですね。
水の高さで圧力を測定するので、100mmの高さの差が1kPaの差として検出できます。
透明のチューブと水があれば測定可能という点もメリット大!
この関係を使って、真空系の熱交換器を水封式真空ポンプから10m以上高い位置に設置します。
Full Vacuumの系内で外気の大気圧の影響を受けても、水は10mまでしか上がらないので、熱交換器を10m以上の高さにすると、プロセス中に逆流しないという発想。
水銀柱
水銀柱は水柱より昔の話です。
mmHgとして使うよりもTorrとして使うことの方がまだ機会は多いでしょう。
学校の理科で学ぶときに、基本的な圧力の単位として出てくると思います。
760mmHg = 101.3kPa
バッチ系では真空計にしか使わず、kPa単位で表現すればいいものを、年配の人間のためだけにmmHgの併記をしたりします。
最近はそれも少なくなり、kPa単位で通そうとする人が増えてきました。
kPaとmmHgが大体8倍の差、という数字の差を知っていれば暗算で済む世界です。
ブルドン管圧力計
ブルドン管は下の図のような構造です。
- 金属をCの字に曲げている
- 一端開放、他端閉止
という構造をしています。
開放している端に圧力を持った流体が加わると、ブルドン管内に圧力を持った液体が流入します。
そして、他端まで流体で満たされます。
圧力を持ったCの字管は、変形します。
この変形量を目盛を付けて目視で確認する構造が、ブルドン管圧力計です。
圧力を変位で検出する機構です。
金属は変形するため、以下の事項が要求されます。
- 塑性変形しにくい。弾性変形しやすい。
- 変形のヒステリシスが少ない。
この辺りの条件を満たす、汎用的な金属としてSUS316などがあります。
ブルドン管だけに着目してしまいますが、リンク機構部も一応は寿命を持ちます。
一般的な金属部品で成立しているので、技術は確立されていて、気にすることはあまりないでしょう。
壊れたら交換すればいい
これくらいの軽い考え方で使用できます。
隔膜
ブルドン管には流体が流入します。
腐食性の高い薬液や、固形分の多いスラリーなどがブルドン管に流入すると、誤作動を起こす原因になります。
そこで隔膜式という考えが出ます。
図のフランジ部にダイヤフラム膜を挿入しておき、プロセス流体の圧力をダイヤフラム膜を介して、ブルドン管側に伝えます。
ブルドン管には特殊な液体を充填しておきます。
ダイヤフラム膜として、ステンレス、タンタル、PTFEなどがあります。
この発想は、差圧式液面計などでも使う、汎用的な手法です。
サイフォン
スチーム等の高温流体に対して使用します。
ブルドン管に高温流体が入ると、ブルドン管の弾性係数が変化して誤差が起きることがあります。
サイフォン管に水を封入しておくと、スチームの高温液を冷やす効果があります。
それでも圧力は測定可能。
サイフォン管内には水が充満しており、スチームがサイフォン管に加わると、サイフォン管内の水はブルドン管側に移動します。
その結果、ブルドン管内には水もしくは空気が混入している状態になります。
スチームを長期的に流していると、サイフォン管内の水は蒸発すると予想できますが、
サイフォン管が大気の温度と触れているため、大気によって冷やされて、一部の水がサイフォン管内に常時充填されている状態が継続されます。
その結果、ブルドン管内にはスチームの高温流体が入りません。
サイフォン管の長さは、使用するスチームの温度で決まると考えて良いでしょう。
電気式圧力伝送器
電気式圧力伝送器の本質は、力を電気の信号に変換することです。
力のエネルギーを電気のエネルギーに変えることは発電機、電気のエネルギーを力のエネルギーに変えることはモーターの役割です。
- 力のエネルギー → 電気のエネルギー 発電機
- 電気のエネルギー → 力のエネルギー モーター
ここでは、力は物理学上の力学的な力、物理的な力を指しています。
〇〇力という意味合いで、力という表現を多用している現在では、
「力」という一文字で表現するのは少し抵抗がありますね・・・。
話がそれました。
発電機やモーターは、エネルギーを対象としていて、信号とは多少違います。
必要な信号の容量が違いますね。
モーターでは大きな電気を使いますが、伝送器では必要な電気量は小さいです。
440Vの電圧が必要か、24Vの電圧で十分か、という判断の方が速いでしょうか。
ダイヤフラムと静電容量
力の情報を、電気の情報に変換するためにはどうすればいいでしょうか?
