プラント設計のような巨大な額の投資では、一度建てると何十年と使うことを前提とするために、概念設計がとても大事になります。しっかりとした文書などに残っている会社はあまり多くはなく、特にユーザーエンジニアの間では、一子相伝的に個人の頭の中で引き継がれている場合もあるでしょう。私の会社でもそうです。
この考え方は、頭の中にあるだけでは忘れてしまうのでは?という不安があります。いつでも見返せるように、文書にしようというのが今回の取り組みです。
この記事では、プラント建設費を構成する要素を体系的に見渡し、機械系エンジニアが全体を把握するための視点を紹介します。プラント設計の考え方の1つを知ることができます。プラントの特性などによって考え方が変わる場合もあると思いますので、1つの考え方として参考になれば幸いです。
プラント建設費と部門の関係
最初にプラント建設費と部門の関係を考えます。プラント建設費は担当するエンジニア以外の、いわゆる一般の目線では「総額」に着目します。
ところが、実際のエンジニアは大きく「設備」「土建」「電気」「計装」の4部門に分かれています。それぞれの部門では例えば以下のような建設費の割合になっているかも知れません。
このケースは単純に、4部門に均等に割り当てられているイメージです。でも、これは普通は起こりえないです。
より現実に近いイメージとしては、例えば下のようになります。
「設備」の割合が高く、「電気」「計装」の割合が低いイメージですね。この割合の精度は、プラントの特性によって変わります。ここで大事なことは、以下のことです。
- 「設備」「土建」「電気」「計装」の4部門に予算が配賦されている
- プラントの特性によって割合が変わる
- 自プラントの割合を把握していると、簡易計算が可能
3番目の部分が大事で、ラング係数という考え方を使います。
設備と建屋がメイン
化学プラントではプラント建設費は「設備」と「建屋」の割合が高いです。この金額感を把握できていると、スピード感のある投資判断ができるようになるでしょう。
私のような設備関係のエンジニアが、建設費の取りまとめをする理由がここにあります。
設備はプロセスに直結
設備というのはプロセスに直結します。設備の能力が生産能力を決めると言って過言ではないため、設備の情報が投資にとっても大事になります。
特に分かりやすいのは、設備本体の金額。ポンプ1基で何円、熱交換器1基で何円・・・という情報は分かりやすい情報であるので、機械エンジニアだけでなくプロセスエンジニアなどにも共有される情報です。
設備の改造を考える場合にも、投資を判断するの最初の段階は設備本体です。プロセスエンジニアや製造課とやり取りをしていく中で、投資に対する考え方を自ずと身に付けていくのが機械エンジニアです。機械エンジニアが建設費の取りまとめをする理由の1つになります。
材料と工事への分割
4部門の建設費を、もう1段階細かく見てみましょう。材料と工事という2つに大きく分けたイメージです。
部門 | 割合 | 材料 | 工事 |
---|---|---|---|
設備 | 50.0 | 20.0 | 30.0 |
土建 | 25.0 | 10.0 | 15.0 |
電気 | 12.5 | 5.0 | 7.5 |
計装 | 12.5 | 6.0 | 6.5 |
私は設備系の設計エンジニアです。建設費を材料と工事と2つに分けた場合の、材料側の担当です。実際には設備で材料という表現をするのは相当の抵抗感がありますが、設備以外の部門から見ると材料と考えるのが妥当です。
ここで示した材料と工事の割合は単なる一例ですが、私の場合は建設費全体の20%程度しか担当していないことになります。その20%を担当している人が、取りまとめとして建設費100%の金額感を持つことが求められます。
そのためには、各部門がどれくらいの割合の費用なのかを、経験的に知っておくことが大事です。
工事や土建へ興味を寄せる
設備を担当するエンジニアで建設費を取りまとめする場合は、工事や土建への興味を寄せる必要があります。
設備の材料部分だけをしているだけでは、プロセスエンジニアからの「ざっくり総額いくら?」という質問に答えることができません。その都度「各部門に聞かないと分かりません」と答えることになるでしょう(最近なら、「プロセスエンジニアが各部門に確認してください」と取りまとめを放棄する設備エンジニアも居ますが・・・)。
