化学プラントでは常々設備投資がなされます。
機械系エンジニアなら見積から始まって、工事設計や工事完成を経た後に、設備保全を行って、最終的には廃棄という設備のライフサイクル全般に渡る関わり方をします。
やりがいのある仕事です。
ところで、この「見積」の部分。
設備投資の目的によって、ニュアンスが少しずつ変わってきます。
会社によって考え方や仕分けかたが多少変わるかも知れませんが、こういう考え方もあるのだと参考になれば幸いです。
この使いわけがしっかりできていれば、エンジニアとしてはとても重宝されるでしょう。
法的要求
設備投資の中でも絶対に外せない目的に、法的要求があります。
化学工場なら消防法や労安法などの保安系の方もありますが、例えば医薬ならGMPなど、他にも要求されることはいっぱいあります。
この要求に答えられそうにない設備には、最優先で投資がなされるべきです。
一発アウトで生産できなくなるリスクがあります。
会社としても予算を割り当てないといけないので、スピード重視で質は多少落ちても良いとかんがえましょう。
こういう見積依頼に対して、エイヤッと数日で概算の見積を出せるエンジニアはとても大事です。
補修・修繕
補修や修繕は、日々の設備の劣化に対して割り当てる投資です。
毎年決まった額を割り当てることが多いでしょう。
予算を上げるためには、それなりの説明が求められます。
- 物価高騰でエスカレーションしている
- 使用年数が経って、劣化が激しくなっている
- 生産品目や運転条件が変わって、厳しい条件での運転になっている
補修の予算は、多くの設備に対して、小さな金額の積み重ねで計算されます。
数が多いので、見積には時間が掛かります。
この場合でもスピードは大事。
小さな金額をある程度丸めて、計算を簡略化して予算を計算しましょう。
提示する金額は、どうせある程度丸めてしまいますからね。その範囲内で計算を楽にするだけ。
予算が足り苦しいのであれば、上記のような理由付けが大事です。
見積という作業以上に、設備が置かれている事情を説明するデータを集めていきます。
オーバーホール
オーバーホールは補修でも特別なもので、大きな設備や高価な設備を分解してダメージのある部品を交換します。
一式更新するには金額が高く納期も掛かるので、部品レベルでリフレッシュしようという考え方です。
TBM的な管理をし、数年に1回など頻度は少なめ。
この見積は、基本的にメーカーの見積に頼ることになります。
設備の経年劣化、物価の高騰、メンテナンスマンの不足などの様々な条件が入ってきて、とにかく高価になりがちです。
5年に1回オーバーホールをするとして、5年前と同じ金額で見積を提示すると、2倍になっていたなんてこともあります。
その時になって困らないようにするために、価格高騰の情報収集や経理との定期的なコミュニケーションが欠かせません。
見積作業とはちょっと違うアプローチですよね。
更新
補修やオーバーホールでは対応できなくなった設備は、更新をします。
この見積は、設備費と工事費を適正に積み上げることになります。
- 設備自身を定期的に購入する機会があれば、そのデータを
- 工事の単価が分かっていれば、数量を数える
こういうアプローチで見積をします。
補修・修繕と同じで、数や質との勝負になりがちです。
プラントが新しくて、1個2個くらいの更新なら良いのですが、10個も20個も見積をしようとすると結構大変です。
精度をある程度犠牲にして、スピード重視で見積ができると、重宝されるでしょう。
新製品の導入
既存プラントへの新製品の導入や、新プラントの建設などの、大きな投資があります。
この場合も、スピードが重視されます。
見積精度を高めるにも、数が膨大なので時間が掛かります。
ラング係数などのFSの手法を使ったり、簡易計算で速度を上げることが大事です。
投資が通るかどうかの判断において、詳細の見積額の差はあまり大事ではありません。
10%金額が高いから通らない、というようなものでも無いでしょう。
であれば、その精度を高めるよりはスピードが速い方が、決心が速くできて助かります。
この辺の考え方は、会社や部門で変わるかも知れませんが、機電系エンジニアは詳細の金額を時間を掛けて出しがちなので、注意したいですね。
それをするのは、工事設計が進み、物量が確定していく、工事発注のタイミングです。
合理化
設備のちょっとした改造や、配管の追加などで、プロセスの合理化ができることはあります。
新しい生産品目の導入などの、大型投資範囲内で実施したいのですが、大抵はその後で別に予算を取ることになります。
というのも、大型投資段階ではプロセスが固まって無かったり、時間が無くて検討できなかったり、設備や配管が付いていない状態でイメージできなかったり、運転実績がなかったり、といろいろな背景があります。
それらの結果が分かる試製造を行った後で、ここを変えるともっと変わる!というポイントが見えてきます。
この投資は、見積精度も大事ですが、見積額の感覚を持つことが大事です。
起案部門であるプロセス検討者は、この辺の感覚を持っています。
というのも変動費をしっかり認識し、投資額に対する合理化効果を見定めることができるから。
(1000万円くらいなら、メリットあるかな・・・)
プロセス検討者がこう思っていても、見積を依頼する時にはそれを表現しなければ、
詳細に見積もったら、3000万円になりました!
こんなことになりがちです。それも時間を掛けるだけ掛けた結果として。
こういう場合は、「しっかりした設備投資ではなく、簡易的な投資で1000万円くらいに抑えたい、そういう見積案を考えてほしい」というイメージがありがちです。
見積内容とその背景を知り、その案に近づけるための努力が必要です。
これができるエンジニアはほとんどいません。できる人は企画系の部門で活躍できるでしょう。
改善
改善は合理化の1つですが、少し規模が小さいです。
製造課内で考えて、小さな金で何とかしたいという類のもの。
これも合理化と同じで、金額感のイメージを持つことが大事です。
合理化よりも、コストを抑える感覚が大事。しっかりした工事ではなく、お手製感あふれる工事が求められます。
というのも製造課内で使える金額は高くはないからです。
しかし、この案件はとても大事で、真剣に取り組みたいもの。
製造課のメンバーが考えた案が、予算をもらえて改善工事ができるとなれば、製造課はやる気が出てきます。モチベーションアップです。
このサイクルを回していくことは、結果的に工場を良くする方向となるでしょう。
参考
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最後に
化学プラントの設備投資はその目的別に、法的要求、補修・修繕、オーバーホール、更新、新製品の導入、合理化、改善などに分類できます。
スピード重視、データ集め、目標感の共有など、見積作業そのものよりは考え方で変わる部分が大きいです。
どのケースで何が重視されるか会社によっても分かれるので、スピード重視でコミュニケーションの回数を重ねるトライアンドエラーが結果的に早道になると思います。
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