PR
化学工学

物質収支と熱収支の基礎|化学工学でとても大事

バランス設計 化学工学
記事内に広告が含まれています。This article contains advertisements.

化学プラントのプロセス設計でも特に大事な、バランス(balance design)設計について解説します。

機電系エンジニアとしては興味がない部分かも知れません。

というのもプロセスエンジニアが行う部分で、天から降ってくる設計要素だから。

収支の考え方は、化学工学の基本。

反応を詳しく知らないと収支を取れないので、機械系には難しいと感じて敬遠する人も居ます。

しかし、得られた結果を適切に使う分には恐れることはありません。

バランスに関してどういうことを考えるのか、発想にスコープを当ててみます。

マテリアルバランスヒートバランスの2つがキーワードです。

バランス感覚の良い人のイラスト(棒人間)

マテリアルバランス

マテリアルバランス(material Balance)は物質収支と呼ぶこともあるでしょう。

ここでは省略してマテバラと呼びます。

マテバラは、化学プラントの各ポイントにおける物質のバランスを示したものです。

そのポイント内で流入・流出するすべての物質について、質量流量・体積流量・濃度などの各種の組み合わせを一致させないといけません。

例えば、水100kgと油100kgをタンクに入れて、分液する作業を考えましょう。

この場合にタンクに視点を当てたマテバラは、例えば以下のような表現をします。

水油受入後分液排水分液廃油
100kg0kg100kg100kg0kg
0kg100kg100kg0kg100kg

これくらいの表現でも良いですが、工程をちゃんと考えてもう少し細かく書いた方が良いでしょう。

水受入後水油受入後分液排水排水分液後分液廃油廃油送液後
100kg100kg0kg100kg100kg0kg0kg0kg
0kg0kg100kg100kg0kg100kg100kg0kg

ちょっと分かりにくいですよね。

表を少し変えると分かりやすくなります。

受入タンク内払出
水10kg
油10kg
水2100kg100kg
油20kg0kg
水30kg100kg
油3100kg100kg
水40kg100kg
油4100kg0kg
水50kg0kg
油50kg100kg

こんな感じで工程ごとに細かく分けて物の量を整理していきましょう。

この例は非常に簡単化していますが、実際には純粋な水でなければ純粋な油でもなく、排出される組成とタンク内の組成は違ったりします

蒸留などが入ってくると複雑さは一気に増すでしょう。

専用の計算ソフトで解析したり、実験データを使ったりして、バランスをまとめていきます。

そんなマテバラからエンジニアリングで使う情報を、ザックリ紹介しましょう。

マテバラからできる設計要素
  • タンク容量
  • ポンプ能力
  • 配管口径

化学プラントのプロジェクトの根幹をなす、主要設備の主要情報を決めるために、マテバラを使います。

プロジェクトの初期段階、とくに基本設計としてマテバラはとても重要ですね。

ヒートバランス

ヒートバランス(熱バランス)は熱収支という言い方もするでしょう。

物の移動はしないけど熱の移動をする場合に使います。

例えば反応槽で100kWの反応熱が発生する、反応Aを行ったとしましょう。

単純に考えれば以下のようになります。



反応A
反応熱100kW
冷却水100kW

これだけではバランスと言えません。

工場では別々の反応槽で個別に反応が行われ、それぞれ別の冷却源で除熱するというケースが普通にあります。

ちょっと複雑化してみましょう。



反応A反応B反応C冷凍機合計
反応熱100kW50kW200kW350kW
冷却水100kW50kW300kW450kW
ブライン200kW200kW

種類が増えてくると複雑さが一気に増しますね。

化学プラントの設計の最大の敵はですから。

この例では反応Aと反応Bは冷却水で除熱するけど、反応Cはブラインで除熱します。

ブラインは冷凍機で冷却水を使って除熱するのでその分も加算します。

反応熱・冷却水・ブラインそれぞれで熱量を合計してみたのが上の表です。

このようにしてヒートバランスから得られるエンジニアリングの情報を紹介します。

ヒートバランスからできる設計要素
  • 反応槽サイズ
  • 反応時間やタイミング
  • 熱交換機能力
  • 冷凍機能力

熱に関する情報は反応時間など工程スケジュールに関わる主要情報です。

マテバラだけでなくヒートバランスもとても大事な情報ですね。

反応熱そのものは実験値が基準となるので機電系エンジニアが関わる部分は少ないです。

しかし、その反応熱を使ったヒートバランスは機電系エンジニアならチェック可能です。

プロセス設計の範囲内ですが、ダブルチェック目的で確認することは大事ですね。

原単位

原単位とは、製品単位重量当たりの原料等の投入量のことです。

「その製品を作るために投入する資本」という言い方もできます。

原単位には原料だけでなく副生成物・廃棄物・熱・電気・空気・窒素など生産に投資する資本をすべて集めます。

物だけでなく人も含めます。

この中でも物に関する情報はマテバラやヒートバランスが基本となります。

マテバラやヒートバランスの設計原単位と、運転値から得られる実績原単位に差があれば問題です。

製造部の管理者がこだわらないといけない部分ですね。

運転後の合理化案を練る時にも使います。

例えば、油層側が製品で水洗浄をする時に油から水へ抽出される量を少しでも減らしたいと考えましょう。

この場合は水や油の温度や、水の回収などを考えます。

その費用対効果を調べるためには、マテバラと実績値をデータとして活用します。

こういう解析をすることは製造部管理者の大きな責任です。

参考

化学工学の知識は機電系エンジニアと言えども必要です。

基本的な部分から徐々に学習していきましょう。

以下のような書籍も役に立ちますよ。

created by Rinker
¥2,750 (2024/04/19 10:24:38時点 楽天市場調べ-詳細)

関連記事

詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

最後に

化学プラントで大事なバランス設計として、マテリアルバランスやヒートバランスについて紹介しました。

プロジェクト初期の基本設計で登場し、装置サイズ設計に直接影響を与えます。

運転開始してかも実績原単位との比較のために、設計原単位として活躍します。

機電系エンジニアもプロセスの話だから知らないと縦割りになるのはもったいない部分ですね。

化学プラントの設計・保全・運転などの悩みや疑問・質問などご自由にコメント欄に投稿してください。(コメント欄はこの記事の最下部です。)

*いただいたコメント全て拝見し、真剣に回答させていただきます。

  1. Sam より:

    HB,MBの具体的な設計図書の作成方法を勉強したいと考えております。
    何か市販の書籍で、参考になるものはないでしょうか?

    • ねおにーーと より:

      化学工学の基礎を計算 培風館 D.M. Himmelblau が良かった記憶があります。