化学プラントでは、運転データや設備トラブル情報、設計書など、さまざまな情報が共有されています。これらのデータが実際に活用されているかというと、必ずしもそうではありません。
本記事では、データ公開が期待通りに機能しない背景と、その改善策について考察します。
この記事は、DX実態シリーズの一部です。
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なぜデータ公開は増え続けるのか
化学工場でデータ公開が増え続けるのはなぜでしょうか?典型例としてPIデータを考えましょう。化学工場で扱うデータといえばDCSのデータ。PIシステムなどで、各種計器のデータを記録して、計器室以外でも情報が見れるようにする仕組みです。
人に依存しない仕組みつくり
会社で仕事をしていたら、さまざまな部署でデータや情報を取り扱い、それらを共有する仕組みを作ることが求められます。いろいろな背景が考えられますが、例えば以下のような理由は容易に思いつきます。
- ある人に聞けば分かるがその人が居ないと分からなくなる
- 聞けばわかるけど、その手間を省きたい
- 手動で記録せずに、自動で記録したい
化学工場でももちろんこのニーズはあります。○○システムの乱立です。人に依存しない仕組みつくりという綺麗な表現でデータ公開は進んでいきます。
責任回避としての全公開
PIデータの公開は責任回避の一面を持ちます。製造部内で情報を持っていて問題が起きた時だけ公開するというのは、外部から見ると不信感を抱きかねません。だからこそ運転データはすべて公開して潔白を示そうと考えるのも当然。
オペレータとしては相当嫌がります。自分たちが仮にミスをしたらそれを隠すことができず、仮にリカバリーしても怒られたり処罰されたりするだろう、と考えます。この思いは無視されたままデータは公開されます。
技術的に可能だからやってしまう
PIデータの公開に代表されますが、技術的に可能だからやってしまうという展開が多いです。DXで業務を革新しないといけないとなると、現在より変化する目的で情報公開をしてしまいがち。今までブラックボックスだったものが公開されて改善した、となります。
各部署で持っている情報をオープンにすることは技術的に可能のでやってしまおうとなるわけです。
減らす判断ができない
データを公開することは無料に近いからどんどんやってしまおうと進めてしまうと、減らす判断ができなくなります。通信速度の問題ではなく、データのアップデートの問題。
公開されたデータはフォルダ管理などあまり考えずに作られているはずです。その時は良くても、例えばプラントの増減や生産品目の増減といった、データ管理の大幅な変更があった時に、フォルダの整理が追い付かずに何を減らせばいいのか分からなくなります。
プラントにしろ生産品目にしろ、いったん使わなくなったとしても未来永劫使わないという保証は誰もできません。数年後にやっぱり作る必要があったとか、撤去したプラントのこの情報が欲しいとか、ユーザーとしてはいくらでも出てきます。そうするとデータは消せない。
ほかにも、部門を変えたりなどして管理場所を変更すると、データの移管だけでも労力がかかります。データさえなければ問題なかったのに、データがあるがゆえに工数がかかってしまうという効率化と逆の道に進んでしまう可能性すらあります。
情報の過剰化が生む副作用
情報が多い化学プラントでデータを整理できていないまま活用しようとすると、必ず副作用が出ます。具体例を紹介しましょう。
PIデータの実質未活用
PIシステムを使う側から見ると、実態としてはほとんどの人が見ません。見るのはそのプラントを管理する製造管理者くらいです。その管理者ですら毎日見ているとは限りません。見て、オペレータが考えるような展開を持っていくことも基本ありません。よほどのミスでない限りは、そういう指示をした管理者自身に責任が回ってきます。
計器室以外で見れるということでプロセス開発者や企画系の人も見るだろうと、製造管理者やオペレータは考えがちです。ところが、これもほぼありません。膨大なプラントの運転データを製造管理者と同じように毎日見るには相当の時間が掛かります。その暇があれば別の仕事をしています。製造管理者から問題があったり改善しようとしたときになって初めて運転データを見に行くというのが実態です。
見られていると思うと気持ち悪いのですが、実際には誰も見ていない。この事実に気が付くには私は相当の時間を掛けてしまいました。
