化学プラントでよく使用される撹拌機ですが、モーターの回転数は固定でありながら、装置としてはもっと遅い速度で回す必要があります。そのため、撹拌機においては減速が必須となり、「減速機」と「ベルト」という2つの代表的な装置が登場します。
本記事では、撹拌機に使用する減速装置として、減速機とベルトはどう違い、どんな現場でどちらが使われるのかについて、実務目線でわかりやすく解説します。
減速機
化学プラントで減速機を使う場面はかなりあります。
大きな減速機を得たい
減速機を使う最大のメリットは、減速比にあります。
減速比は減速前後の速度比のことで、値が小さいほど低い速度に落とすことができるという意味です。
ベルトでも変速は可能ですが、小さな減速比(低い速度)を得ようとすると複数のベルトを組み合わせる必要があります。
減速機の場合は、比較的小さなサイズで小さな減速比(低い速度)を得ることが可能。
化学プラントの装置のように、故障を最小化するためには部品を最小化する必要があり、この点で減速機が有利に働く場面があります。
減速比をその場で変えたい
特殊な場合ですが、減速機だとその場で減速比を変えることが可能です。
バイエルサイクロ減速機と呼ばれるタイプです。
ベルトの場合だとプーリーを変えることになって運転停止が必要ですが、バイエルサイクロ減速機はその手間が発生しない分有利です。
もっとも、自動化が進んだプラントなら、バイエルサイクロ減速機ではなくインバータを使うので、減速比はもっと簡単に変えられるようになっています。
予測しにくいトラブルを回避したい
減速機もベルトも使っていくうちに故障はしますが、その原因は減速機の方が分かりやすいです。
減速機の方が構造は複雑ですが、パッケージ化された装置なので設備の負荷に純粋に左右されるだけ。
一方で、ベルトの場合は密閉化されていないので、周囲のガス・粉体・雨風の影響を受けます。
何か問題が起きたときに減速機なら「たまたま」で済ませられても、ベルトなら要因をいくつも考えないといけません(たまたまで済ませられる場合もありますが)。
ベルト
化学プラントでベルトを使う場合は、実はあまり多くはありません。
メンテナンス費を抑えたい
ベルトを使う場合、メンテナンス費を抑えることが期待できます。
減速機のメンテナンスは意外とやることが多いです。
- 減速機の分解整備は技能が必要
- 現場から取り外さないと整備ができない
- 減速機は部品点数が多い
- 減速機は運転中に潤滑油の管理をしないといけない
ベルトでも大なり小なりメンテナンスは必要ですが、全体の費用としては減速機よりも低いです。
もちろん購入費も低いですね。
設置スペースを最小化したい
ベルトだと設置スペースを最小化しやすくなります。
減速機だと設置方向が限定化されてしまい、設備が長くなってしまいがち。
ベルトだと設置方向を変えることができるので、縦・横・高さ方向に位置を変えて、全体をコンパクトに抑えることができます。
設置スペースが狭い工場であればあるほど、このメリットは大きくなります。(私も実感しています。)
安全を気にしないといけない
ベルトの場合、安全対策を取らないといけません。
- 挟まれ巻き込まれのカバーが必要
- 静電気着火を抑えないといけない
ベルトの健全性確認のために、たわみ測定をしますが、挟まれ巻き込まれの温床となります。
化学プラントの場合、静電気着火のリスクもあります。
便利なベルトですが、問題になることも多いのでベルトを嫌う会社や工場もあると思います。
参考
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最後に
撹拌機の駆動における減速装置として、減速機とベルトにはそれぞれ特性があります。
- 減速機:大きな減速比、高トルク、信頼性重視の場面で有利
- ベルト:コスト・スペース重視、安全対策が可能な現場で選択
どちらを選ぶかは、設備の構成・設置環境・保守方針などによって変わります。
撹拌機設計では、減速装置の選定が装置性能と運用コストのバランスを左右するため、現場の実態を踏まえて適切に判断することが重要です。
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