少しずつでいいので、興味関心の範囲を広げていくのが良いです。最初は、設備に関する工事の費用を知っていくと良いでしょう。設備の据付、配管工事、断熱工事、足場工事くらいが大きなファクターを占めます。細かく見ていく前に、材料に対する工事の割合(上表でいう、材料20.0に対する工事30.0)の把握が大事です。
同じように、土建へも興味を向けましょう。これも工事と同じで総額の割合を把握することが大事です。
各工事の単価を把握していくのは、経験を積みながらで良いと思います。専門家がいっぱいいるので、分からなければ聞く勇気も大事です。
電気と計装は安い
電気や計装に関する知識は、機械エンジニアとしては後回しでも大丈夫だと考えます。私も総額の規模感しか理解していません。
大事なことは、プラント建設では設備や土建が大きなウェイトを占めるということ。電気と計装が良く分からない分野でありながら、取りまとめである以上はある程度は知っておかないといけない、というような責任感はあまり必要ではありません。電気と計装の費用を機械エンジニアとして見積しないといけない場合に、多少間違っても総額に影響がほぼ出ないと分かっていれば、自信に繋がるかも知れませんね。
逆に、電気エンジニアや計装エンジニアは建設費に占める金額割合が低いために、プラント建設費の総額を見積もることが難しいです。そこは機械エンジニアに一任しています。
建設費を左右する要素
自身が担当するプラントの建設費をある程度把握できるようになると、今度は少し広い目線で考えれるようになるでしょう。それが、建設費を左右する要素の把握です。
材質
建設費を左右する1つに、材料費があります。材料が変わる要素は、ほぼ設備関係。
例えば、タンク本体でもステンレスなのかグラスライニングなのかで2倍程度の差があったり、配管だとさらに大きな差があったりします。
プラント全体をステンレスで組み上げているプラントの場合、建設費全体のうちの設備割合が下がっていきます。上表の設備50.0%ではグラスライニングを視野に入れた仮定なので、ステンレスの場合だと、4部門の割合が変わっていくでしょう。
部門 | 割合 | 材料 | 工事 |
---|---|---|---|
設備 | 40.0 | 25.0 | 15.0 |
土建 | 30.0 | 12.0 | 18.0 |
電気 | 15.0 | 6.5 | 8.5 |
計装 | 15.0 | 7.0 | 8.0 |
繰り返しますが、表中の数字は一例です。この例では、材質が違うプラントだと、ラング係数が変わるという点にだけ着目してください。(5から4に変わっていますね)
自動化
プラント建設費には、自動化の割合は1つの影響を与えます。自動化の度合いは会社やプラントによってさまざま。反応器単位では
- 全手動
- ジャケット周りだけ自動化
- プロセス周りも全自動
くらいの違いがあります。上表では、全自動を視野に入れているので、逆に全手動の場合だと、以下のようなイメージになります。
部門 | 割合 | 材料 | 工事 |
---|---|---|---|
設備 | 45.0 | 28.0 | 17.0 |
土建 | 35.0 | 14.0 | 21.0 |
電気 | 20.0 | 9.0 | 11.0 |
計装 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
自動化をしないなら、計装の費用がゼロという単純な結果です。自動化の程度と影響範囲は、計装の費用から範囲を絞り込めるということが、ポイントです。
3つの表はそれぞれ全体を100とした割合で表現していますが、土建や電気の費用は変えてないので3つの表の差を簡単に比較してみましょう。
項目 | グラスライニング 全自動 | ステンレス 全自動 | ステンレス 全手動 |
---|---|---|---|
総額 | 100 | 83 | 68 |
設備 | 50 | 33 | 33 |
土建 | 25 | 25 | 25 |
この比較を眺めていると、土建費はかなりのウェイトを占めていることが分かりますね。
参考
最後に
- プラント建設費は「設備・土建・電気・計装」の4部門に分かれる
- 機械エンジニアは自分の担当分だけでなく、全体像を把握する必要がある
- 材質や自動化の程度で建設費は大きく変わる
- ラング係数を使えば、設備費から全体の概算ができる
設備系エンジニアが他部門にも少しずつ興味を持って、全体像を見渡せるようになると、設計や投資判断の幅もぐっと広がってきます。
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