設備トラブル報告の肥大化
設備トラブルが起こったら、その情報を共有する仕組みが考えられるでしょう。この仕組みを導入しても見る人は少ないです。
システムとしては結構難しいもので、故障パターン別や故障モード別の解析をしようものなら、判断に時間が掛かります。その解析よりも先に対策を取ることを優先するので、終わったらまた別のトラブルを対応することになります。トラブルが起きたらその情報をキャッチして専任で管理する人が必要かもしれません(それが本来の保全の仕事であるはずですが)。
またトラブルが起きてその情報を公開するには、そのドキュメントを作る能力が求められます。この辺は企業文化にもよるでしょう。
- 変な情報を出したら責任論になる
- 論理的に疑わしい表現になっている
- 原因分析や対策が書けない
- 承認する際に、多くのコメントが出る
- ドキュメントを発行したら、すぐにコメントが出る
仕組みの問題が大きく承認ルートを広げすぎたり、質問の窓口を一本化したりなど、考えられなくはないです。
ドキュメントを発行する際にはいろいろと抵抗されますが、いざ発行して数年も経てば誰も何も言わなくなります。当時の人が異動してしまって経緯を知らなくなるからですね。こうして情報を集めていけば良いのですが、最初の抵抗感が大きいと仕組みが回らなくなります。
システムにドキュメントを入力しても、それを都度チェックする人が居ない点は、PIシステムと同じです。毎回毎回チェックするのは相当の工数が掛かります。入力したら関係者全員にメールが行く仕組みでなくて、気が付いたら入力されていた(そもそもそんなシステムがあったことすら他部門は知らなかった)くらいでも良いかもしれません。
ドキュメントそのものを作ることに抵抗がある人も多いのも問題ですね。だからこそ、口頭で出回る情報を記録と共有をしたいのですが・・・
設計書の形式化と空洞化
設計書も設備トラブルと同じような運命をたどります。設計書も書いて発行する時には抵抗感がいっぱいあります。
設計書は設備トラブル以上に、書く内容が難しく、完了するまでの時間も問題になります。結論だけを書いて、背景を書かない設計書も多いです。意味のない設計書を無機質に書き上げても、見る人が少なければまさに無駄。
書こうとする担当者は、それが多くの人の目に触れるかも知れないと思うと手が出にくくなります。製造管理者はこの情報があれば、わざわざ設計者に聞かなくても対応できるかもしれないのに、都度設計者に聞かないといけなくなり、困ります。それ以外の人は、設計書に触れる機会すらあまりないでしょう。
設備の過剰仕様化と同じ構造
設備設計では、安全側に倒すことで高価・複雑な仕様になりがちです。同じように監査の私的項目も膨れ上がっていきますし、製造の品質管理や安全管理もチェック項目が増える一方です。
情報管理も同じで、「念のため残す」「全部見られるようにする」を積み重ねた結果、誰も使いこなせない仕組みになります。
目標件数の設定は意味がない
機電系エンジニアの毎年の成績目標には、定量的な指標が入れにくく、こういうシステムへの入力件数が評価になったりします。
これもあまり意味が無いと思っています。担当プラントや投資の時期によってトラブルや設計すべき機器の数が変わります。複数ある目標の1つに設定しても、結果の大小で成績が変わることは少なく、手間がかかる割に公開されて皆に見られるという想いの方が嫌だと思うでしょう。
設計や保全の難しい所です。
参考
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最後に
データ公開は悪ではありません。問題は、「どこまで残すか」「誰が見るか」を設計せずに、すべてを公開することです。
設備が過剰仕様化すると高コスト化するように、情報も過剰仕様化すれば運用不能になります。
足すだけでなく、減らす設計。それがなければ、DXは形だけの仕組みになります。
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【著者:ねおにーーと】
化学プラントで20年以上、設計→製造→保全→企画まで一気通貫で経験したユーザー側エンジニア。 バッチプラントの設備・運転・トラブル対応を中心に、現場で本当に役立つ知識を発信しています。 → 詳しいプロフィールはこちら

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