答えはダイヤフラムと静電容量です。
ダイヤフラムが力によって変形する特性を利用します。
高圧側・低圧側にダイヤフラム膜を張っておき、その中に液を封入します。
封入液は電荷を貯めることができる液体です。
高圧側が反応容器、低圧側が大気というケースが多いでしょう。
高圧側のダイヤフラム膜に圧力が加わると、ダイヤフラム膜が変形して、高圧側の液体の圧力が上がります。
この力を受けて、中央部に取りついている可動式のダイヤフラムが変形します。
電気回路的には下の図のような移動をします。
コンデンサの静電容量は電極の距離に反比例しますね。
コンデンサの静電容量が変わることで、交流電圧を流した時の、電流が変わることを利用しています。
この辺は電気回路の話や、電磁気学的な話になりますので省略します。
広く応用ができる
ダイヤフラムと静電容量という物理的には基本的な要素で組み立てているので、応用が非常に効きます。
- 圧力計として圧力を検知
- 液面計として液体の圧力を検知
- 流量計として流体の圧力を検知
圧力計・液面計・流量計に使えるということで、温度計以外のバッチ系化学プラントのプロセス計器のほぼ全てに使えます。
私はこれを基本的な信号変換器と考えています。
液柱式圧力計
液柱式圧力計として有名なのがU字型マノメータ
U字型マノメータとは下の図のようなものです。
物理の教科書で出てきそうな簡単な構造です。
U字の底に液体が入っていて、U字の左右に別の液体や気体が入る。
U字の左右の圧力差が、U字の底の液体の高さ差で表現される。
という仕組みです。
微圧計として使える
U字型マノメータは微圧計として使えます。
1mAqなら10kPa、50cmAqなら5kPa。
ファンやスクラバーなど微減圧にしたい場合には、5kPa程度の圧力がターゲットになります。
ここで微圧計を使っても良いですが、U字型マノメータを使っても良いでしょう。
特にお金が無くて、自前でなんとかしないといけない場合には活躍します。
現場レベルの改善では今でも活躍しますよ。
水の管理が必要
マノメータの肝は中の液体です。普通は水。
この水の管理をしないといけないというのが、問題です。
特に初めて使う系に対しては、慎重に。
気が付いたら、水がなくなっていた。ということは良く割ります。
- マノメータ前後の圧力が触れて、水が吹き飛んだ。
- 気温や周囲の温度環境によって、水が蒸発したり、凍結したりする。
こういった問題が起こります。
法律法規
圧力計は古典的な計器なので、液面計と同じように法律法規で制約があります。
消防・労安法・高圧ガスそれぞれを見ていきましょう。
消防
消防関係では下記の規制が大前提にあります。
危険物の規制に関する政令 第九条十六 危険物を加圧する設備又はその取り扱う危険物の圧力が上昇するおそれのある設備には、圧力計及び総務省令で定める安全装置を設けること。 |
「危険物を加圧」という文言が記載されているので、プロセス送液ポンプ全てが該当します。
ボイラー
労働安全衛生法としてはボイラーが最初でしょう。
ボイラー構造規格 第六十六条 蒸気ボイラーの蒸気部、水柱管又は水柱管に至る蒸気側連絡管には、次の各号に定めるところにより、圧力計を取り付けなければならない。 |
ボイラーはバッチ系化学プラントとしては特殊な設備なので、ここの圧力計は特殊な扱い
圧力容器
労働安全衛生法としては、ボイラーのほかに圧力容器があります。
圧力容器構造規格には一圧、二圧それぞれ記載されています。
圧力容器構造規格 第六十八条 第一種圧力容器には、次の各号に定めるところにより、圧力計を取り付けなければならない。 一 コック又は弁の開閉状況を容易に知ることができること。 二 圧力計の目盛盤の最大指度は、最高使用圧力の一・五倍以上三倍以下の圧力を示す指度とすること |
圧力容器構造規格 第七十三条 前編(第二条の表第二号から第四号まで、第四十三条及び第四十五条から第六十二条までの規定を除く。)の規定は、第二種圧力容器について準用する。 |
バッチ系化学プラントでは二圧の汎用容器が非常に多く、200kPaを越えるスチームを日常的に使用します。
そのため、スチームラインに圧力計を付けます。
ストレーナ
ストレーナは機械屋が注意が行き届きにくい分野です。
しかし、労働安全衛生法ではちゃんと通達レベルで記載があります。
労働安全衛生規則第272条第2号ただし書及び特定化学物質障害予防規則第16条第2号ただし書の装置について 1 バルブ又はコックが確実に閉止していることを確認することができる装置 415号通達では、「バルブ又はコックが確実に閉止していることを確認することができる装置」について、「ストレーナ等を開放し、又は取り外すことなく、これらのバルブ又はコックにより完全に危険物の流れがしゃ断されていることを確認することができる装置」とされているが、当該装置には、当該ストレーナ等に直結する配管内への危険物の流入を検知し得る圧力計が含まれるものであること。 |
バッチ系化学プラントではストレーナを非常に多く使います。
高圧ガス
高圧ガスはその区分が非常に多いですが、基本規則である一般高圧ガス保安規則に、以下のように定めています。
一般高圧ガス保安規則 第六条十九 高圧ガス設備には、経済産業大臣が定めるところにより、圧力計を設け、かつ、当該設備内の圧力が許容圧力を超えた場合に直ちにその圧力を許容圧力以下に戻すことができる安全装置を設けること。 |
高圧ガスというからには圧力計を付けるのは当然でしょう。
バッチ系化学プラントでは高圧ガス設備が少ないので、これも特殊扱いです。
参考
関連記事
さらに知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最後に
化学プラントで使用する圧力計の種類と特徴を比較しました。
ブルドン管圧力計・電気式圧力伝送器・液柱式圧力計
機械関係ではブルドン管圧力計だけを考えがちです。
制御には圧力伝送器を使いますし、液面計にも同じ考えで使用できるので汎用性が高いです。
化学プラントの設計・保全・運転などの悩みや疑問・質問などご自由にコメント欄に投稿してください。(コメント欄はこの記事の最下部です。)
*いただいたコメント全て拝見し、真剣に回答させていただきます。